旧石切山駅 (定山渓鉄道)~石山振興会館となり廃線後も活用される木造駅舎~



定山渓鉄道、唯一の残存駅舎

 かつて札幌市内に定山渓鉄道という私鉄の鉄道路線があった。しかし私が北海道を旅するようになった頃、既に廃線となっていて、鉄道に興味を持ち色々な本に触れている内に、それとなく知ったという程度だった。

 定山渓鉄道の東札幌駅‐定山渓間が廃止されたのは1969年(昭和44年)の11月1日だ。しかし、廃線から半世紀近く経とうとしているが、石切山駅の駅舎は驚くべき事に現存しているという。石山振興会館として集会所みたいに使われて、また石山商店街振興組合の事務所になっているという。嬉しい事に管理人の許可を得れば内部も見学が可能との事。これは是非見てみたいものだ。

廃線後も佇む木造駅舎

 札幌市営地下鉄南北線の終点、真駒内駅からじょうてつバスの12番の路線に乗った。「じょうてつ」はその名の通り、かつて定山渓鉄道線を運行していた会社で、鉄道路線廃線後も、社名にその痕跡を留めている。人口200万に迫る日本有数の都市に成長した札幌市内だけあって、夕方前のバスは立客もでる程賑わっていた。

 最初こそは街中を走っていたが、いつの間にか山深い景色に変貌していた。周囲の地形も起伏があり、まるでローカル線の車窓風景を見ているのと変らない気分だ。ローカル線なら畑や空家、そして崩れかけた廃墟も目に付くところだ。しかし山の中の風景とは言え、見える建物は寂れた感じがしなく、どれも使われている雰囲気を感じた。中心街から離れているとは言え、さすがは札幌市内だけの事はある。

 そして10分程で開けた街の中に入り、石山中央停留所に着き下車した。道路沿いに先に進むと、交差点で石造りの建物が建っているのに驚かされた。2階建ての小さな建物なれど、歴史感じさせる重厚な雰囲気に圧倒された。

 そして、交差点の先には、商店などが立ち並ぶありふれた街並みの中、一目で駅舎だったとわかる平屋の建物が立っていた。これこそが定山渓鉄道・石切山駅の駅舎だ。

定山渓鉄道・旧石切山駅。廃線後、駅舎は石山振興会館に

 おお!!ついに定山渓鉄道の生き証人である木造駅舎が私の目の前に現われたと感激の面持ちで眺めた。

 石切山駅の開業は1917年(大正7年)10月17日と、定山渓鉄道開業当初から存在する駅で、当時は現在よりやや東に位置していたという。大正後期にルートが変更され、それに伴い駅も現在の位置に移転し、戦後の1949年(昭和24年)に今に残る木造駅舎が建てられた。

 平屋でこれと言って奇抜な形状は無い、ありふれた感じの木造駅舎の面影をよく残している。戦後の駅舎とは言え、築60年を過ぎている。しかしその割にとてもきれいで、白く塗られた壁に、赤い屋根が映える。駅舎らしさを残しつつ、大切に使われいるのが嬉しい。

定山渓鉄道・石切山駅跡ホーム側、廃線跡は道路に転用

 駅舎の裏手…、かつてはプラットホームが設置され何線ものレールが側に回ってみた。さすが長い年月が流れ、廃線跡は道路に転用されていた。駅舎が佇む以外、鉄路の痕跡は全く無い。まっすぐ伸びる道路を見つめ、ここに列車が行き来していたんだなあと、昔を思うしかなかった。

定山渓鉄道・石切山駅の旧駅舎、屋根の石造りの煙突。

 駅舎をホーム側から眺めると、赤い屋根から石造りの古そうな煙突が突き出ているのが目に入った。すっかり黒ずんでいるのが、長年、使われてきた証だろう。

 外観を一通りざっと見ると、中を見せてもらおうと正面にまわった。まず寒冷地独特の風除室みたいな小部屋が付属している。その中に入ると玄関があり、右横に事務所らしき部屋があった。だが、その部屋は薄暗く誰もいなかった。そして、真っ直ぐ進むとかつては待合室だった所だ。床はフローリング敷きになるなど、きれいに改装されていて、照明で明るく照らされている。

