開業の大正以来の古い駅舎が現役
北条鉄道は国鉄北条線から転換された兵庫県の第3セクター鉄道だ。
法華口駅は、播州鉄道として大正4年(1915年)に開業した時以来の古い木造駅舎が現役だ。駅舎はこれといって際立った造形やインパクトはないが、素朴でありふれた造りで、年月を纏ったような鄙びた雰囲気が趣深く印象的だ。
しかし、屋根に掛けられている白いシートが目立つ。台風で破損したため、応急的に被せているらしいが、まるで駅舎が包帯をしているかのようで痛々しい。その他にもあちこちで傷みが目に付く。北条鉄道は経営が決して楽ではなく、改修の費用もままならないのだろうか。
ホームに置かれている木製ベンチと駅名標はかなりの古そうだ。年代ものとさ言える2つの備品は、駅舎と共にレトロさを奏でているかのように、味わいが深い風景が更に深まっていく…。
法華口駅出入口の独特の古く鄙びたムードに心魅かれた。長年の年月を感じさせ、当時の面影をよく残していると思わせる造りだ。
駅舎の周りには、最近、街中ではほとんど見なくなった木製の電柱が何本も立っている。どれも使い古され年季が入っている。
駅舎内の待合室は、壁に巡らされた古い造り付けのベンチが印象的だ。やや広めだが、自転車置き場としては好都合のようだ。近年は利用者が減少してしまったためだろうか。
駅舎内部には、駅名の由来となった一乗寺に関する展示があった。一乗寺は650年創建という古刹で、国宝の三重塔があり、その他重要文化財や県指定の文化財をいくつも擁する。しかし、約5kmの距離があり、バスへの乗り換えが必要だ。
もう一つ、旧海軍の鶉野飛行場跡と、関連する国鉄北条線の列車転覆事故などを紹介する展示があった。
鶉野飛行場は、戦時中、パイロットを養成する必要に迫られた日本海軍が、突貫工事で1943年9月に完成させたものだ。1945年3月31日、訓練飛行中の海軍の戦闘機「紫電改」が、不時着のため、北条線のレールに接触しレールを曲げてしまった。その直後に通った列車が転覆し、死者11人、負傷者104人を出す大惨事となった。当時、軍の機密として、列車転覆の原因が戦闘機である事は伏せられていたという。
駅舎をホーム側を見てみた。こちら側にも古びた木製の電柱が立ち並び、木造駅舎のレトロさをより引き立てているかのようだ。まるで何十年前も昔の駅風景さながらで風情あり味わい深い。
反対側ホームには使われていないプラットホームが残っている。しかし、交換設備の復活が予定されているという。再び法華口駅で列車の交換が見られる日はそう遠くないかもしれない。
2006年は全国的に紅葉が遅く、法華口駅も12月中旬なのに、廃ホームの上に綺麗に色付いた紅葉(もみじ)を見る事ができた。廃れて寂しい風景が一転、鮮やかに彩られている様に、私の目は強く引き付けられた。紅葉の木の大きさは、プラットホームが廃止されてからの年月を物語っているかのように、廃ホームにどっしりと構えていた。
[2006年(平成18年) 12月訪問](兵庫県加西市)
追記: その後の法華口駅
2012年11月3日、駅舎内にパン屋「駅舎パン工房 Mon Favori」がオープン。それに伴い、駅舎も大きく改修されたとの事。
ウェブ上で見た改修後の駅舎は、店舗として結構手を加えられているようで、この訪問記のような、鄙びたムードではなくなった様子。だけど素朴な木造駅舎らしい雰囲気のある外観なので、悪くは無い。まあ、パン屋なのでパンが美味しければ全て良し。こういう風に木造駅舎に再び生命を吹き込むように活用するのは素晴らしい取り組み。また訪れたい駅だ。
パン屋開店当初から店長の女性がボランティア駅長も兼任していたが、その方は2017年に退任されたとの事。
2014年(平成26年) 4月25日、駅舎が国の登録有形文化財に指定された。
国民的なアニメ番組「サザエさん」オープニングの、2017年春編・夏編で、兵庫県の名所が舞台となり、春編(4月~6月)に加西市が登場。サザエさんが法華口駅を訪れるとか…。
~◆レトロ駅舎カテゴリー: 旧国鉄の一つ星駅舎~
※改修前は二つ星にランクしていたが、改修により一ランク下に改定した。
法華口駅基本情報
- 鉄道会社・路線
- 北条鉄道・北条線
- 駅所在地
- 兵庫県加西市東笠原町沖
- 駅開業日
- 1915年(大正4年)3月3日 ※播州鉄道の駅として。
- 駅舎竣工年
- 1915年(大正4年) ※駅開業以来の駅舎
- 駅営業形態
- 無人駅
- その他
- 法華口駅のパン屋: 駅舎工房モン・ファボリFacebookページ