宗谷本線、2021年廃止予定駅と気になる無人駅を巡る旅~1日目(1)~



宗谷本駅巡りの旅、はじめりは旭川駅から

 旭川駅前に宿泊した翌日、「HOKKAIDO LOVE!6日間周遊パス」を手に、来年の廃駅が見込まれる宗谷本線の無人駅を中心に巡る2日が始まる。この6日間の北海道旅行の中で、この日がいちばんハードな日程になりそう。なので、朝早く発つ事も多い駅巡りの旅だが、せめて今日の朝は少しホテルでゆっくりしようと思った。

旭川駅に進入するキハ54+キハ40の普通列車

 朝食を取り部屋に戻ると、トレインビューを楽しめる部屋から列車を眺めた。石北本線や宗谷本線への特急はもう少し先だが、気動車の普通列車が通り過ぎてゆく。単行での運行も珍しくないが、通勤通学時間帯を迎え、3両の列車が眼下を通り過ぎ旭川駅に進入していった。


 ホテルをチェックアウトし、7時51分発の名寄行きの列車が止まっているホームにやってくると、もうすでに列車は入線してた。3両と思いきや、名寄行きは前の2両だけで、最後尾のキハ54は切り離されるようだ。この編成、見覚えあるなと思ったら、先ほど部屋から眺めた3両編成の列車だった。時刻表を見ると、名寄駅を5時50分に出た列車で、折り返し名寄行きとなる運用だ。

 車内は学生で賑わっていて席もよく埋まっている。辛うじて窓際の席を確保し、少ししたら列車は出発していった。

 途中駅でも学生が乗り込み、列車は立客まで出るほどに。

 地面は雨で濡れているが、空は晴れてつつも雲が厚い。天気がいいのか悪いのかわからない空の下、車窓の外には黄金の稲が朝日に輝く。空にはかすかに虹が出ていた。

宗谷本線・北永山駅で学生の大量下車

 列車は北永山駅で停車した。ホーム1面に1線の無人駅で、車窓の外には頭を垂れる稲がぎっしりの水田が広がり家屋はまばらだ。しかし、ほとんどの乗客…学生達が雪崩のように下車した。学生たちは田舎道を東にぞろぞろ歩いていった。

 ほとんどカラになったまま列車はむなしく出発し、ほどなくして隣の南比布駅に停車した。

廃止見込みの南比布駅

 下車するのは私だけ、…と思いきやもう一人下車客がいた。どうやら駅訪問を目的にして鉄道ファンのようだ。実はこの南比布駅、来年2021年3月での廃止が予定されている宗谷本線12駅の一つだ。12駅の廃止で、今年は宗谷本線を目指す鉄道ファンが多いようで、ツイッターやインスタグラムでは、よく投稿を目にする。

宗谷本線、国道40号線の跨線橋下にある南比布駅

 駅は国道40号線の跨線橋でやや寂し気な感じの立地だが、ホームからは稲が刈り取られた水田が一面に広がり、遠くには山々が連なる。背後にいっそう雄大にそびえるのは旭岳など大雪山系の山々だ。空は晴れ青空が広がる。

 絶景を堪能していると、晴れ空から雨が降りつけ、思わずバッグパックの中で丸めておいたパーカをまとった。やはり今日はわからない天気だ。

JR北海道・宗谷本線、南比布駅を通過してゆく普通列車

 列車接近の警報が流れ、下りの普通列車が通過していった。先ほどの列車の僅か17分後に出た比布行きの普通列車だが、北永山駅とこの南比布駅には停まってくれない。次にこの駅に停車する下り列車は6時間後だ。この区間の下り普通列車は16本だが、停車するのはたったの6本。北永山駅はそれより少し多い程度だが、学生の後ろ盾で駅は安泰。同じような設備の駅でも明暗は別れた。

