石勝線・楓駅~1日1往復、日曜運休の駅~



僅か一区間の支線? 楓駅の不思議

 JR北海道に楓駅という一風変わった駅がある。北海道夕張市にあり、札幌-道東を短絡する石勝線の駅の1つだが、特急が飛ばす本線上から分岐した一線隣りの小さな駅舎に、朝1日1往復の列車のみが発着する。

 楓駅から新得駅までの約84kmは山林が続くばかりで、集落は点在する程度だ。なので列車すれ違いのための信号場は11もあるが、旅客駅は占冠駅とトマム駅の2駅しかない。しかも特急列車のみの運転で、普通列車は無い。なので楓駅は普通列車の行き止まり駅と言える。

 ここ数年は、5.7km西の新夕張駅から1日1往復の列車が乗り入れるだけだった。しかし、その列車さえも、2001年7月1日からは日曜運休になってしまった。それらの事から、楓駅の利用客はさぞ少ないのだろうと察せられ、そこまで来ると存在している事が不思議だ。

 そんな駅、鉄道ファンとして見過ごせるはず無く、1990年台前半の冬に訪れている。ただ、その頃の列車本数は現在の4倍もあった。…と言っても、4往復なので多いうちには入らないが。それでも、特急街道の石勝線からちょろっと伸び出て終わりとなる盲腸線のような楓駅は、その当時から気になる駅ではあった。

1990年代前半のある冬、夜の楓駅。
1990年代前半、冬の楓駅

 夜だったので、手持ちの1992年の時刻表から大まかに推測するに、18:56の新夕張発に乗って19:12の楓発で引き返したのだろう。ちなみに、当時はこの一往復が、楓駅に発着する最終列車となっている。楓駅で降りた乗客は数人で、駅周辺は灯りが少なく、とても暗かったという記憶がある。さすが列車本数が少ないだけはあると半ば呆れ、感心してしまう風景だった。しかし、車掌さんは(ワンマン運転で運転手さんだったかも…)「集落があるし、あっちの方には物産センターもあるよ」と教えてくれた。随分夜とは様子が違うんだろうなと思い、いつか再訪しようと決めていた。

 だが、果たせぬまま時が過ぎ、いつの間にか列車本数が2往復、1往復と減ってしまい、楓駅廃止の噂さえネット上で流れるようになった。そして2001年の7月1日からは、1日1往復の貴重な列車さえ日曜運休になってしまった。

楓駅、日曜運休を伝える時刻表
(楓駅内の日曜運休を伝える貼紙)

 一方で、石北本線、宗谷本線の乗降客が限りなく0に近い6駅が廃止される駅のリストラが実行され、楓駅にも廃止の足音か迫ってきているように思えた。まして楓駅前からは、新夕張を経由する夕鉄バスが一日数本走っていて、代替交通機関の問題も全く無い。むしろ、住民が普段使っている公共交通機関はバスの方だろう。このような状況に焦ったように、遅まきながら楓駅を再訪しようと決めた。

1日1往復の列車の乗客たち

 昨晩、釧路から特急まりもに乗り、4時52分に追分駅で降りた。約1時間待ち、5時47分発夕張行きの3両編成の普通列車に乗り、新夕張でに向った。新夕張からは6時45分発の楓行きに接続する。

 6:18に新夕張に到着し、最後尾の車両が6:23に折り返し千歳駅へ、先頭の車両が6:30に夕張駅へと散っていき、残った中間の一両が6:45発楓行きで「新夕張-楓」のサボを掲げ出発を待っている。ここに来るまでも乗客はほんの数人とかなり少なかったが、遂に私1人になってしまった。

 新夕張に到着して30分近く乗客を待ったが、結局誰も来ず、私1人を乗せて楓行きワンマン列車は出発した。少し市街地を走り、夕張川を渡るとすぐトンネルに入り、延々と暗い中を走る。5分程でトンネルを抜けると、山間の楓の集落が見え、防雪シェルターに潜ると本線から外れて走り、定刻6:54分に楓駅に到着した。

JR北海道・石勝線、1日1往復の列車しかない秘境駅、楓駅

 国道274号線沿いに立地し、道の反対側には、団地、ヨーロッパのお城風の北海道物産センターの屋根などの建物が見える。昔は炭坑の町だったというが、閉山となり、今は山に囲まれた静かな集落だ。確かにあの時、車掌さんが言っていた通りで、何も無いということはなかった。しかし、プラットホームの上で、7:02発新夕張行きになる列車を待っている人は誰もいなかった。

 楓駅でしばらく写真撮影に興じ、駅舎後方の楓駅全体を見渡せる跨線橋に立った。東の占冠側には、今では信号所として使われている2面2線の相対式ホームが見下ろせた。

 列車が停まっているホームの様子をずっと見ていた。この時間ならローカル線の主要乗客の学生がいてもおかしくないが、1人として見掛けない。楓駅だと、帰宅の列車がないので、当然バス利用だろう。

 あ~あ、やっぱり乗客はゼロかと思っていたら、何と中年男性1人が列車の中に消えていった。少し時間を空け、中年男性、中年女性が続いて列車に乗り込んだ。雰囲気から察するに、私のような鉄道ファン風ではなく、地元の人達といった感じだ。夕鉄バスよりも運賃が安くつくなど、ここからJRの列車に乗る人にしてみれば、利点が全く無いわけではないのだろう。ただ、帰りはバスなど他の手段なのだろうが。

