駅と駅舎の旅写真館 railwaystation.jp

尾張瀬戸旧駅舎 (名鉄・瀬戸線)


記憶に残る尾張瀬戸駅駅舎の印象

 名鉄瀬戸線の終点、尾張瀬戸駅の最初の記憶は、1978年(昭和53年)、栄町まで延長開業した時の事だ。その頃から鉄道好きだった私は、祖父に連れられて、わざわざ記念乗車に栄町駅からせとでんに乗ったものだ。

 尾張瀬戸駅に降り立った。その時、見たであろう駅舎のいでたちは全く記憶に残っていない。自分にとって、取るに足らないものだったのだろう。しかし、中の狭く薄暗い雰囲気は不思議と残っている。曇っていたのかもしれないが、今思えば、「瀬戸物」の一大産地で、もっと立派であっていいはずの市の代表駅が、小さく地味すぎるのに違和感を覚えていてのかもしれない…。当時の私に、この駅舎の歴史深さとか、滲み出る味わいは、理解出来るはずは無かった。

 その後も、何回か瀬戸線と尾張瀬戸駅を利用する機会はあった。現役時代、いちばん最後に見たのは、東京行きの夜行バス「ドリームとよた」号の車内からだった。終電前だったが、カーテンを指で少し開け垣間見えたのは、もう眠りに就いているかのように、灯少なく夜の闇の中溶け込み佇んでいるかのような姿だった。そんな様を見て、あの頃と全然変わっていないなと漠然と見つめていた。

 さすがに古くて手狭だったためか、2005年(平成17年)に愛知万博が開催される事もあり、新駅舎が建てられる事となった。新駅舎竣工にあわせ、大正築という旧駅舎は役割を終える。そして、取り壊しを前に、旧駅舎が特別公開される事になった。そうなると、いまだに心に残る古く小さな駅舎の記憶が妙に懐かしく思い出された。その頃はまだ駅舎というものに強い興味はなかった。しかし、最後にこの駅舎に別れを告げたいと思い、久しぶりにせとでんに乗った。

惜別!尾張瀬戸駅旧駅舎記念公開

 真新しい尾張瀬戸駅駅舎を出て、線路沿いに少し戻ると、懐かしい旧駅舎の姿があった。もう「旧」となってしまったのが寂しい響きだが…。

名鉄瀬戸線、尾張瀬戸駅旧駅舎。取壊し前のさよなら公開中。
( 名鉄瀬戸線、尾張瀬戸駅旧駅舎。新駅舎に役目を譲りさよなら公開。)

 久し振りに見る尾張瀬戸駅の旧駅舎は洋風のデザインで、小ぶりなながらも重厚感漂わせていた。瀬戸電気鉄道時代の1926年(大正15年)築の駅舎だ。瀬戸市の玄関口たる風格を十二分に備えると思う。手狭なのは横に増築してカバーしていたようだ。

 既に新駅舎が使用され供用開始され、駅舎としての役割は終えている。かつては「尾張瀬戸駅」と誇らしげに掲げた看板は外されているのを見ると、やはり寂しく思う。出入口に「ありがとう尾張瀬戸駅」と記念に掲げられたアーチがせめてものはなむけだ。

  長年、瀬戸市の玄関としての役割を担ってきた古老との別れを惜しみ、鉄道ファンだけでなく、多くの人々が見学に訪れ、駅舎は最後の賑わいを見せていた。

尾張瀬戸駅旧駅舎、内部
( 駅舎内部。瀬戸線に関する写真やイラストが展示されていた。)

 内部に入ると、鉄道関係の設備や備品は取り払われ、写真やイラストが多数展示されていた。尾張瀬戸駅をはじめ、瀬戸線の過去の風景を留めたノスタルジックなイラスト、過去に活躍した車両の写真…、どれもが瀬戸線の歴史を今に伝えている。

 写真やイラストを展示したついたての裏に、2階へ上がる階段があるのに気付いた。かつては喫茶店だったというが、できれば上って2階も見てみたかったものだ…。

尾張瀬戸駅旧駅舎、自動改札跡付近
( 改札口跡にはメッセージボードが置かれていた。)

 晩年には自動改札機が導入されていたようだ。改札機がもぎ取られた痕跡が生々しく残る。

 改札口は板で塞がれ、来訪者が自由に書き込めるメッセージボードとなっていた。ある人は長年の労をねぎらい…、ある人はこの駅での思い出を語りかけように・・・、ある人は別れを惜しみ・・・、この素晴らしき駅舎へのはなむけの言葉でいっぱいだった。

尾張瀬戸駅旧駅舎、自動券売機が置かれていた場所。
( かつて自動券売機が置かれていた場所。)

 自動券売機は外され、旧駅事務室の中が覗き込めるようになってた。中にはテレビとビデオが置かれ、瀬戸線のビデオが上映されていた。

尾張瀬戸駅旧駅舎、駅務室内部
( 旧駅事務室内部。)

 現役時代、一般人が入ることが出来なかった駅務室内部も公開されていた。構内配線図など現役時代の掲示物等もそのままだ。壁が黄色く薄汚れているのは、駅員さんが、仕事のちょとした合間に一服していたからだろうか…。使い込まれた室内に、この駅の歴史が垣間見える。

鉄道模型の運転会も。
( 鉄道模型の運転会も実施。)

 旧駅務室では愛好会による鉄道模型運転会も実施されていた。走る車両はもちろん瀬戸線のものだ。

尾張瀬戸駅旧駅舎、旧駅事務室から新駅舎を見る。
( 旧駅事務室から新駅舎を見る。)

 駅務室跡からは旧駅舎ホームが見渡せる。その目と鼻の先に、新プラットホームと、その奥には新駅舎が位置している。

尾張瀬戸駅、ボンネットバス・ボン太号が旧駅舎に花を添えかのよう…
( ボンネットバス・ボン太号が古き駅舎に花を添える…)

 古き駅舎との別れに花を添えるかのように、ボンネットバス・ボン太号が特別運行され、駅舎前にも乗り入れていた。

尾張瀬戸駅新駅舎ホームから旧駅舎を見る
( 新駅舎から旧駅舎の姿を眺める。)

 帰路に就く際、新駅舎のホームに立ち、旧駅舎や構内を惜しむように眺めた。この行き止まりホームと、古い駅舎の間を、何回も行き来したものだ…。

 この特別公開を終えた数日後、旧駅舎の取り壊し作業が始められたという。


[2001年(平成13年) 5月訪問](愛知県瀬戸市)

追記

 瀬戸物の歴史を紹介した博物館「瀬戸蔵ミュージアム」の展示物に、この尾張瀬戸駅旧駅舎を再現した展示があり、あわせて瀬戸電で使われた車両・モ754号の一部も展示されている
関連ページ: 瀬戸市公式サイト・瀬戸蔵ミュージーアム

懐かしの名鉄旧駅舎

笠寺道駅(瀬戸線)
※1944年の休止、1969年に廃止されたが、2012年まで旧駅舎が残存していた。
苅安賀駅(尾西線)
※ちょっと洋風な感じがする小振りな木造駅舎。