味わい深い小湊鐡道型の木造駅舎
二日間かけて小湊鉄道の駅を堪能する旅。昨日は月崎駅など、いくつかの駅を巡った。東京など首都圏近くにありながら、田舎のローカル線の風景を堪能でき、しかも桜満開の春もあってか、車内は立客が多くでる程の大賑わいだった。一部の駅もしかり。
この調子なら、2日目にとっておいた上総鶴舞駅も同様に大勢の人が来るだろう。上総鶴舞駅は関東の駅百選に選出され、数ある小湊鉄道の駅の中でも一番人気だ。
せめて人が少ない内にと、朝早くに五井駅前のホテルを出た。
上総鶴舞駅に到着した。構内は広く、旅客ホームはかつて2面3線だったようだが、今は駅舎に面した1線のみ使われている。
廃止された島式ホームは廃れながらも残っていた。その周りには、植えられた桜や菜の花がささやかに咲き誇る。まるで、風化した遺跡を鉢にした盆栽か何かの作品のようで、不思議な春の風情が美しく映った。
ホーム南側、上総中野の方に出てすぐの線路沿に、桜が何本も植えられている。初めて上総鶴舞駅を訪れた十数年前、この木々は植樹されてあまり経っていないように見受けられ、簡単に手折られそうなほどか細かったのが印象的だった。よくここまで成長したもの。
駅舎の正面に回った。レトロさ漂う木造駅舎は開業の1925年(大正14年)3月7日以来のもの。当初の駅名は鶴舞町という駅名で、1958年(昭和33年)に現在の上総鶴舞駅となった。
派手さは無いが大きな改修は施されていなく、木造駅舎らしい素朴な佇まいが趣深い。
小湊鐡道には今でも多くの木造駅舎が現役で使われているが、その内の7駅が上総鶴舞駅と同デザイン。素朴でどこにでもありそうだが、意外とそうでもなく、いわば小湊鉄道型の木造駅舎と言える。
上総鶴舞駅は首都圏に近いのに素朴な木造駅舎があり、田舎らしい風情を味わえるので、ドラマ、映画、CM、ミュージックビデオなどロケ地となる事も多い。私は1990年代前半の、内田有紀主演のドラマに出てきたのを覚えている。ストーリーはもうよく覚えていないが、駅の佇まいは印象的だった。それ以来、この駅の存在が心の片隅に刻まれたのだろう。
駅舎正面左側約4分の1が少し出っ張っている。出っ張り側面の膝の位置あたりに、小さな引戸がある。人が出入りしたり、物のやり取りをするには小さ過ぎで、何なのだろうと気になった。あまたの木造駅舎の造りを考えると、宿直室や休憩室のような部屋で、換気のための小窓だったのだろうか…?
駅舎内部は、小荷物用の窓口こそカウンターが撤去され塞がれているが、その他の部分は昔ながらの造りをよく留め懐かし雰囲気。
無人駅ながら、出札口の造りも昔のまま。木のカウンターなど、ペンキ越しに使い古された木の質感が伝わってくる。
旧国鉄の駅ではガラス窓になっている事が多いが、木の壁にアーチのような穴をあけた感じl茶色い木枠の鉄柵は後付けだろうか?でも、この鉄柵も小湊鉄道のいくつかの駅で見られ、こんな所も小湊鉄道型の造りなのが面白い。
改札口から、少し駅事務室の中を覗いてみた。無人駅となってからだいぶ経つのだろうが、まるで撤収したのがついこの前かのように、そのままの造りを留めながらガランとしていた。いつか中を見学したいもの。
木のラッチが残った改札口の向こうを、古豪気動車が走り抜けてゆくのが、何ともノスタルジックさ溢れる。
2017年(平成30年)、この駅本屋(駅舎)は、駅構内に残る旧鶴舞発電所、貨物上屋と共に登録有形文化財に登録された。
賑わいの香り残す駅に咲く桜
さて、駅舎の反対側にある鶴舞発電所跡でも見に行こう…
駅の裏手は草生えた土地に轍(わだち)が伸び、のどかな田舎らしさ溢れる風景が広がる。桜も咲き、まるで春の山里を歩いているようで癒される心地。桜の向こうに佇む駅でさえ、遠くにあるかのよう。
駅裏にあるトタン張りの廃墟のような建物が旧鶴舞発電所だ。駅舎と同じく1925年(大正14年)築。鶴舞駅に電気を供給するために建てられた火力発電所だが、周辺の町村にも電気を供給していたという。
中は保線用具と思われるものがいくつもあった。今では倉庫として使われるようだ。
駅の北側、五井方の敷地には行き止まりの側線跡が広がっている。雑草が広がる中、枕木が僅かに埋まり、側線ホームと貨物上屋が残る。3~4線分位はあったのだろうか…?かつての賑わいを感じさせる。
側線跡には貨物上屋が残っている。周りにはレールや信号機器など、鉄道施設の部品が置かれている…というか放置されている。
貨物上屋は四方がトタン壁で囲まれ、人が出入りする扉が1つあるだけだった。旧国鉄の駅なら、壁でがっちり囲まれている訳でなく、もっと開放的な造りなのだが。貨物上屋としてではなく、倉庫として使われるようになって、壁で囲われたのかもしれない。
駅舎横には桜だけでなく菜の花も植えられている。その中を列車が走っていく風景は何てメルヘンチックで幻想的か…
去り際、惜しむように最後の一瞬まで木造駅舎を見つめた。いい駅舎、いい駅だったなぁ…
[2014年(平成26年)4月訪問](千葉県市原市)
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