 出発時間間際になり、列車の運転手さんが出てきた。すると跨線橋にいる私に向かい、声では届きそうも無いので、ゼスチャーで「乗らないのか」と呼びかけてきた。私もぜズチャ-で腕で大きくバツ印を作り「乗りません」と合図した。それを見た運転手さんが再確認するように腕で×印を作る。私も再確認のため腕で×印を作る。運転手さんは納得してくれ、運転室についた。1日1本しかないので、運転手さんも乗り遅れが無いように気を使うのだ。「乗りません」と一言伝えておけば、気を使わせずに済んだと反省・・・。

JR北海道・石勝線・楓駅、早朝、出発する1日1本の列車

 そして、定刻の7:02に数人…、おそらく3人という少ない乗客を乗せ、列車は楓駅を離れた。この日の、始発列車と最終列車が同時に出る奇妙な光景に、困惑させられながら、去りゆく列車を見送った。

楓駅の設備を見る

 夕張線登川支線廃線跡を訪ね、9:30頃、再び楓駅に戻って来た。楓駅は、元々、登川支線の紅葉山(現: 新夕張)と登川間の唯一の中間駅として、今よりも、やや西側に位置していた。しかし、1981年(昭和56)10月の石勝線開通に先駆け、同年6月30日に、夕張線登川支線は廃止された。そして、石勝線開業時に、楓駅は現在の位置に移設となった。

JR北海道・石勝線・楓駅、3番ホーム上簡易駅舎の待合室

 今日の列車は終わってしまったが、駅舎には鍵が掛けられることなく、待合室の中に入り一休みできた。コンクリートの中は奇麗で、10脚のベンチが規則正しく並んでいる。昔は発車前にはこのベンチが埋まったかも知れないが、現状では明らかに過剰になってしまったものだ。

 駅舎前にある小さな駐車場の横から、左手に通路が伸びている。そこを進むと、先程、跨線橋から眺めた本線上にある2面2線の相対式ホームが目の前に現われ、そして1番線に達した。一人前の立派なプラットホームだが、旅客列車の乗降扱いは無く、信号所として使われ1日数本のすれ違いがあるだけという。比較的新しめで、鉄筋で組まれたホームの上には、アスファルトが敷かれている。1番ホーム側に建物があり、駅舎かと思ったが、「新夕張保線区楓中間休憩所」言う看板が掲げられていた。3番線も含め、駅の施設そのもには鄙びた雰囲気はあまり無い。

JR北海道・石勝線・楓駅、1番ホーム上の駅名標

 1番線の駅名標を見てみると、次の駅は新夕張と占冠になっている。楓駅から占冠駅へ行く旅客列車は無いが、信号所ではなく、一応、旅客駅を記載しておくものなのだ。占冠駅までの距離は28.6km。遠い…

 1番ホームの反対側に2番ホームがある。番線つけ方が変則的で、北側から、駅舎のある行き止りの3番線、3番線と通路で繋がり、少し占冠側に離れた本線上の1番線、反対側の2番線となっている。

 1番ホームから2番ホームに渡りたいが、駅内の跨線橋や構内踏切は無い。線路を渡るのは危ないので、保線の休憩所の横を通り、一旦駅の外に出て、新夕張行きを見送った跨線橋を通り、大回りをしなければいけなかった

JR北海道・石勝線・楓駅、2番ホームへ降りる階段

 跨線橋を渡ると高台で、左に曲がると、2番線へ下る階段があった。階段はシェルター状の屋根に覆われ、冬の雪深さを物語る。だが、旅客ホームとしてはまともに利用された事が無く…、というか元々信号所としての利用しか想定していなかったのだろう。雑草が今が盛りとばかり生い茂る。入口のサッシ扉のガラスが割れ、薄暗い空間がぱっくりと口を開けている様は廃墟の趣きさあえある。

 雑草を掻き分け、その中に足を踏み入れ、所々壊れているシェルター内の階段の中を下ると、ようやく2番ホームに立つことが出来た。ホーム上をうろうろしていると、釧路行きの特急スーパーおおぞらが1番ホームを一瞬で通過し、占冠方面に消えていった。

JR北海道・石勝線・楓駅、2番ホームから見た駅舎と跨線橋

昼の新夕張駅にて…

 楓駅から、夕張線登川支線跡を探りながら歩き、昼頃に新夕張駅に着いた。暑い中をひたすら歩き続けていたので、半ばへたり気味で、待合室のベンチに座り扇子を激しく振って休んでいた。

 その時、近くで、駅員さんと中年女性が話していて、日曜日がどうのこうのという会話が耳に入ってきた。ああ!そういえば、この人…、楓駅の跨線橋から見た、新夕張行きの列車に乗った中年女性と背格好や服装が似ているなと思い出した。この人は、今や貴重な楓駅の日常的な利用者なのかもしれない。なので駅員さんや運転手さんとも自然と顔見知りになっているのだろう。用事を済ませて帰る所だが、帰りの列車は当然無いので、ここでバスを待ってるようだ。余計不便になって、楓駅の利用者も、つくづく大変だなと感じた。

[2001年(平成13年) 7月訪問](北海道夕張市)

追記: 楓駅廃止、楓信号場に…

 2004年(平成16年)3月13日、楓駅は遂に廃止となった。但し、旅客駅としの廃止で、列車のすれ違いを行える「楓信号場」としては健在。

 駅舎と3番ホームは同年内に取り壊しとなったものの、3番線のレールは保線車両の留置線として残っている。また本線上の1、2番線のプラットホームや設備は、信号場として使われている事もあり、そのまま残っている。