桃山駅 (JR西日本・奈良線)~明治天皇の大喪列車を受け入れた由緒ある駅の今~



大都市・京都の街中の木造駅舎

 ある日の午後、京都駅からJR奈良線の普通列車に乗った。車内は地元民よりも、色々な国の人が目立ち混み合っていた。外国人観光客が急増する日本有数の観光地である京都を象徴するような風景に身を置き列車に揺られた。

 伏見稲荷の最寄りの稲荷駅で大量の観光客が下車すると、二駅で桃山駅だ。

JR奈良線、工事中の桃山駅ホーム、205系と221系電車

 奈良線はほどんどの区間が単線で、桃山駅は列車交換ができる2面3線の構造を有していた。しかしホーム改修工事の真っ最中で、将来は2面2線になるとの事。

 周りはマンションが住宅が立ち並ぶ。列車が発着すれば、多くの人々がぞろぞろとプラットホームと木造駅舎との間を行きかう。南端とは言え、日本有数の都市の京都市内の駅らしい光景だ。

 そんな桃山駅だが、1世紀昔の大正元年(1912年)は、明治天皇の大葬列車の到着駅として選ばれた格式高い駅なのだ。9月13日に大葬の儀が執り行われた後、14日の深夜、青山仮停車場を発った列車は夕刻に桃山駅に到着し、北東約1kmの伏見桃山稜に厳かに埋葬されたという。

 第二次大戦以前は御陵への参拝客で桃山駅は大変にぎわい、御陵に近い北側にも出入り口が設けられ御陵口と呼ばれていた。

JR奈良線・桃山駅ホームの桜の木、散り果て葉桜となった…

 2018年は桜の開花が全国的に早まり、3月下旬だと言うのに、車窓から眺めたいくつもの染井吉野は、葉がもう見え始めていた。桃山駅の桜も既に葉桜と化し、ただ、無機質なアスファルトをピンク色に染め上げていた。

JR奈良線・桃山駅、重厚で歴史感じさせる1番ホームの木造上屋

 駅舎は改修されているが、木造の上屋は木のままの古いものが使われている。街中で昔からそれなりに利用者がいたのか、上屋は高く広々としている。歴史感じさせる建物の下を、大人々が行き交う光景は、閑散とした田舎のローカル線の駅を見慣れた私には斬新で、また違った古き良き味わいを感じさせた。

JR奈良線・桃山駅、古い木造トイレ

 駅舎の影にひっそりとトイレが設置されていた。田舎のローカル線にありそうな木造モルタルの年代モノで、駅舎よりも古さを感じさせる。さすがに中は新しいものに交換されているのだろうが。

JR奈良線・桃山駅、駅名標と1番ホーム沿いの桜並木

 駅南端の1番線ホーム沿いには何本もの桜が植えられている。正確には隣接する老人ホームの敷地内に植えられているのだが。枝はまだ背が低くか細い。もう十年もすると、この下で花見をしたくなるほど、見事に成長しているのだろう。

JR奈良線・桃山駅、自動信号化1万km達成記念標識

 1番ホームには、国鉄が設置した「自動信号化1万km達成記念標識」なる小さな記念碑が置かれていた。日付は1975年11月18日と標されていた。

JR奈良線・桃山駅、木造トイレの窓は古い木枠でダイヤ状パターン

 また何気にあの古いトイレを見てみると、窓がとても個性的で変わった造りをしているのに気づいた。窓枠が木なのだが、ガラスではなく、いくつもの木の棒が斜めに組まれ、ダイヤ状の模様が作りあげられていた。駅のトイレはつぶさに見ていたわけではないが、かなり珍しいデザインなのではないだろうか…。少なくとも現存する古トイレの中では。

 デザイン性とレトロさのある洒落た窓だ。しかしなぜこのような形状なのだろうか…。おそらくこのトイレが出来た当時は、ガラスが高価で、気軽に使えるような時代でもなかったのだろう。また、多少なりとも換気の必要はあったが、窓を全開みたいな形にしておくと、外の乗客にも臭いが漂ってきそうで嫌に思える。また、トイレを使う方も見えそうで、落ち着いて用を足せない。そこで臭気対策をしつつ遮視性や人々の心理も考慮し、このようなデザインになったのだろう。何と機能的でデザイン性も高いのだろうか!

