神戸駅(JR西日本)~瀟洒な貴賓室があった重厚な洋風駅舎~



東海道本線の終点、山陽本線の起点の駅

東海道本線終着駅、山陽本線始発駅の神戸駅のプラットホーム

 大阪難波駅から阪神電車に乗り三ノ宮駅に。そして神戸駅にやって来た。ゆとりもって配されたプラットホームと、重厚な上屋が私鉄と違う国鉄駅らしさを漂わせていた。

JR神戸駅、東海道本線・山陽本線のキロポスト

 神戸駅は東京駅から続く東海道本線の終点、そして門司駅へ伸びる山陽本線の起点の駅だ。5番ホームから見える所に、その事を示すキロポストが設置されている。もっとも両線で途切れなく列車は運行されていて、地元の人々にしてみればJR神戸線と言った方が耳に馴染んでいるかもしれないが…

JR神戸駅、ほとんど使われない1番ホーム

 神戸駅は高架駅で、2面3線に加え5番線の外側に引き上げ線がある構内配線だ。上り線の1番線はかつては優等列車が使っていたという。現在では朝ラッシュ時に僅かの列車しか入線せず、それ以外の時間帯は閉鎖されている。

 神戸駅は市の名を冠する事から察せられるように、神戸市の国有鉄道側の中心駅だった。今でもJR西日本の駅の中では上位に位置するほど乗客数は多いが、阪神や阪急と言った大手私鉄もターミナルを構える三ノ宮駅に、中心駅の地位は移った感だ。

堂々たる洋風駅舎

JR神戸駅舎、高架下コンコースの重厚な柱

 改札を通り高架下を東西に貫くコンコースに出ると、ずっしりとした円柱が並ぶ。現代の駅らしく店舗が並ぶが、昔ながらの主要駅らしいムードが漂う。

 乗降客が多く、駅舎は改修されながら使われているのだろう。柱はきれいだが、天井近くの部分には古い装飾が残されたままだ。

 神戸駅には1930年(昭和5年)、駅の高架化に先駆けて建てられた洋風駅舎がいまだに健在。よく阪神淡路大震災を耐え抜き生き残ってくれたものだ。形状はシンプルで質実な感じだが、渋い茶色のスクラッチタイルが敷き詰められた洋館は威風堂々。いまだに神戸第一の駅だった頃の風情を漂わせている。

 このJR神戸駅舎は2008年(平成20年)、近代化産業遺産に認定された。

JR神戸駅、レトロな駅舎に掲げられる大時計

 大きな採光窓が並ぶ様も味わい感じさせる。

 建物の中心部には大時計が埋め込まれ、現在でも時を刻む。最近、スマホなどで誰もが時間を知る術を持っているから、駅から時計を撤去する動きがあるというニュースがあった。だけどレトロなターミナル駅では、こんなふうに大時計を堂々構える姿がやはり似合っている。

JR神戸駅、東・海側の「浜手側」

 神戸では六甲山のある側を「山手」といい、海側を「浜手」という。駅舎がある山手側とは反対の浜手に出ると、目の前には街並ではなく都市高速の高架が立ち塞がり、タクシー乗り場や一時駐車スペースなどが雑然と映る。奥には高層ビルが立ち並ぶ。裏口に出てしまった感あり戸惑うが、商業施設の神戸ハーバーランドと地下街で繋がっている。

 神戸駅の浜手側は駅舎のような構造物は無く、すぐ高架下の駅施設となる。しかし壁面はタイル張りで、デザインは山手側の駅舎に準じている。

貴賓室は今…

 神戸駅と言えば、天皇皇后陛下も利用された貴賓室があった事で知られている。私も2005年に訪れた時、飲食店の奥に残された貴賓室内をガラスの仕切り越しに見たものだ。長い間、貴賓室として利用実績こそはなかったものの、玉座まで残っていた。

 その貴賓室も無くなったのはおぼろげに覚えていた。

 ふとその事を思い出した。貴賓室の跡はどうなっているのだろう…?スマホで検索してみた。すると貴賓室という位置付けではなくなったが、部屋自体は潰される事無く残り、飲食店として使われているとの事。

 駅舎コンコース内から山手の方を見て右端の「がんこJR神戸駅」がその店舗らしい。がんこは和食チェーン店で、JR神戸駅では寿司も売りらしい。ホテルの朝食ビュッフェを食べ過ぎ、昼になってもお腹は空いていなかったが、ここまで来たらやはり見てみたい。貴賓室のテーブルに座りたい事を伝えたが、夜の団体の準備があると断られた。しかし見学は快く許可してくれた。

