日本屈指の運行距離を誇る長距離路線バス
2020年夏、道央の保存駅舎巡りや宗谷本線廃止予定駅訪問を中心とした4泊5日の鉄道の旅。色々調べていると、豊富駅と留萌というとんでもない長距離を走る路線バスがある事を知った。その名は
「沿岸バスの豊富留萌線(幌延留萌線と言われたりもする…)」。
豊富留萌線は日本最北端・稚内市の一つ手前、豊富町の豊富駅から、日本海沿いの初山別村、羽幌町などに立ち寄りながら、道央の留萌市まで…、終点は正確には留萌市民病院までの路線だ。その距離何と164.9km!
沿岸バスのウェブサイトを見ると、豊富留萌線は以下の6系統の路線で成り立っている。
- 11系統: 豊富羽幌線
- 12・13: 幌延留萌線
- 13: 快速幌延留萌線
- 14: 初山別留萌線
- 15: 羽幌留萌線
- 32: 豊富幌延線
なんだか複雑だがルートは同じで、運転区間により系統が分けられ、総称して豊富留萌線、または幌延留萌線と呼ばれていると言った感じだ。豊富-留萌間を通しで運行されるバスは、豊富駅と幌延深地層研究センター前間が32番、幌延深地層研究センター前と留萌市立病院間が12番と、系統上は分けられている。系統の境目になる幌延深地層研究センター前で、運賃の精算が必要になるものの、原則的に同じ車両で運行され通しで乗る事ができる。
豊富留萌線に興味を持った理由
区間の大部分は、1987年に廃止された国鉄羽幌線の代替バスだ。そこに豊富-幌延線がくっ付いてきたような形になる。不思議だが、幌延や豊富に車庫や営業所といった規模の大きな拠点が置けないので、通しの運行として車両の管理をしやすくするためだろうか?
豊富留萌線の走行距離は164.5㎞、バス停数169、所要時間約4時間10分。高速道を通らない一般路線バスとしてはかなりのものだ。しかし上には上がいて、走行距離一位は奈良交通の有名な八木新宮線で166.9㎞、バス停数166、所要時間約6時間30分。二位は阿寒バスの釧路羅臼線で166㎞、バス停数101、所要時間約3時間50分。第三位が豊富留萌線となる。その距離の差は3㎞以内に3路線がひしめく団子レース状態。バス停数は豊富留萌線が一位だ。
豊富留萌線は、複数の系統や路線等を直通する便も入れると、第5位の走行距離になるようだ。
(※参考: 乗り物ニュース・長距離一般路線バス、トップ3は?)
この路線に興味を持った理由はもう一つある。それは1997年にキャンプ道具を積みながら自転車で北海道を一周した時、このルートを通ったからだ。羽幌線の廃線跡を眺めながら走った日本海沿いのこのルートは、ひと際印象的な道の一つだった。あれから23年…、一生の忘れられない旅の思い出深いルートを懐かしみたいと思った。
俄然、豊富留萌線に興味が湧いた。しかし投入されているのは普通の路線バス用の車両なので、そんなので4時間耐えられるかが気になった。そして何よりも気になるのがトイレだ。水分を取り控えればストレスは増しそうだし、急にお腹の調子を悪くする事もあるかもしれない。しかし、どこか街のバス停で降りて一本遅らすのもありだろう。豊富留萌線は現在の宗谷本線名寄以北の普通列車よりも運転本数が多く、次を待っても3時間後だ。鉄道ファンの私としてはある意味悲しい事実だが…
しかし運転手に申し出ればターミナルでトイレに行けるとの事なので安心した。
初めの一歩、豊富駅‐豊富温泉でイマドキの路線バス車両に驚く。
廃止予定の抜海駅や上幌延駅など、宗谷本線北部の無人駅を巡り、夕方、豊富駅に到着した。特急も全て止まる主要駅とは言え無人駅となり、人影少ない高度経済成長期型のコンクリート駅舎は黄昏の色を帯びていた。
隣接する豊富町観光情報センターで、翌日に使う「萌えっ子フリー切符」一日券を購入した。2500円也。豊富留萌線を乗り通すと運賃は2780円なので、少しお得になる。
きっぷの名前の通り、きっぷは沿岸バスオリジナルのアニメ調の美少女キャラが前面に押し出されたチケットだ。デザインは何種類かあり、沿線にちなんだキャラクターとなっている。こういうのが好きな訳ではないが、たまには記念にいい。
駅前をうろうろしていると、乗車するバスがやってきた。17時15分発の豊富駅発の最終で、羽幌ターミナル止まり。正面には「11 豊富羽幌線」の表示を掲げている。
17時15分、バスは夕空に駆け出すよう出発した。今日はここから10分の豊富温泉で下車するものの、留萌までの164㎞の4時間を超える大いなる旅路の始まり。始まったんだなと感慨を覚えた。
しかし、乗客は私以外居なくやや寂しい旅立ち。場合によっては地元も人もいるのだろうが。前方を見ると、運転手背後と前扉後ろの座席はロープが張られ使用禁止となっている。コロナウィルスの感染予防措置だ。
車両は真新しさが残る新車だった。しかも…
座席には充電用のUSBコンセント付き!
後部座席の段差部分にはライトが光る!
最近の路線バスは前部の運賃表を表示するディスプレイに、3つ先まで停留所も表示され、慣れない土地で降車バス停に神経を向けていないでいいもんだと思ったが、そこから更に発展したようだ。
そして窓枠の下にはクッションが取り付けられていた。この部分、段差に二の腕が当たり落ち着かなく感じるので、細かいけど嬉しい配慮。
最近の路線バスの進化に感激していると、もう豊富温泉だ。
下車し数分後、夕景の中を豊富駅行きのバスが走り去っていった。4時間の旅もラストスパートだ…
道の両側には温泉宿や民家が立ち並んでいた。豊富温泉の中心街だがこじんまりと、集落に温泉宿がいくつか建っていると言った感じだ。
豊富温泉に来るのは3回目で、1回目の1990年頃の夏は宿泊もした。古めかしい旅館だったが、もうその旅館は無い。
この日の宿はモダンに改修された温泉宿の川島旅館。まだ6時前で、駅巡りで駆けずり回るように列車に乗る私にしては早い宿入り。
旅の疲れをゆくっくり癒し、翌日は朝8時30分発の留萌市民病院行きに乗る予定だ。
[2020年(令和2年)9月訪問]