駅正面を占める緑豊かな庭園
山陰本線の兵庫県西端にある居組駅は秘境駅としても知られる。
改修されているものの、1911年(明治44年)の駅開業時に建てられた古い木造駅舎が健在だ。
駅舎正面には、生垣で囲まれた庭園のような空間がある。植栽も豊かで、駅にこんな庭園が丹念に整えられている様は、まるで庭園の中に駅があるかのようで、味わい深い。
ある人から、この駅にも枯れた池庭の跡があると聞いていた。
枯池は駅舎正面から見て左側の生垣の方にあった。通路に沿ったような形状の長細い池は、駅に出入する時には必ず目が入ったまさに庭園の主役だったのだろう。水を湛えた池ときれいに花や緑が整えられた庭園は、乗降客や駅員さんを和ませたのだろう。しかし夏の盛りの今、枯池や周辺は草がぼうぼうで、元の風景を想像するのも難しい。
池の側面には鉄パイプが埋め込まれていた。かつての注水口だったのだろうか?今ではすっかり錆びてしまっているが…。
枯池の縁の方を見ると、いくつかのコンクリートのブロックが枯池の中に遺棄され、雑草に埋もれているのが目に入った。最初はたいして気にも留めなかったが、もう一度見てみると、ブロックの1つが平たい6角形である事に気付いた。お、これはもしかしたらこの池に添えられていた灯篭で、6角形のものは灯篭の笠だったのかもしれない…。
他のブロックをよく見てみると、側面に三日月形の穴が開けられているものがあった。たぶん灯篭本体なのだろう。この灯篭は、実際には明かりが灯らなく、灯篭を模しただけの単なる飾りなのかもしれない。しかし灯ったとしたら、夜の闇の中、池の上に小さな月が浮かんでいるような風景が作り出されていたのかもしれない…。
[2015年(平成27年) 8月訪問] (兵庫県美方郡新温泉町)
追記
明治の木造駅舎は、私の訪問から約2年数ヵ月後の2018年12月に取り壊され、待合室のみの小さな駅舎に建替えられた。このニュースを報じた神戸新聞の記事の一文を、書き添えたいと思う。
『…住民有志が手入れを続けている駅舎前の庭園は、JRに要望し、建て替え後もそのまま残されるという…』
~◆レトロ駅舎カテゴリー: JR・旧国鉄の失われし駅舎 ~
居組駅訪問ノート
居組駅の周囲は山や密生する木々に閉ざされ鬱蒼とし、駅至近に人家は見当たらない。そして人の気配がほとんど無い。いわゆる秘境駅だ。
しかし県道128号線を20分ほど下れば、人の気配がそこそこあるまとまった集落に出る。
駅に戻ろうと元来た道に振り返ると、道の先は緑豊かな山…。暑い中、あそこに戻らなければいけないと思うとうんざりした。しかし、今でこそ駅は寂れてしてしまっているが、これは住人の人々が雨の日も風の日も駅へと通った道なのだ。住人の方々の苦労を思うと、太陽が照りつける中、同じ道を辿った。
(※姉妹ブログ関連ページ: 山陰本線、兵庫県日本海側の名物秘境駅を巡る旅)