宗谷本線、まだ新しさ残る南比布駅の待合室

 木造の小さな待合室は二つ北隣の北比布駅と同じ形。違いは片流れの屋根が出入口から見て右肩上がりか左肩上がりかだけ。5年前に北比布駅を訪れた時は「ペンキが乾いていません」という注意書きが残っていたほど新しかった。南比布駅もまだ新しさが残っているので、どちらともまだ建替えられて長くはたっていないと言った所か…。しかし両駅とも来年3月での廃止が見込まれている。21世紀に入って、南下沼駅など宗谷本線の無人駅がじわじわと廃止されてきた。そんな中、南北比布駅は生き残った。待合室まで新調されたが、遂に力尽きてしまうとは悲しいものだ。

宗谷本線・南比布駅、北海道の典型的な無人駅スタイル

 列車が無いので、隣の比布駅までは歩いて向かう。約4㎞と歩けなくもない距離だ。

 国道40号線の跨線橋に上がり、比布駅に足を進める前に、もう一度、南比布駅に振り返った。朝礼台と揶揄される短い板張りの簡素なホーム、小さな待合室…、この風景ももうすぐ無くなると思うと何と愛おしいか。

 国道を黙々と歩いていると、木造の古い倉庫が目に付き、壁にホーロー看板が張り付けられているのが目に入った。よく見ると…

比布町、「ホクボウ毛糸」のホーロー看板

 「ホクボウ毛糸」という看板だった。ホクボウ…、北星駅のあの「毛織の北紡」の看板と同じ会社の看板だ。北星駅のあの有名な看板の仲間を見つけ、いい拾い物をしたと上機嫌で足を進めた。

駅舎が改築された比布駅

 幸い雨に降られる事もなく、比布の市街地に入り、約1時間で比布駅に無事到着。

JR北海道・宗谷本線、駅舎が改築された比布駅

 駅舎は2016年に建て替えられたばかりの駅舎は、木造駅舎風のレトロなデザイン。無人駅だが、内部にはカフェや地元の産物を販売も行う交流スペース「ピピカフェ比布駅」として利用されている。

比布駅、樹木希林が出演したピップエレキバンの顔ハメ看板

 昭和の人間にとって比布駅とはやはり「ピップエレキバン」のCM。樹木希林と会長自ら出演したCMは漫才のようで、大人気だったのは子供心に鮮明に残っている。駅前にはCMをイメージした顔ハメ看板まで。

 次の下り列車まで約2時間あり、カフェに入るのはまだ早いなと思いつつホームに出てみた。駅間徒歩の熱が体から抜けると、秋がすぐそこの北海道の空気は気持ちいいもの。

青空広がる比布駅、特急サロベツ2号が通過

 ホームにベンチは無かったので座れる場所を探すと、駅舎から少し離れた機械室前のコンクリートのステップがちょうどいい日陰になっていた。腰掛け寛いでいると、サロベツ2号が通過していった。そして列車が当分なく誰も来なさそうなのをいいことに、ステップの上に寝転がり青空を見上げながらしばしうとうと…

 そろそろカフェで一服と思い中に入った。食事やスイーツも取り揃えているが、ホテルの朝食バイキングで調子に乗りすぎたダメージが残ってたので控えた(笑) 飲み物だけをと思い、売場にも並んでいた比布町内で生産された紫蘇ジュースをオーダー。

比布駅、駅舎カフェで紫蘇ジュース

 ホームに停まる2台のキハ54を眺めながら、今日のハードな駅巡りに向けて鋭気を蓄えるようにのんびり過ごした。

 紫蘇ジュースをいただいた後、店内を見ていると新駅舎を祝う樹木希林の色紙が展示されていた。老け込んだ自画像を描いたてみたり、CMガール言ってみたりユーモア溢れる内容の中に、思い出深い駅舎が失われる事への感傷を込めたりの彼女らしい情感ある内容。あのCMからもう40年になろうとしているが、比布駅への思いが伝わってきた。今頃、天国から会長と笑って比布駅を見ているんだろうなぁ…


