岐阜県最北端となった駅
高山本線の列車は、強い雨のためか数分遅れて杉原駅に到着した。駅は山間の斜面に立地し、ホームより一段高い所に駅舎があった。石垣の上に木造駅舎がある風景は独特の風情がある。
階段の上には、「飛騨最北端の駅 杉原」と書かれた駅名標位の大きさの看板が掲げられていた。この山深い駅は岐阜県最北の駅なのだ。かつての国鉄神岡線から転換された神岡鉄道の飛騨中山駅だったが、同線の廃線により、最北の座はこの杉原駅に。
20年以上も前に無人駅となっているが、しっかり木造駅舎が残っている。サッシ窓に替えられているが、茶色く塗られ素朴さを残した駅舎は、なかなかのもの。
駅前の道は駅舎より更に一段高い所に位置し、木造駅舎を俯瞰できる。そして周囲は緑深い山々が取り囲んでいる。雨が強く濃い霧がかかり、この集落だけ閉ざされているかのようなミステリアスな雰囲気が漂う。
駅前の集落にはレールに沿うように一本の道が通り、その両側に家屋が点在する。時折、車が通り過ぎてゆく以外、人通りもほどんど無い。
しかし駅から階段を上がって正面にある商店はなんと現役だ。驚く程の事でも無いようだが、駅巡りで目にするローカル線の駅前商店は、店跡だけ残り閉店となっている所が決して少なくない。そういう建物を見るにつけ、駅の衰退を肌で感じ侘しい気持ちになるものだ。なのでこうして現役の駅前商店を見られると嬉しくなって来る。
なので商店の前に飲料の自動販売機があって、あらかじめ食料は確保してあったが、やはりこの店に入って何かを買ってみたかった。民家の一角の一坪ちょっとの狭い店舗は、食料品中心の品揃えだ。シンプルな品揃えだが、きっとこの集落の人が、車で遠出しなくても必要なものを手に入れられる不可欠なお店なのだろう。表には「種鮎」の看板も出ていた。鮎の友釣りで使う囮になる鮎の事で、宮川など近くの川で鮎釣りをする人の需要もあるのだろう。
飴玉とドリンクを買ったついでに店番のおばさんに
「雨が強いですけど、列車って動きますかね~?」
と話しかけてみた。雨が相変わらず強く不安に感じていた。すると
「大丈夫ですよ!」
とすぐに答えてくれた。
地元の人が言う事だ。大丈夫だろう。
高山本線のこの区間の列車本数は少なく、次の列車は2時間後だった。まだまだ時間はたっぷりある。当分、誰も来ないだろう。待合室にある古い木製ベンチに座り、その横に濡れた持ち物を乾かそうと広げた。そして疲れた体で雨音を聞きながら目を閉じていると、いつしか眠りに落ちていた。
[2013年(平成25年) 7月訪問](岐阜県飛騨市)
- レトロ駅舎カテゴリー:
- JR・旧国鉄の一つ星レトロ駅舎
杉原駅・基本情報+
- 鉄道会社と路線:
- JR東海・高山本線
- 駅所在地:
- 岐阜県飛騨市宮川町杉原
- 駅開業年:
- 1932年(昭和7年)8月20日
- 駅舎竣工年:
- 1932年。※開業時の駅舎。
- 駅営業形態:
- 無人駅
- その他:
- 開業翌年、二駅南の坂上駅まで延伸開業するまでは終着駅だった。