 室内には40代位の女性二人と小学生の子供数人がいた。とりあえず見学許可をもらおうと、その女性に話しかけた。すると、この方はここを今借りているだけであって、管理人は別に居るので、自分が見学の許可を出す事はできないと言った。そして管理人のおじさんはさっきまでは居たけど、どこかに出掛けてしまったとの事。何と運の悪い事か!!多分、また帰ってくるけど、よろしければ電話で呼び戻しましょうかと言ってくれたが、そこまで面倒な事をしてもらわなくてもと思い、帰ってくるのを気長に待つ事にした。まあ運悪く戻ってこなくても、また来る事ができるだろう。

石山振興会館、旧石切山駅のパンフレット。

壁に旧石切山駅のパンフレットがあるのが目に入った。これが手に入り、駅舎の外観を拝んだだけでもまあ良しとしようと気を取り直し、手に取った。

 パンフレットを見ると、現役時の駅舎の姿など、懐かしい写真が掲載されていた。管理人さんが戻ってくるのを待つ間、パンフレットを片手に、再び駅舎の外観を眺めてようと思った。

 古い写真を見ると、先ほどの駅舎正面右側の風除室のような部分は、現役時は無かったようだ。写真の中には、一般的な木造駅舎のように 軒が正面から右側側面に掛けて巡らされている姿が残されている。どうやら風除室は廃線後の増築のようだ。

定山渓鉄道・石切山旧駅舎、下部は札幌軟石で造られている。

 石切山駅は、かつてこの近辺で採取した札幌軟石の積み出しでとても賑わったという。札幌軟石は街が発展していく中、札幌などの建物に多用されたという。この石切山駅の木造駅舎の腰壁部分も、札幌軟石で形作られている。駅舎の木の板は新築のようなきれいな白色だが、石造りの下部は歴史が染込んだかのように黒ずんでいる。

定山渓鉄道・石切山駅、駅舎壁面に残る採光窓の跡。

 外壁の上部を見ると、壁に木枠で形作られた横長の構造物が所々にあり、気になっていた。往時の写真を改めて見ると、この部分には窓だった。明り取りの窓で、下の普通の窓もあり、意外と開放的な雰囲気で、室内は明るかったのだろう。しかし改修で埋められてしまったようだ。

札幌市南区石山・石切山駅近く、石造りの旧石山郵便局

 バスで下りた時、交差点の角にある石造りの洋館に驚かされたが、この地が札幌軟石の里である事を考えると、こんな建物があるのも頷ける。昔は道沿いに石造りの建物がズラリと並んでいたのかもしれない。

 建物正面上部には郵便マーク(〒)が入った紋章が掲げられているのが目を引く。かつての石山郵便局との事だが、今では他の目的で使われているらしい。

 この周辺を歩くと、旧石山郵便局以外にも、石造りの建物があったり、石壁があったりと、現代の街並みの中で、あちこちで石の構造物があるのが目に入った。そして、近くの山は、山肌が一部削れ土面が露わなままだ。時代が流れても、軟石で賑わった当時の面影を留めているのが味わい深さを感じさせる街だ。

 程なくして、駅舎の中に初老の男性が入っていくのに気付いた。あの方が管理人かと思い、追いかけるように私も中に入った。聞いて見ると、やはりこの方が管理人との事。そして、有り難く入室の許可をいただいた。

気になる駅舎内部を見学

旧石切山駅、石山振興会館の内部

 駅舎の中に入った。先程の女性が中にいたので、目が合うと一礼した。たぶん、先程の経緯もあり、許可を得たと察してくれたのだろう。他に室内には、もう一人の女性と子供が3人居た。子供たちはホワイドボードに向かって席についている。何か勉強で使っているようだ。

 中は駅事務室と待合室の壁がほぼ取り払われ、一室となっている。ざっと見て、50平方メートル以上はあるだろうか・・・?広くは無いが、会合やちょっとしたイベントなどに使える多目的スペースと言った所だ。

 床は間新たしそうなフローリングで壁面の建材は白く、きれいに改修され、駅舎の年月を感じさせない。古い建物を実情にあわせて使っていくためには必要な措置だろう。

 しかし、天井は木の造りのままだ。廃線後、この天井は覆い塞がれるるように改修され、隠れてしまっていたが、近年の改修で、元の天井を取り戻したという。天井の隅に三角形の持ち送りのようなものがあるのが目を引く。そして蛍光灯がいくつも吊るされる中、天井に丸い照明がポツンと設置されている。元々の待合室の照明だったのだろうか…?

