東京駅丸の内駅舎づくしの旅[1]~夜景散歩~



私と東京駅

 レトロ駅舎を巡る旅をするようになって20年近くになるが、あの東京駅丸の内駅舎を本格的に見てみようという気には不思議とならなかった。2003年に国の重要文化財に指定される前から、大正築のレンガ造りの洋風駅舎は壮麗で、名建築として既に評価は高かった。もちろん私も知っていたし、東京駅は幾度となく私の旅に交錯した。

 元々、ローカル線の木造駅舎など、こじんまりとした古駅舎を訪れる方が好きという理由もあったが、有名過ぎるので今更…とも考えていた。

 しかし壮大すぎるゆえ、どう撮っていいものかずっと戸惑っていて、なかなか踏み込めなかったのもまた事実だった。


 そうこうしている内に、2012年、丸の内駅舎は大規模な工事を経て、竣工の大正当時の姿に復原された。

 そして復原から10年になる2022年、何のきっかけも無く丸の内駅舎でも見に行こうかとスッと思うに至った。

壮大過ぎる重要文化財駅舎、どこから撮影するか?

 やはり訪れるからには、駅舎全体を撮影したい。正面に立ちはだかるようにそびえるビル内のオフィスは、丸の内駅舎を見渡せる絶好のポジションで、まさに超一等席。そこで働く人が羨ましくてたまらない。

 ビル内には、丸の内駅舎に面した窓際にテーブルがあるレストランもあるのだろう。しかしそんな席は人気だろう。そして風景を愉しみながらムードある食事をする場所で、撮影に没頭するには不向き。

 しかし少し調べると、駅前のビル内に、私のような一般人にも開放されている展望台のようなスポットがいくつかある事を知った。それは正面に建つ「新丸の内ビルディング」、道路を挟み南にある「丸の内ビルディング」、そして更に南の旧東京中央郵便局舎をリノベーションした商業施設「KITTE」だ。いずれも屋外のテラスで、ガラス窓に遮られる事無く撮影できる。

復原されたJR東京駅丸の内駅舎。レンガの洋風駅舎は重要文化財

 その日の宿泊地となる東京駅…つまり東京ステーションホテルには16時過ぎに着いた、少し丸の内駅舎あたりをふらふらし、正面に出て一枚、パチリと撮影。全長335メートルと巨大な駅舎だが、左右で見事に均整がとれたレトロ感溢れる姿が美しい。

KITTE側から見たJR東京駅丸の内駅舎、南ドームの夜景

 駅舎南側にあるKITTEのコンビニで買い物をして外に出ると、もう夜の帳が降り、ライトアップされた駅舎はロマンチックなムードが漂っていた。一体、この古き駅舎が迎える何回目の夜なのだろうか…。激動の時代を超え、遥かなる歴史を紡いできたものよ。

東京ステーションホテル客室から見た駅前広場の夜景

 丸の内駅舎内にある東京ステーションホテルにチェックインした。部屋は奮発して、駅舎中央付近の皇居外苑が見えるパレスビューのスーペリアツイン。夜で外苑は闇の中だが、駅から外苑に向かって真っすぐ伸びる行幸通りがよく見える。丸の内駅舎復原完了から5年後の2017年、駅前広場の工事も完了し、行幸通りに続く風景は、まるで公園か遊歩道のよう。一日40万人を超える駅の駅前とは思えないゆったりとした空間だ。

闇夜に浮かび上がるJR東京駅丸の内駅舎、中央部分

 部屋で一休みして、夜景の撮影にと外に出た。明日の天気予報は雪。既にかなりの寒さで身を震わせた。

 今宵の私の部屋はどこだろう…?あまたの窓を目で追った。たぶん中央口上の明かりが消えているあの部屋がそうだ。

JR東京駅丸の内駅舎、夜の北ドーム

 北ドームやライトアップされた駅舎を眺めながら、新丸の内ビルディングに歩いた。

ライトアップされた丸の内駅舎とビルがきらめく絶景

 行幸通り北側に建つ新丸の内ビルディング(通称: 新丸ビル)に入った。新丸ビル7階はレストランフロア「丸の内ハウス」になってる。寒空の下、屋外のテラスに出ると、テーブルと椅子がいくつも並ぶ広々としたスペースだ。丸の内ハウスで購入した飲食物なら、このテラスに持ち込んでいいとの事だ。

 テラス東側に出ると、極上の駅舎風景が広がっていた。一瞬で心奪われてしまった。あの壮大な東京駅丸の内駅舎を手の内におさめたように、全景が一望の下だ。ライトアップされ照らし出された洋風の駅舎、闇夜に浮かび上がるドーム…、古く趣ある佇まい全てが美しい。