 そして注文を終えると貴賓室に案内された。

JR神戸駅旧貴賓室、今は飲食店だが昔の内装が良く残る

 一般席の奥の扉の向こうが貴賓室だった。貴賓室の象徴たる2脚の玉座こそ無く、代わりにテーブルが4脚並んでいる。しかし、シャンデリアやカーテンなど瀟洒で気品ある内装はそのまま。「おぉ…!」と思わず感嘆の声が漏れ出てきた。まるでクラシックホテルのダイニングか…、いや北野にある異人館の中いるかのような心地だ。

 駅の施設としては貴賓室はもう存在しない位置付けになっている。しかしもっとも貴賓室らしい姿を留めた空間はなおも存在していたのだ。

JR神戸駅貴賓室、大理石の暖炉や木の扉

 壁には大理石でできた暖炉も残っている。刻まれた細かな彫刻もそのまま。高級そうな暖炉だ

JR神戸駅貴賓室、昔からのシャンデリアが残る室内

 古くから残るシャンデリアが輝き、一際印象深い。

 室内には着物姿の女性や紅葉の渓谷など、和風の趣の絵画がいくつか飾られていた。和と西洋が調和した空間は何と麗しい事か。

JR神戸駅貴賓室、昔のままの木の板張りの床

 床の木の板張りも昔からのものがそのまま残っているという。真っすぐ敷かれているのではなく、短い板でカクカクと模様を描いているように組まれている凝りようだ。

JR神戸駅貴賓室、出入口扉の装飾と古い時計

 出入口上の透かし窓の造りはおたふく窓風だ。その上には真鍮製だろうか…?レトロな壁時計が掛けられていた。この時計は古すぎて修理しようが無いのだろうか?12時を指して止まったままだった。


 庶民的な和食チェーン店でどう使われているのかと思ったが、鉄道の古き良き時代の香りが漂う貴賓室は期待以上だった。新たに置かれたテーブル、椅子や仕切りは内装に合い、よくこの状態を尊重しながら営業してくれてるものだ。「和食」というのもミスマッチで面白い。

 見学と撮影に夢中になっていたが、注文の品が出されてから少し経ってしまい席に戻った。大いに満足した心地で料理もいっそう美味しく頂いた。また来たい。


 現駅舎が築100年を迎える2030年を目処に、神戸駅を全面的にリニューアルする計画が進行している。雑然とした駅周辺を整備し景観を改善し、また回遊性を高め地域の活性化に繋げる事がメインになりそうだ。素案ではバスターミナルや駐輪場を移転し、歴史ある駅舎を背景に、周辺をゆとりある広場や公園風の空間にしたり、駅前から湊川神社を見えるようにする事などが構想されている。

[2022年(令和4年6月訪問)]

レトロ駅舎カテゴリー:
三つ星 JR・旧国鉄の三つ星レトロ駅舎

追記: 貴賓室を使っていた飲食店が撤退

 「がんこ」が2023年1月末日をもって神戸駅から撤退した。貴賓室は閉ざされた状態に…。運営会社は後継テナントを募集しているというが、旧貴賓室の取り扱いはテナントの意向を踏まえるとの事。利用が多い駅内という好立地なので、次が決まるまで時間は掛からないかもしれない。しかし、貴賓室のあり方はテナントの考えに掛かっていて、存亡の危機にあると言えるだろう。

神戸駅FAQ+基本情報

  • 神戸駅の現駅舎が建てられたのはいつ?

    1930年(昭和5年)。駅の高架化に伴い建てられたコンクリート駅舎で、三代目駅舎になる。

  • 旧貴賓室は利用できる?

    入居していた飲食店「がんこ」が、2023年1月末日を最後に閉店したため、非公開の状態に。後継テナントを募集しているが、貴賓室が維持されるかは、テナントの意向を踏まえるという。

  • 他にどんな鉄道路線と接続している?

    神戸市営地下鉄・ハーバーランド駅、神戸高速鉄道・高速神戸駅(※運行は阪神電鉄、または阪急電鉄の神戸高速線として行われる)。

  • 神戸駅の所在地は?

    兵庫県神戸市中央区相生町3丁目1-1

  • 神戸駅はいつ開業した?

    1874年(明治7年)5月11日、官設鉄道の駅として大阪-神戸間の開通時。これは日本初の鉄道である新橋‐横浜間に次ぐ、2番目に古い鉄道路線。