自然豊かな風景広がる名古屋都市圏の駅
中央本線(中央西線)の名古屋口の沿線は、近年、名古屋のベットタウンとして発展し、多治見以遠、太多線各駅からの利用者も増加した。
だが、愛知県と岐阜県の県境をまたぐ高蔵寺-多治見間は、そんな発展とは無縁な山間の自然豊かな風景が続く。雑然とした名古屋市内から中央本線に乗り、僅か30分程度でこのような緑豊かな風景に出会るので、名古屋からこの区間に入る時は、いつも心洗われる気分がするものだ。
高蔵寺‐多治見間の中に、定光寺と古虎渓という駅がある。この両駅は、駅前に商店街があったり、多くの民家やマンションがひしめく訳でなく、自然豊かでローカルムード漂う場所に立地する。利用者も少ない。都市型路線と化した中央本線名古屋口にありながら唐突に異彩を放ち、秘境駅と言える趣きさえある。そんな駅が隣同士で連続していて、両駅はまるで兄弟駅だ。停車駅の多い中央西線の快速列車にさえ、この両駅は仲良く通過されてしまう。
古虎渓駅へ…
4月のある日、中央本線の列車に乗って古虎渓駅を目指した。定光寺駅は下車した事はあるのだが、古虎渓駅は初めてだった。定光寺駅を過ぎ、愛岐トンネルの中を出ると、県境を超え岐阜県に入る。そして最初の駅、古虎渓に着いた。私の他に数名が下車した。
中央本線、山深い木曽路の区間の駅のように緑深く、跨線橋に上れば、周囲が緑の山々で囲まれた風景が見渡せる。上りホーム沿いには、新緑の木々が青々しく茂り、その背後には、定光寺駅辺りから、ほぼ寄り添ってきた庄内川を望める。
だが、定光寺駅が崖にへばりつくような場所にあるのに対し、割と低い所に立地し、地上とホームとの高低差は少ない。そのため、周りとの隔絶感は意外と少ない。庄内川の対岸に通じた県道を、せわしく車が行き交う様子をより感じる事ができる。
元ドライブインのような廃屋がやや離れた所に見え、その建物も含めても、駅からは片手で数えられる程度の建物しか見えない。建物の数では、定光寺の方がまだ多い。
しかし、駅の利用者は、定光寺駅が1日約200人なのに対し、古虎渓駅は約1000人と、古虎渓駅の方がはるかに多い。「はるか」と言っても、全体を見れば少ない方だが…。これは駅東側の山の向こうに、市の倉ハイランドという新興住宅地があるからだ。山を大回りするにしても、距離にすれば僅か数キロと意外に近く、こんな秘境駅でも、住人にとっては一応最寄駅として使えるのだろう。
市之倉ハイランドから古虎渓を通り多治見駅に行くバス路線もあるが、駅周辺にバス停は無かったので、少し離れた所にあるのだろうか?駅へのアクセスとしては使いづらそうだ。駅まで不動産屋のページを少し見たが、市之倉ハイランドへのアクセスとして、古虎渓駅が案内されていないのはトホホな状況。でも、駅への公共交通機関が不便、普通列車しか止まらない、日中は30分に1本しか停まらないなど、不便だから仕方が無い。通勤通学で古虎渓駅を使う場合、恐らくは家族が送迎しているのだろう。
駅舎はコンクリートで、小ぶりではあるが立派で丈夫そうな建物だ。有人駅らしいが、窓口はカーテンで閉じられている。この時間帯は…、もしくは今日は休業のようだ。駅舎内には、身なりが粗末なホームレスらしき人が、何故かベンチに横になり眠っていた。駅を寝床にしているのだろうか…?戸惑いながらも、その人に気を使いながら、駅舎をあれこれ見学した。
蛇足だが、古虎渓駅の近くに、この地方では1、2を争う有名な心霊スポット、通称「古虎渓ハウス」と呼ばれる廃墟がある。元旅館という噂があり、かなり不気味で強烈な所とか…。小心な私は、晴天の昼間とは言え、もちろん、そんな廃墟に足を向ける気は起こらない。むしろ逃げるように、上り列車で、隣の秘境駅・定光寺駅を目指したのだった。
[2002年(平成14年) 4月訪問](岐阜県多治見市)
20年振りに、古虎渓駅再訪
この訪問から20年後の2022年4月、古虎渓駅を再訪した。風景や駅施設から駅前の廃墟まで…、前回見切れなかった所から新たな発見まで、よりディープに古虎渓駅を取り上げています。以下の記事へどうぞ!
古虎渓駅へふたたび…~川流れる山間にポツンと佇む都市型秘境駅~