 丸の内駅舎周辺にひしめくビルの夜景も格別。高層ビルに取り囲まれ肩身が狭そうだなぁと感じていたのだが、その逆で周辺のビル群を従えていたのだ。翼を広げたように横に長い駅舎は優雅で、そして威風堂々と鎮座している。竣工の1914年(大正3年)以来、時代と開発の荒波に翻弄されながら、よく生き残ってくれたものだ。

ライトアップされたJRレンガの東京駅丸の内駅舎、中央部分

 ライトアップされたレンガもひと際、美しい。

 建物の多く占めるホテルも、ほとんどの窓から明かりが漏れている。今夜、あの中で過ごせる喜びを噛み締めた。

行幸通りを通り丸の内ビルディングへ

 最初、夜は新丸ビルだけ行こうと思っていたのだが、こうも圧巻な夜景を見てしまうと、他も見たくなる。なので次は丸の内ビルディング(通称: 丸ビル)に行く事にした。

 広い行幸通りを歩いている時、丸の内駅舎が真正面の位置に来た。一目では見られない程の大きな駅舎が眼前に広がった。空から見るようなテラスもいいが、やはり地上で対峙するのも、より迫りくるものを感じられいいものだ。

 丸ビルの屋外テラスは5階のレストランフロアの一角にある。先程の新丸ビル7階に比べれば、だいぶ狭い。

丸ビルから見渡したJR東京駅丸の内駅舎南ドーム

 だけど、新丸ビルより2階低く、より丸の内駅舎を近くに感じられる。南ドームも正面から間近に眺められた。

ライトアップされた東京駅丸の内駅舎とKITTE、丸ビルテラスから…

 丸ビル5階テラスからは、KITTEの眺めもいい。旧東京中央郵便局舎のレトロな外観をまとった最新のビルのきらめきと、ライトアップされた洋風駅舎の組み合わせが、レトロというか未来的というか不思議な風景に映った。

そしてKITTE屋上庭園

 そして今度は、丸ビルから眺めたKITTEだ。KITTE6階には「KITTEガーデン」と名付けられた屋上庭園がある。

KITTEの屋上庭園から見渡したJR東京駅丸の内駅舎

 KITTEガーデンは丸の内駅舎に対し右横から南側に位置する。先の2つと一風違い、南ドームを中心とした立体的で凝った造形の駅舎を感じられる眺めが広がった。

KITTEの屋上庭園から見渡したJR東京駅舎とプラットホーム

 KITTEガーデンは広く、より南の方に移動すれば、レンガ駅舎の背後に広がる何本ものプラットホームも眺められ、東京駅の大きさを感じられる。京浜東北線、山手線、東海道本線、東京上野ライン…眼下には絶えず列車が行き交う。

 丸の内駅舎南端は南東に僅かに突き出た感じの造りになっていて、2階は東京ステーションホテルメインダイニングのフレンチレストラン、1階は宴会場になっている。この部分も円形状のドーム状屋根が付いている。南北ドームほどの壮麗さは無いが、玉ネギがちょこんと載っているような姿がどこか可愛らしい。

KITTEの屋上庭園から見渡したJR東京、東海道・東北新幹線ホーム

 KITTEガーデン南端からは、もちろん新幹線も眺められる。東海道・東北上越、北陸、北海道など各新幹線が一同に会する風景は、過去から現在に至るまで、まさに日本を代表するターミナル駅なのだ。

散歩のあとは…

 夜9時過ぎに、東京ステーションホテルの自分の部屋に戻り、すっかり冷え切った体を暖めた。

東京ステーションホテル、行幸通りの夜景を眺めながらルームサービスのディナー

 今宵の夕食はルームサービスだ。ホテル特製の黒毛和牛のビーフシチューにシーザーサラダ。カーテンを開け放ち、きらびやかだった明かりがひとつひとつ消え、眠りに就きゆく街の風情を愉しみながらいただいた。

[2022年(令和4年)1月訪問](東京都千代田区)

レトロ駅舎カテゴリー:
一つ星 JR・旧国鉄の三つ星レトロ駅舎

丸の内駅舎展望スポットのまとめると…

今回訪れた東京丸の内駅舎を一望できるビルの展望スポットのまとめると以下の通り。いずれも三脚の使用は不可。丸ビル以外は遅くまで開放しているので、夜景も十分に堪能できる。

新丸の内ビルディング7階・丸の内ハウスのテラス
営業時間: 11時~23時
丸の内ビルディング5階テラス
営業時間: 11時~20時(日・祝19時)
KITTE6階・屋上庭園「KITTEガーデン」
営業時間: 11時~23時(日祝22時)

各施設とも不定期で休館日を設けている。荒天時、展望デッキは予告無く閉鎖される。営業時間は2022年1月現在。以下のウェブサイト等で最新情報のご確認を。