源平の古戦場に佇む明治の木造駅舎
富山県の県境がすぐ近くにある石川県東端の駅・倶利伽羅駅で下車した。北陸新幹線開業でJR北陸本線が第三セクター鉄道化された区間、IRいしかわ鉄道とあいのかぜ富山鉄道の境界駅で、前者が管理する駅だ。
特急白鳥、トワイライトエクスプレス、特急しらさぎ、寝台特急日本海、急行きたぐに、419系の普通列車…、北陸本線時代から何度も通り過ぎた道だが、こうして下車したのは初めてだ。
駅舎に行こうと跨線橋の前に立つと、ステップの側面に大きく描かれた二つの家紋が目の前に現れた。駅の近くには源平の合戦の1つ、1183年の倶利伽羅峠の戦いの古戦場に近い。低いところに源氏の家紋である笹竜胆(ささりんどう)、少し上った所に平家の家紋である揚羽蝶(あげはちょう)があしらわれている。
ホームと駅舎の間は、不自然に離れている。かつて両者の間に北陸本線の旧線が通っていた名残の空間で、アスファルトで埋められた中から、僅かに旧線ホームの造りが姿を覗かす。
倶利伽羅駅の木造駅舎は駅開業の明治41年(1908年)12月16日以来のものがいまだ現役だ。しかし大きく改修されていて、まるで近年に建てられた駅舎のようだ。
駅から坂を下れば集落があるらしいが、周辺は山中のような風景でひっそりし、ちょっとした秘境駅の趣漂う。
おそらく外壁の板張りは新しいものに変えられたり、窓の柵も後付されたものなのだろう。しかし改修された駅舎からは、昔のままの造りの古い木材が垣間見える。茶色くつやつやしたペンキの下にはいくつもの木目が浮かび上がっていた。
待合室もすっかり改修され、昔を感じさせる面影は無かった。無人駅で小高い山に囲まれた風景もあって、駅に私以外の人の気配が無い駅の待合室はどこか殺風景な空気感さえ漂う。
つぶさに見ると、軒や柱、骨組みとなっている木材など、使い込まれた木材のままだ。新築のような駅舎だが、古くから使い継がれている建物らしさはしっかりと隠し持っているもの。明治という長い歴史を垣間見た気分だ。
[2017年(平成29年) 4月訪問](石川県河北郡津幡町)
~◆レトロ駅舎カテゴリー: JR・旧国鉄の一つ星駅舎~