 もっとじっくり見たかったが、カメラ片手にうろうろしていると、本当に変質者扱いされかねない。ここは人目の多い駅だ…。

JR奈良線・桃山駅、駅舎改札口と待合室

 都市圏の駅らしく、イコカ対応の自動改札機が置かれている。利用者は多いが、列車本数も1時間に何本もあり、駅に滞留する人は少ないのだろう。ベンチは数脚しかなかった。

京都市・伏見区、JR奈良線・桃山駅の木造駅舎。1935年(昭和10年)築

 駅舎を撮影したいが、真正面に飲料業者のトラックが止まり、駅の自販機に商品補充中だ。仕方ないので右側の駐車場から前景を撮影した。

 駅舎は明治天皇の大喪列車が到着した大正元年(1912年)当時のものではなく、昭和10年(1935年)に改築された駅舎だ。木造モルタルの駅舎は、大柄で立派だ。車寄せの下に何か小室が設置されている。昔はキオスクでもあったのだろうか?

jR奈良線・桃山駅、枝垂桜とウグイス色の103系電車と枝垂桜。

 跨線橋下の枝垂桜は今が満開だ。ウグイスと桜…、京都で愉しむと、いっそう雅やかな心地がするものだ。

JR奈良線・桃山駅、改修された木造駅舎に古い上屋が風格を添える。

 待ったのだが、飲料業者のトラックがどく気配は無かった。もうまとまりよく正面から撮影する事はあきらめ、別の角度を探した。木の上屋がやはり印象的なので、上屋を絡め左横から前景をおさめた。改修され古さを感じさせない大柄な駅舎だが、使い古された木の上屋が寄り沿い鎮座する様は、現代の街並みの中で古駅舎の風格はいまだ失っていない。そして、まるで駅が長い年月を語り掛けているかのように私の目に映った。

[2018年(平成30年)3月訪問](京都市伏見区)

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 一つ星 JR・旧国鉄の一つ星駅舎

桃山駅・基本情報+

鉄道会社・路線名
JR西日本・奈良線
駅ナンバー
JR-D05
駅所在地
京都市伏見区桃山町鍋島34番地
主な歴史
1895年(明治28年) 11/3
奈良鉄道が伏見駅から延伸し桃山駅が開業
1905年(明治38年) 2/7
合併により関西鉄道の駅となる
1907年(明治40年) 10/1
関西鉄道の国有化
1912年(大正元年) 9/14
明治天皇の大喪列車が到着.
1935年(昭和10年)
駅舎改築。現駅舎竣工
1987(昭和62) 4/1
国鉄民営化、JR西日本の駅となる。
駅営業形態
業務委託駅
その他
JR奈良線の前身・奈良鉄道の元々のルートは、現在の近鉄京都線の京都‐近鉄丹波橋間で、そこから桃山駅に至っていた。現在の稲荷‐京都間は、元々、東海道本線の一部だった。
1921年(大正11年)、東海道本線に新逢坂山トンネルが完成すると、同線の馬場駅(現在の膳所駅)‐京都駅間は現在のルートに切り替わった。東海道本線旧区間の内、稲荷‐京都間は奈良線に編入の上、稲荷駅‐桃山駅の区間が新規開業し、現在の姿となった。
それにより従来の奈良線区間であった京都‐伏見間は廃止された。伏見‐桃山間は貨物線として残ったが、1928年(昭和3年)に廃線となった。
廃止された奈良線の旧区間を利用し、奈良電気鉄道が1928年(昭和3年)に開業し、現在は近鉄京都線となっている。