リニューアルされた木造駅舎は山陰最古の駅舎
サンライズエクスプレスや特急いなばなどを乗継ぎ、桜訪れた春の山陰路へ…。普通列車に乗り換え木造駅舎が残る御来屋(みくりや)駅で下車した。
典型的で素朴な木造駅舎と言えるのだが、1902年(明治35年)、山陰初の鉄道として、境港-御来屋間が開業した当時から残る山陰最古の駅舎だ。2002年(平成14年)に山陰鉄道発祥100周年を記念して、昔ながらの雰囲気を大切にしたリニューアルが施された。
外観だけでなく、窓口や待合室も整備された。窓口は無人駅ながら昔の造りを良く留めて、いっそう味わい深い。出札窓口は2つあるが、窓口毎にカウンターが独立している造りが面白い。隣の一段低い手小荷物受付用の窓口も木の造形のままだ。
駅の外に出て御来屋駅の駅舎全体を見渡した。明治に建てられた古い木造駅舎だが、きれいに整備されたため廃れた雰囲気は無く、古い造形を保ちながらも、どこかつややかさを感じさせる。そんな素朴な古駅舎に、満開の桜が華やかさを添える。
午前で、太陽は駅舎の背後に回り込むという完全な逆光で撮影に一苦労だ。
近づいて見ると、下見張りで、板が一枚一枚丁寧に重ねられているのが解る。こげ茶色に塗装され、木造駅舎らしさを強調する。そんな駅舎には丸ポストが寄り添っているのが、えも言われぬレトロなムードを奏でる。
かつての駅事務室は地元産品市場「みくりや市」に
いつの間にか窓口跡のブラインドが開けられ、旧駅事務室の内部では明かりがともっていた。そして人の気配がする。駅はとうに無人化されているが、かつて駅員さん達が忙しく働いた旧駅事務室は「みくりや市」と呼ばれる地元産農作物などの販売所として利用されているとの事。
小荷物用の窓口は、ショーケース風に改修されていて、中には廃止された急行だいせんのサボやイベント列車のヘッドマークなどが展示されていた。周りには山陰本線全通までの歴史が書かれた年表や、御来屋駅の紹介も掲示され、ミニ鉄道資料館と言った雰囲気だ。
10時のみくりや市開店と同時に、空いていた駅の駐車場は、いつの間にか何台もの車で埋まっていた。逆光とは言え、駅舎を早めに撮っておいて良かった。駅前には、みくりや市の客を当てにしてか、移動式のパン屋もやってきて、スピーカーから音楽を流し来客を誘う。静かだった駅が突然活気付き、みくりや市が地元の人々に根付いている事を感じる。
人々に親しまれ駅を活気付けている「みくりや市」とはどんなものなのかと思い、駅舎左手寄りにある看板やのぼりを掲げた出入口の扉を開けてみた。
中に入ると、野菜の青々しい香りに包まれた。店の真ん中には、運搬用のカゴの中に入ったまま野菜が陳列されている。ブロッコリー、キャベツ、レタス…、採れたての野菜だ。カゴには生産者の名前のシールが貼られ、生産者が身近に感じられるのもいい。泊りがけの旅でなければ、ここでたくさん野菜を買って、家に帰ったら今晩の食卓に並べて食べたいくらいだ。
他には海産物、漬け物、たまごなども売られていた。特に大山町陣構地区で栽培される陣構紅茶が気になる。ミニカフェが併設され、店内でも味わう事ができ、ティータイムにと一杯注文。店員さんに、「新鮮な野菜の香りが心地いいですね」と話しかけると、「いつも居るから分からない」と…。いやはや、なんとも贅沢な!
たくさんは買えないのが残念だが、記念に陣構紅茶を1パック購入した。
駅舎横の軒下は、かつては改札口がいくつか並んでいたのだろうか…。今では改札は取り払われ、ブロック壁が組まれ、漁村の風景が描かれていた。日本海に面した大山町の漁港だろうか?
2番ホームには貨物車掌車の廃車体を利用した待合室が設置されていた。もっと近くで見てみたかったが、もう次の列車が来てしまう…。
今日は小春日和で暖かい。2番ホームと周囲の農村風景の向こうには、頂上に薄っすらと雪を残したままの大山の雄姿を望むことができた。
[2007年(平成19年) 4月訪問](鳥取県西伯郡大山町)
~◆レトロ駅舎カテゴリー: JR・旧国鉄の三つ星駅舎~
追記: その後の御来屋駅
駅舎待合室内に「小荷物運賃表」という手書きの看板が掲げられるようになった。昔、駅から駅へ個人が荷物を送る事ができ、いわば宅急便的に利用されていた。その料金表で、貨物輸送全盛期を感じさせる。昭和初期から戦前まで使われていたものとの事。
2016年(平成28年)11月29日、駅本屋(駅舎)と旅客上屋が国の登録有形文化財に指定された。