 比布駅で2時間ほど小休止のひと時を過ごし、11時50分に快速なよろ1号がやってきた。単行の列車は程ほどの乗客がいて、車端部近くのロングシート部分に着席。だけど次の和寒駅で結構空い たのでボックス部分移った。

 「終点ですよ~」と車内清掃の人に起こされると、名寄駅に到着した事に気づいた。

名寄駅‐日進駅間をちょっと往復

 最初、名寄で2時間の待ち時間の後、下り列車に乗る予定だったが、快速なよろ1号の車内で、眠りに落ちる前に、それならどこか一駅行けないかと思いスマホで調べた。するとバスで一つ北隣の日進駅に行ける事が分かった。しかも上り列車で名寄駅に戻って来れるというオマケ付き。日進駅からそのまま北に向かっても同じ事なのだが、その時の気分で決める事にしよう。

 名寄駅13時15分発の名士バス・ピヤシリ線は名寄中心部を抜けると、健康の森を通り日進駅最寄りのバス停・ユースホステル前に停車した。運賃がいくらか運転手さんに聞くと「いらない」と言う。不思議に思いながら、得した気分でそのまま下車した。後で知ったのだが、市中心部から日進地区への乗車は無料のよう。よく解らないが日進地区にある健康の森や、さらに奥にあるなよろ温泉サンピラー利用促進のためのようだ。おそらく公的な補助か何かを受けているのだろう。

 バスから降りたら日進駅の位置を地図で探さなきゃいけないなと思っていたが、降り立つとそんな心配は無用だった。畑の向こうに小さな駅がぽつんと佇んでいるのが見えた。

ユースホステル前バス停から眺める宗谷本線日進駅

 日進駅への道すがら、大きな碑があるのを発見した。開拓五十周年記念碑で裏面の碑文を見ると、岐阜県の33戸が入植した事により開拓が始まったと標されていた。

 そしてすぐに日進駅に到着した。1面1線のホームに小さな待合室が添えられた北海道のローカル線小駅、典型的な仮乗降場スタイルの駅だ。日進駅の乗降客は、この10年の調査では一日平均1.0を下回っているが、来年2021年の廃駅リストの中には幸いにも含まれていない。

宗谷本線・日進駅、古い木造の待合室

 このスタイルの駅だと道内では小奇麗な待合室や貨車駅舎となってる駅が多いが、古くからの木造建築だ。雪が出入口に落ちるのを緩和する三角形のファサードに日進駅と看板が掲げられている。「日」「進」の文字の間に標された丸いシンボリックなマークは名寄市の旧市章との事。

 中は床面が砂利の掘立小屋の造り。だけど6畳程度とやや広め。少しくもの巣があったが、全体的にきれいで手入れはいい。

宗谷本線・日進駅に咲く薔薇の花

 待合室の前でバラの花が一輪、鮮やかに咲き誇り、ひっそりとした駅を彩っていた。

 結局、14時19分発の上り列車で名寄駅に折り返した。

宗谷本線・名寄駅、3本の列車がホームを賑わす

 島式の2番ホームに降り立つと、妙にすっきりしているのに違和感を覚えた。そう、以前訪れた時にはあった木造の上屋がきれいに撤去されていたのだった。老朽化が進んだのだろうが、雨の時はもちろん、冬季の除雪はいいのだろうか…。待合室や上屋の一つ位は作ってほしいものだが、乗客が並ぶ特急はしっかり上屋のある1番線に停め、2番3番線に発着する普通列車は、これから出発する列車を待合室代わりにすればいいという事だろう。

 3番線には接続する快速なよろ8号が控え、2番線には折り返し稚内行きとなる普通列車、そして1番線には稚内行きのサロベツ1号が並び、一時、ホームは賑わった。

 私は最後に残った2番線の稚内行きの列車に乗った。さあ、今日の駅巡り後半戦への突入だ。

[2020年(令和2年) 9月訪問]