神町駅 (JR東日本・奥羽本線)~戦後占領下を色濃く残す大仰な木造駅舎~



歴史の生き証人、占領軍が使った個性的な駅舎

奥羽本線・神町駅。連合軍占領下の面影を残した木造駅舎

 奥羽本線の神町駅には一風変った個性的な木造駅舎が建てられている。

 付近には、戦前は神町海軍航空隊があった。終戦後は米軍キャンプが進駐し、神町駅にRTO(連合軍鉄道運輸司令部)が置かれた。神町駅の開業は1901年(明治34年)だが、この駅舎は戦後占領下の1947年(昭和22年)、連合軍によって建て替えられた。洒落っ気は無く、地方の中・小規模の駅の駅舎にしては大柄で、倉庫のような武骨さが実用本位な雰囲気だ。軍のニーズに応えた建物と言った感じがする。

 写真真ん中辺り、黒いタクシーが停まる背後の木の扉が将官用の出入口だったという。大柄な駅舎の前に佇むと、未だに当時の進駐軍の威容が漂ってきているかのような威圧感が漂ってくる。

山形県東根市、奥羽本線・神町駅の駅舎、ローマ字の駅名表記

 駅舎正面上部に「JIMMACHI STATION」とアルファベットで駅名を大きく表記している所が、非日本的な米軍占領下の面影を一層伝えている。その下は窓を板で塞いでいるのだろうか?焼印のようにダイヤのチェック模様が入れられているのが面白い。

JR東日本・奥羽本線・神町駅駅舎、車寄せ付近

 正面右側の車寄せが乗降客用の駅への出入口で、車寄せの下にひっそりと駅名看板が掲げられている。普通の大きさだが、この大柄な駅舎にあってはやけに小さく見えてしまう。

神町駅の木造駅舎、吹き抜けで広々としたエントランスホール

 駅舎の中に入ってみると、内部は吹き抜けの広々とした空間となっている事に驚かされる。外から見ると完全に2階建の高さがだが、実は1階建てだったのだ。待合所と言うか、エントランスホールと言った感じのかなり広々とした造りで、一大ターミナル駅の風情だ。小駅だが、この辺はアメリカ的な空間の取り方なのだろうか。

 外には将官用の扉があったが、こちらは下級米兵で賑わったのだろうか?

奥羽本線・神町駅、隣の待合室

 その横には待合室が隣接している。広い待合室だが、昼間は利用者も少なく閑散としていた。いや、そこそこの利用者はいるが、駅の大きさが余計にそう見させてしまうのだろうか…。

奥羽本線・神町駅、出札口(切符売場)と手小荷物窓口跡

 吹き抜けの空間の隅には切符売場があり、その横には小荷物用窓口の跡が原形をよく留め残っている。

 訪問時は有人だったが、2006年4月から無人駅となった。かつての威容を伝える駅舎は残っているが、日常的に使われている部分は吹き抜け部分と待合室のみと、ごく一部なのがとても勿体無い気がする。もしかしたら神町駅は、無人駅の中では日本最大の駅舎がある駅なのかも知れない。

奥羽本線・神町駅の駅前旅館、泉屋

 駅を出ると、左手側すぐの所に旅館がある。駅前旅館と言うと、今では絶滅危惧種のような響きだが、こうして昔ながらのまま存在しているのは嬉しい事だ。泉屋旅館という旅館で、神町駅と同年の1901(明治34)年の開業という歴史ある旅館だ。駅の開業から敗戦後の占領下、そして現代までと神町駅の移り変わりを見つめ、そして共に歩んできたのだろう。

神町駅、駅、東根市観光地図看板

 駅前には東根市の観光地図が掲げられていた。それによると、山形空港が駅の西側にあり、北東側は工業団地となっている。米軍はとうの昔に去っているが、陸上自衛隊の駐屯地がある。軍との関わりが何かとある土地のようだ。少し古い地図のようで、山形新幹線停車駅のさくらんぼ東根駅新設により廃駅となった蟹沢駅が標されたままだった。

奥羽本線・神町駅、駅構内の池のある和風庭園跡

 正面右側の駐車場の一角に日本庭園の跡があり、水が抜かれた枯池があった。やや廃れた感じはするが、日本庭園の趣はよく残ってる。占領下の歴史を伝える駅舎との対比が面白い。これを見た米兵は小さな日本情緒溢れる小さな一角に「Oh~!」と感嘆の声を上げたのだろうか?でも、米軍撤収後の作庭なのだろうが…(笑)

JR東日本・奥羽本線・神町駅、駅舎ホーム側

 ホーム側の駅名標の下にも、将官用の出入口が残る。扉は木製で重厚感溢れ、いかにも階級が高い軍人が使った空気感に満ち溢れている。

 神町駅は元々交換可能な2面3線のホームを持っていたが、山形新幹線の新庄延伸工事の際に、駅舎側の1面1線を残し撤去され、駅舎の規模に似合わない棒線駅となった。

[2005年8月訪問](山形県東根市)

追記1: 遂に神町駅改築へ…最後の訪問

 2017年9月12日、JR東日本仙台支社は、老朽化が進んでいる神町駅の建て替えを公表した。9月28日までは現駅舎を使用、9月29日から仮駅舎への切り替え、駅舎の取り壊し工事に入るという。新駅舎の供用開始は2018年2月の予定。デザインは小柄ながらも歴史ある旧駅舎の特徴的な部分を取り入れたものになるという。

 改築工事が始まって数日の10月初旬、最後の別れに神町駅旧駅舎を訪れた。フェンスや柵で囲まれていたものの、外観はまだ原形を留めていて、ホーム側は少し距離を置いて観察できる状態にあった。

奥羽本線・神町駅、取り壊し工事が始まった旧駅舎
取り壊し工事に入った旧駅舎(2017年10月)
奥羽本線、建替え中の神町駅、仮駅舎
神町駅仮駅舎。壁に旧駅舎の駅名看板が掛けられている(2017年10月)

 しかし仮駅舎が利用開始となり、ホーム側から覗いた内部はもぬけの殻となり、取り崩しが着々と進んでいる現実を突きつけられた…

レトロ駅舎カテゴリー:
JR・国鉄系の失われし駅舎

追記2: 神町駅内部

 2010年夏、神町駅を再訪した時、ホーム側のあの将官用の扉が少し開いて、実は運よく内部を少し覗く事ができた。たまたま清掃の係員の方が来ていて、用具が旧RTO(連合軍鉄道運輸司令部)室内にしまわれいたので、開けていたようだ。

 許可を取って入口の所から内部を見た。

 非公開の場所なので、撮影した写真は公開してこなかったが、取り壊しからはや何年も過ぎたので、もうそろそろ時効かと思う。

神町駅、駅舎内部