初島駅(JR西日本・紀勢本線(きのくに線)~あと僅かの木造駅舎を愛でる~



世界初の3Dプリンター駅舎が話題の初島駅

 和歌山県有田市にある、紀勢本線(きのくに線)の初島駅では、戦後の1948年(昭和23年)築の木造駅舎が現役だが、老朽化のため建替えられる事になった。新駅舎は近年、急速に技術が発展し私たちの生活にも浸透してきた3Dプリンター製になるという。

 3Dプリンターと言えば、容易に色々な物が複製でき、拳銃さえも複製できるらしい。3Dプリンターによる駅舎建設は世界初という。大幅な工期短縮ができるのがメリットで、他で造ったパーツを現地に運んできて組み立てればすぐとの事。

 初島駅に初の3Dプリンター駅舎が設置されるのは実験的で、海までの距離が600mほどのため、塩害の影響も見るにも適地だったという。問題が無ければ、他の駅の建替えにも採用される見込みという。

 駅舎のパーツを作る作業をニュース映像で見たが、表層は特殊なモルタル製で、言うなれば枠か殻のようなもの。機械が規則正しい動きでモルタルを抽出し、どんどん塗るように積み上げてら形作られる感じだ。それはまるでケーキのクリームを塗っているかのよう。こうして作られた枠の中に鉄骨を入れコンクリートを流し込みパーツは完成となる。

 2025年3月25日に現地で行われた建設工事では、23時57分に終電が出た後にクレーンなどを操作し工事が始まり、約6時間後の始発に間に合ったという。


 それから1ヶ月後、紀勢本線の駅巡りの旅をしていた。予定が変わり、帰路のルートを変更し、ついでにいくつかの駅で降りてみようと思った。ふと木造駅舎は健在だろうかと初島駅の事を思い出した。

ファーストコンタクト!3Dプリンター駅舎

JRきのくに線(紀勢本線)初島駅プラットホーム。

 4月終わり、雨の日の午後、初島駅に降り立った。

JR紀勢本線(きのくに線)、もうすぐ3Dプリンター駅舎に建て替えられる初島駅

 木造駅舎はまだ健在だった。一瞬で3Dプリンター駅舎が建ったと言うから、もしかしたらもう利用停止されているかもと思ったが。

 ホーム側の軒を支える柱がピンクと黄色のツートンなのが目を引く。何かお菓子っぽい感じ…

JR紀勢本線(きのくに線)初島駅、ホーム側にあるトイレ

 軒下には、仮設の小さな小屋のようなものがあった。警備会社のシールが貼り付けられ、最初、自動券売機でもあるのかと思ったが、よく見るとトイレマークが取り付けられていた。

JR紀勢本線(きのくに線)初島駅、姿を現した3Dプリンターの新駅舎

 そして現駅舎の隣にアイツがいた…

JR紀勢本線(きのくに線)初島駅、工事中の3Dプリンター駅舎

 跨線橋を上り、駅舎側に渡ってくると、あの3Dプリンター駅舎が建っていた。1ヶ月前に建物自体は組み上がったが、電気設備の工事や、周辺の整地と言った駅として使うための全体的な完成はまだのよう。素人考えでは、意外とのんびりやっているように思えるが、人員の都合とか何か理由があるのだろう。もし集中して工事すれば、もう竣工していたかもしれない。

 それにしても小さい…。簡易駅舎になる事は解っていたが、自動券売機一つ置いたら、もう他のものは置け無いのでは?ベンチさえも。

3Dプリンター駅舎が出現した初島駅、側面のトビウオのレリーフ

 側面には何やら魚のレリーフが刻み込まれていた。太刀魚で、初島駅のある有田市は太刀魚の漁獲量が日本一なのだとか。

JR初島駅、世界初となる工事中の3Dプリンター駅舎、壁の質感。

 一見、コンクリートを白く塗ったような質感に見えるが、表層はモルタルだ。縦に細い線が細かく刻まれている緻密さは、3Dプリンターが成せる技か…?

