木津川駅 (南海電鉄・高野線(汐見橋線))~大都会・大阪市の秘境駅~



車窓から目に焼きついた大阪市の異空間!!?

2003年1月、南海の高野線の汐見橋駅‐岸里玉出駅間の「汐見橋線」と称される区間に乗った。日本第2の都市・大阪市内の路線ながら、地方のローカル線にも劣らぬ閑散振りに、ただ驚かされた。

 その時、下町の洋風駅舎・西天下茶屋駅、汐見橋駅と言った、ユニークな駅舎が残る駅で下車したが、車内から見ていて気になったのが木津川駅だった。車窓に突然現れたローカル線の駅にあるような貨物ヤードの遺構、時代を感じさせるコンクリート駅舎。そして、他の汐見橋線の駅と同様のひっそりとした様子…

 木津川駅は大阪市西成区の北端に位置する。周辺を見ると、市中心部に直結する利便性の高い鉄道路線がいくつもある。木津川駅の北~東側には、JR大阪環状線の今宮駅と芦原橋駅が半径約1kmの所にある。もう少し離れると、地下鉄の大国町駅、JR・南海の新今宮駅もある。なので木津川駅が例え最寄駅だとしても、少し歩いてでも、大阪中心部の各地に行きやすい駅にまわったほうが、はるかに利便性は高い。

 汐見橋線のターミナル駅・汐見橋駅は街中にある。駅前の道路は広く、ビルや建物が立ち並び、大阪市らしい都会的な風景が広がっている。しかし繁華街だったりビジネス街という訳でもなく、多くの人が集まるような求心力の高い施設も無いように思う。

 西側は大正区になり、鉄道空白地帯となっている。しかし南北に流れる木津川に隔てられてしまっている。しかも至近には住民が気軽に渡れるような橋は無い。

 …と、諸々の状況のためか、木津川駅の乗降客数は1日約170人で、これは他の汐見橋線の駅の中でも、ずば抜けて少ない。高野線の山間区間と大差なく、南海の駅の中でも最も少ない部類に入る。木津川駅は大阪市内にありながら、まさに大都会の秘境駅と言えるだろう。

レトロなムードが残る無人駅

 初めて乗った汐見橋線の車窓から木津川駅を見てから数ヶ月後、青春18きっぷを手に西を目指し、木津川駅に降り立っていた。乗ったばかりだから、他の路線に行って何かのついでにでも寄ればいいと自分でも思うのだが、気になりだすと来ずにはいられなかった。

南海高野線(汐見橋線)・木津川駅、古びたプラットホーム/figure>

 降り立ったのは、ほんの数人。その人たちは直ぐに駅を出て、ホームには私一人だけが残った。ホームの上屋の影に置かれたベンチには、1日に何人が座るのだろうと想像を巡らすと、ベンチがぽつりと寂しげに佇んでいるかのように映った。

 駅の南側では、都市高速道路の高架が汐見橋線を跨ぎ、周りは工場や倉庫と言った感じの建物が多い。線路の東側は住宅も見え、人々の生活空間という感じがする。

南海電鉄・高野線(汐見橋線)・木津川駅、側線ホーム

 駅舎とホームの間には、何本もの側線が挟まれていた。駅舎側には、貨物専用と思われるプラットホーム跡もある。かつてはこの駅もそれなりに賑わっていただろう。ただ、レールは錆び、ホームは雑草が生した資材置場となっていて、もう使われていない事は容易に推察できる。このテの側線跡は地方の旧国鉄駅ではよく見るが、日本有数の都市の市内に残っているとは珍しい。

 列車の中から見ると、このレールは駅南側の倉庫に続いていたと思わせる痕跡がある。Web上で調べると、かつては、高野線で和歌山からの木材が、木津川駅までさかんに運び込まれていて、駅はとてもにぎわっていたとの事だった。

南海電鉄・高野線(汐見橋線)・木津川駅、駅舎ホーム側

 構内踏切を渡り側線を越え、駅舎に向かった。駅舎入口の上に掲げられた看板が、南海のCIが入った現行の駅名板ではないせいか、駅の雰囲気もあいまって、レトロな味を醸し出す。

大阪市内の秘境駅、南海高野線(汐見橋線)・木津川駅

 駅を出ると、舗装されていなく土面が露になった駅前の光景が目に飛び込んできてた。いくら大都会のローカル線とは言え、無舗装とは…。唖然とした。しかし、土面は結構硬くしっかりしていて、雨の日にぐちょぐちょになって困るという事は無いだろう。

 駅の開業は明治33年(1900年)と歴史ある駅だ。今の駅舎が建てられたのは1915年(昭和15年)。ただの四角いコンクリートの建物かと思っていたら、意外とモダンな感じがする。正面出入り口辺りの一角だけは、角が丸くなっていて、その部分の赤い屋根にも緩やかな傾斜が入る。ただの四角い箱になりそうなところが、ちょっとしたアクセントを与えられているのがユニークだ。

路地裏のような駅の謎の訪問者

 周りは工場や倉庫立ち並び、木津川駅は、それらの建物の路地裏にひっそりと佇んでいるかのようだ。いや、まるで工場の裏手の片隅にあるといった佇まいだ。駅前のスペースは狭く、ほんの少し歩くと、細い道路がある。さすがに、舗装されていたが。

 閑散としているが、列車の発着があると、ちらほろと乗降客の出入りがある。このへんが秘境駅といえど、大阪の駅という趣だ。駅舎横に自転車が並んでいるのを見ても、少ないながらも利用があるのが解る。しかし、すぐに数えられる数だ。

南海電鉄・高野線(汐見橋線)・木津川駅、改札口

 無人駅となり窓口の跡は塞がれていた。都会の真ん中で取り残されたような駅では、自動改札機ですら違和感を覚える。


 駅前をぶらぶらしていると、ポリタンクを手にした中年男性が駅舎の中に消えていくのが見えた。数少ない利用者の1人だなと思い、さして気にも留めていなかったが、程なくして、駅を去っていった。手にしたポリタンクは、先程と違い、水で満タンになっていた。う~ん、どうやら駅の水道から、水を拝借したようだ。何食わぬ顔で、駅にやって来て、淡々と帰る様は、まるでいつもの作業をこなすと言った風情だった。この人はホームレスで、駅はこの人の貴重な水源となっているのか…?それとも、近隣の人が、自分の所の水道代を節約するために、駅の水を利用しているのか…?

 色々な個性的な面が混じりあって、1つの駅という空間を作り上げている木津川駅には、強く興味を引かれ、驚く事もしきりだった。でも、こういう秘境駅…と言うか、個性的でディープな駅は結構好きだ。

[2003年(平成15年) 3月訪問](大阪府大阪市西成区)

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