大矢駅 (長良川鉄道・越美南線)~国鉄ローカル線らしさ残す駅~



昭和2年の開業時からの木造駅舎残る駅

 20年振りに、岐阜県の長良川鉄道を訪れ、昼頃、大矢駅で降りてみた。国鉄越美南線時代は美濃下川と名乗り、1986年(昭和61年)12月11日の第三セクター転換時に現在の駅名に変更された。

長良川鉄道・大矢駅、国鉄小駅らしさ残る旅客と側線跡ホーム

 小高い山に囲まれた中、2面2線の相対式プラットホームがあり、さらに駅舎北側に行き止まりの側線ホームがある。国鉄のローカル線小駅の標準的な構内配線だ。こういう配線の痕跡を残している駅は多いが、側線ホームは残っていても、レールは剥がされホームが崩れるなど、廃れきっている場合がほとんどだ。しかし、この大矢駅の場合、側線ホームの側面はコンクリートの板で補強され、錆び付きながらもレールが残る。転換後も使われていたのだろう。

 駅舎の待合室を見ると、男性が座っているのが目に入った。今、上り列車が行ったばっかりなので、迎えを待っているのだろうか…。まあ、他の所から見ていこう。

長良川鉄道・大矢駅、素朴で味わいある木造駅舎が残る

 駅舎の正面にまわってみた。駅開業の1927年(昭和2年)以来の木造駅舎は、古色蒼然とし昔ながらの造りを良くした佇まいは非常に味わい深い。小奇麗に改修された駅舎には無い風格を宿す。サッシ窓に取り替えられているが、それをちっぽけな問題にしてしまっている。左右に植えられた植栽は、ローカル線の駅らしいゆとりある光景で、古き駅に趣きを添える。

長良川鉄道・大矢駅、木の質感溢れる木造駅舎

 近づいてみると、磨り減らされ使い込まれた木の質感がまさに眼前に迫り来る。これぞ木造駅舎と声に出して賞賛せずにはいられない。

 事前にネット上で長良川鉄道の駅舎をざっと見て、いちばん気になっていたのがこの大矢駅だった。しかし、実際に降り立ってみると、期待以上の素晴らしさだ。

長良川鉄道・大矢駅の木造駅舎、修理され使われる木の柱

 しかし、車寄せを支える木の柱を見てみると、補修の跡が傷跡のように生々しく残っていた。痛んだ一部が新しい木材に取り替えられ、古い部分と新しく取り替えられた部分は鉄の板で接合されている。古き良き味わいをその身にまとう事と、廃れゆく事は紙一重…

長良川鉄道・大矢駅、余裕ある駅構内スペース

 駅舎左手には、更に駅の敷地が広がっていた。先程見た側線ホームがある辺りだ。現代のローカル線の無人駅は、ホームに待合室という最少の設備がコンパクトにまとめられた駅が多いが、昔の駅には貨物などを扱うこんな広い空間が、ほとんどの駅にもあったのだ。

 しかし見渡すと、隅に駐車されている白い軽トラックが、唯一使われていそうなものだ。あとは廃棄された電柱が山積みになっていたり、標識が無造作に置かれていたりと、廃材置き場と化していた。

長良川鉄道・大矢駅、駅構内の詰所など建物

 その敷地の奥に進むと、隅に3棟の小屋が並んで建っているのが見え、更にレールを隔てた反対側にも木造の小屋があるのが見えた。3棟並んだ建物のいちばん奥のものは、かなり古そうな木造の建物だが、他の2つはプレハブで木造のものよりは新しそうだ。

 でも建物をつぶさに見ていくと、どれも荒れていて、今では打ち棄てられているのが解る。たぶん、この敷地は第3セクター鉄道に転換された後しばらくは、保線基地として使われていたのだろう。

長良川鉄道・大矢駅、駅前のこじんまりとした街並み

 駅前からの道を出ると一本の道と交差した。車がやっと擦れ違える程度の細い道で、かつては商店なんかもあったようだが今では閉店となってしまっている。すぐ西側を流れる長良川の対岸に国道が通っていて、車のほとんどはそちらを走るのだろう。駅周辺はひっそりとしていた。

長良川鉄道・大矢駅、木造駅舎と駅前の桜の木

 駅舎に振り返ると、少し坂を上がった所に、木造駅舎があるのが見えた。道の両脇には、桜の老木がアーチを造るように枝を伸ばしている。ああ…、春に来てみたいものだ。

 待合室を見てみると、列車の発着が無いにもかかわらず待合室にいたあの男性が、いつの間にかいなくなっていた。そう言えば、白い軽トラックも無くなっていた。迎えを待っていたのではなく、静かな休憩場所を求めて、この大矢駅に来ていたのだろう。

 待合室のやや広めだ。そして内部は、木造駅舎らしい造りを留めながらもきれいに改修されていて、廃れた雰囲気は無い。休憩に来たくもなるだろう。

 窓口まわりは大きく改修されていた。右側に改修された出札口跡が残るのみだ。

 左側の窓口跡を見ると、サッシ窓越しにダンボールが置かれているのが目に入った。以前は何かの会社が入居していたのだろうか…?長良川鉄道は無人駅の駅舎を賃借しているケースも見られるが、この駅にもそんな気配が残っている。同社のウェブサイトを見ると、大矢駅の旧駅事務室も貸し出し中の旨が告知されていた。どなたか、いかがだろうか?

長良川鉄道・大矢駅の木造駅舎、待合室の造り付け木製ベンチ

 何かと改修されている待合室だが、造り付けの木製ベンチは見事に昔のままの造りを留めていた。磨り減り皺のように浮かび上がった木目が、この駅の年月を私に静かに語りかける。

岐阜県郡上市、長良川鉄道・大矢駅の円空仏の複製品

 プラットホームには、三体の円空仏が置かれ「円空のふるさと美並」という看板が添えられていた。今は郡上市の一部となっている旧美並村は、円空の出生地と推定されているという。

 仏像はさすがにレプリカなのだろうが、木をざっくりと削っただけの素朴さは親しみやすく、独特の魅力を感じるものだ。

長良川鉄道。大矢駅に入線するレールバス

 円空仏は優しい顔で駅という空間に佇んでいる。きっとこの古き木造駅舎と行き来する列車を見守ってくれているのだろう。

[2015年(平成27年) 11月訪問](岐阜県郡上市美並町)

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 三つ星 旧国鉄の三つ星駅舎