戦後築の個性的な木造駅舎

 さて、現駅舎を見てみよう。

JR紀勢本線(きのくに線)初島駅の木造駅舎、ホーム側の木の柱

 あのピンクと黄色の柱は、3本の木を一つに束ね、下部は板で囲まれ装飾されている。ちょっと大柄な駅舎を支えるため、このようにしたのだろう。まさに三本の矢の発想。

JR紀勢本線(きのくに線)初島駅、一面に絵が描かれた待合室

 駅舎の中に入ると、まるで壁をキャンバスにしたかのようにポップなイラストが描かれていた。雲浮かぶ青空の下、気球が飛び、エッフェル塔などパリの名所が描かれていた。ここは和歌山のパリ?古くくすみがちな駅舎が楽しげなムードだ。

JR紀勢本線(きのくに線)、無人駅となり塞がれた窓口跡

 駅は2018年に無人化された窓口は完全に塞がれていた。自動券売機まわりはカフェをイメージしたイラストが…

JR紀勢本線(きのくに線)初島駅、戦後の昭和48年築の木造駅舎。

 駅舎の正面に出てみた。有田市の中心駅は箕島駅だが、やや大きめの木造駅舎で、当時の初島駅の規模や地位を感じさせる。

 戦後の1948年(昭和23年)築の木造駅舎は、今年2025年で築77年。色々と改修されているが、戦後築のユニークさは今でも存分に残し目を引く。

JRきのくに線(紀勢本線)初島駅、戦後築らしい木造駅舎

 建物より少し窪む形で造られた車寄せ、大きめの駅舎を支え得る三本一束の木の柱、出入口上部のダイヤのチェック状の通風窓…。木造駅舎には戦前戦中の駅舎には無いユニークさ溢れ、新しい時代の機運が今でも漂ってくるかのよう。

JR紀勢本線(きのくに線)初島駅の木造駅舎、ユニークな3連の窓

 窓は大きなものではなく、小さな小窓が縦に三連並んだ独特な造り。そのぜいか待合室がちょっと暗く感じる。だけど、なぜこんな形にしたのだろう?

JRきのくに線(紀勢本線)初島駅の木造駅舎、ユニークな3連の木枠の窓

 縦三連の小窓はホーム側も同じだ。窓枠が木枠なのがいい。

 よく見ると、窓を縦に90度ばかり回転させて開閉できるようになっている。

JR初島駅、戦後築の木造駅舎。正面の謎の壁。

 そして車寄せの左横には、謎の大きな壁が…。なぜ、この部分をこうやって仕切る必要があったのだろう?不思議な造りだ。

 3連の小窓など諸々、デザイン性を感じさせる。洗練されてはいないが、ユニークさが楽しい。きっと設計した人が人々に愛される駅舎をと、色々考えてこんなにユニーク木造駅舎が出来上がったのだろう。

世界初の3Dプリンター駅舎となる初島駅の新駅舎。まだ工事中。

 木造駅舎の右横に、あの3Dプリンター駅舎が出現している。現駅舎を堪能した後だと、余計に小さく見えてしまう。

きのくに線、3Dプリンターの新駅舎、有田市名産のみかんのレリーフ

 正面の象徴的なレリーフ、動輪かと思ったが、有田市の名産品のみかんの断面を模ったものとの事。

 みかんは形が左右均等ではなく、特に中心部がズレて不均等になっている。あえてそうしたのか…?それとも3Dプリンターがちょっとミスってしまったのか…?

JR初島駅、取り壊しとなる木造駅舎と工事中の3Dプリンター新駅舎。

 訪れから1ヶ月半。今頃、新駅舎とその周辺はもっと駅らしい姿になっている事だろう。

 新駅舎は7月より供用開始の予定。この新旧の駅舎が並び建つ風景もあと僅かだ。

[2025年(令和6年)4月訪問](和歌山県有田市)

レトロ駅舎カテゴリー:
二つ星 JR・旧国鉄の二つ星レトロ駅舎