~宗谷本線2021年廃止予定駅と気になる無人駅を巡る旅・番外編(2)~
北比布駅
2015年9月、石北本線の駅をいくつか訪れ、午後は宗谷本線南部の秘境駅にでも訪れようと思った。
手始めは北比布駅だ。しかし、旭川‐名寄間の列車は一日に十数本あっても、北比布駅…いや、これから訪れる東六線駅、北剣淵駅に停車する列車は特に少ない。快速なよろはもちろん、普通列車でさえ何本かは通過してしまう。
なので一つ行き過ぎた蘭留駅から歩いて訪れる事にした。蘭留‐北比布の駅間は2.6㎞だから、多少、遠回りになるが、歩行距離はそれよりも少し長い程度だろう。
空は晴れ日差しは少し暑いくらい。駅間徒歩日和だ。広がる田畑や山々が心地よい長閑な風景が広がった。緑色の稲は少し黄色味を帯びはじめていた。黄金色に輝く収穫の秋はもうすぐだ。
線路沿いの細い道に入ると、やがて北比布駅に到着した。1線のレールに短いホームが寄り添うシンプルな配線で、ホームは学校の朝礼台と揶揄される短い板張りだった。
ホームから数歩離れた所に待合室があった。木の小屋がポツンと経つだけだが、小奇麗だ。まだ新築で、まだ真新しさがよく残っている。
待合室の中に入ってみた。床は砂利が剥き出しの掘立小屋だが、木材の表面は年月で削られていなくきれいな平だ。壁はペンキはまだ匂いが漂ってきそうなほどクリアな茶色だ。
窓辺には「ペンキが乾いていません」の注意書きが添えられていた。思ったより出来立てホヤホヤのようだ。
名寄行きの下り列車が到着した。キハ54とキハ40の2両編成だ。この列車、全駅に停車すると言う、ある意味レアな普通列車だ。この列車に乗り込み、次の東六線駅を目指した。
(北海道上川郡比布町)
東六線駅
20分程で東六線駅に着いた。道路と区割りで名付けられた無機質さが、いかにも北海道の地名らしい。いや、そこもまた味わいがあるのだが。
国道40号線からやや離れた駅は、防風林で囲まれ鬱蒼としていた。ホームは北比布駅と同じく「朝礼台」、そして少し離れた所に、トタン張りの小さな待合室があった。本州など他の地方のローカル線の無人駅では、上屋の下にベンチがあるだけの、「室」ではない簡素な「待合所」があるだけの駅も少なくない。しかし、極寒で、時に吹雪同然の厳しい気候に襲われる北海道では、ちゃんとした待合室は必須だ。
待合室入口に「東六線乗降場 待合室」と標された看板の書体が、レトロでいい味わいを醸し出していた。誰が作ったのだろうか…
東六線駅の開業は1956年(昭和31年)で、当時は東六線仮乗降場としてだ。仮乗降場はその名の通り、仮に設置された駅で、地方毎の鉄道管理局の判断で設置した乗降場だ。正式な駅に昇格するのは3年後の1959年(昭和34年)。なので、もしからした仮乗降場時代からの…、もしくは乗降場という呼び名の名残りを残した時代に書かれのかもしれない。
待合室の扉を開けてみると、もの凄い空気に思わず顔がしかめさせられた。とにかく臭かった。かび臭いというか何とも言えない臭いで、室内が満たされていたのだった。
木造の待合室は古色蒼然としていて、老朽化もかなりのものなのだろいう。そこに雨や雪の水分が木の内部まで深く浸潤し、乾くことなく建物を腐食させたのだろうか。そんな待合室を燻すように、夏の強い西日が当たる。そして乗降客がゼロで、待合室の扉は何日も閉ざされたままだったのかもしれない…
待合室内の時刻表を見ると、一日の列車は上下たったの4本ずつ。通学で辛うじて使えるかなという程度。だけど現在、はたして生活利用者はいるのだろうか…
強烈な臭いに耐え切れず、さらっと見る物を見ると、逃げ出すように外に出た。
東六線駅の次は北剣淵駅へ向かう。しかし例によって列車が無いので、バスで行く事にしていた。最寄りのバス停「東六線」は、駅から東へまっすぐ伸びる道に突き当たった国道40号線にある。
10分ほど歩くと、国道沿いにバス停を見つけ、しばらくすると名寄行きの道北バスがやってきた。乗り込むと乗客は一人いただけ。過疎が進み、少なくなった利用者を鉄道とバスで奪い合っているのだろう。両者の厳しい現実を目の当たりにした。
(北海道上川郡剣淵町)
北剣淵駅
剣淵の市街地を通りぬけると、そのまま道道を北に進み、ほどなくして北剣淵駅最寄りの難波田橋停留所に停車した。
停留所から北剣淵駅までは約1.4㎞。夏の終わりで、北の大地は日が傾くのが早い。北海道らしい畑が広がる雄大な風景の中、ひたすら東に歩き続けた。
そのうち緩やかな坂の向こうに踏切が見えた。あのあたりのはずだ。
そして木々や草の中に、駅名標が顔を覗かせていた。北剣淵駅のホームだ。
踏切を渡ると北剣淵駅はすぐだ。ホームから少し離れて、古ぼけた木造の小屋がある。駅名こそ掲げられていないが、あれが待合室だろうか?失礼ながら地域のゴミ集積場か倉庫に見えるが…
夜が迫る今、ぱっくりと口を開けた薄暗い室内は、少しの不気味さを漂わせていた。やや荒んだ室内の正面に運賃表、ベンチの片隅には書き溜められた駅ノートの束があった。紛れもなく駅の待合室だった。床にしっかり木の板が敷かれているのは珍しいかもしれない。
室内の片隅に毛布や布団やら寝具の山が築かれていた。駅寝する人用に誰かが置いたのだろうか…? だが、汚く変な虫が居そうで、これで寝るのは、この駅に泊まる以上に勇気がいるような気がした。
18時前にやってきた下り列車に乗った。北剣淵駅に停車する今日最後の普通列車だった。
(北海道上川郡剣淵町)
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