現・石山振興会館、石切山駅の面影残した煙突跡

 待合室と駅事務室の壁は取り払われているが、僅かにその痕跡らしきものが残っている。恐らくかつては室内の半分よりやや広い程度が待合室で、残りの左側が駅事務室などがあり、境目に窓口があったのだろう。

 その境目の真ん中あたりに四角く太い柱のようなものが打ち込まれたままだ。いや、しかしよく見ると、これは煙突だ。側面にはパイプを通していた跡も残る。待合室側、駅事務室側両方のストーブの配管が繋がれ、煙を排出していたのだろう。

石山振興会館、旧石切山駅の懐かしい写真を残した冊子。

 片隅の棚には石切山駅についての冊子もあり、かつての石切山駅駅舎の姿やプラットホームの写真など、現役時の貴重な写真や歴史が綴られていた。じっくりと読みたい所だが、背後からは女性が子供達に向かって「テストをします…」と話しているのが聞こえてきた。静かに見ているつもりだが、あまりウロチョロするのも気を散らして邪魔になる。そろそろ立ち去り時だ。

旧石切山駅、現・石山振興会館、軒下増築部分の室内

 最後に事務所の中にいる管理人のおじさんに声を掛けた。細長く狭い事務所の中は、掲示物が賑やかで、パソコンが置かれたデスクもある。そんな中、壁の低い部分には、石造りの姿を垣間見せている。今でこそ、この部分は事務所に改修されたが、かつてここは露出した屋外で、軒下だったのだ。

定山渓鉄道・旧石切山駅、駅舎ホーム側

 内部の見学を終え、名残り惜しさにもう一度駅舎を見まわった。駅舎ホーム側にも、細長い部屋か倉庫のようなものが増築されているのが目に付く。そして採光窓の痕跡がこちら側にも残っている。

札幌市南区、定山渓鉄道旧石切山駅構内、廃線跡?の公園

 かつてのプラットホームや構内の周辺を見てみた。廃線跡の北側は公園になっている。そして更に奥を見てみると、山深い起伏のある地形で人家は見当たらなかった。現代的な街のすぐ背後が、こんなに緑豊かで山深いのだと驚かされた。おそらく、この風景だけが、定山渓鉄道が運行されていた当時とほどんど変っていないのだろう…。

札幌市南区石山、旧石切山駅とじょうてつバス石山中央停留所。

 帰りの石山中央のバス停は駅舎の真正面にあった。時刻表を見てみると、真駒内駅行きの他に、札幌駅に直通するバスもあるようだ。折角なので違うルートをと思い後者を選んだ。

 札幌行きのバスに乗り込み動き出すと、最後にと石切山駅駅舎の方に振り返った。すると温かな木造駅舎の中では、まだ小学生たちが一生懸命、机に向かっている様子が目に入った。

[2015年9月訪問](札幌市南区)

レトロ駅舎カテゴリー:
私鉄の保存・残存・復元駅舎

旧石切山駅・基本情報+

鉄道会社・路線名
定山渓鉄道・定山渓鉄道線
駅所在地
札幌市南区石山1条3丁目1-30
駅開業日
1917年(大正7年)10月17日
駅舎竣工年
1949年(昭和24年) 。元々、今よりやや東側にあったが、線路切り替えにより、この時現在地に移転。
駅廃止日
1969年(昭和44年)11月1日
現状
石山振興会館に。管理人の許可を得れば内部の見学が可
アクセス方法
旧石切山駅の最寄バス停は、じょうてつバスの石山中央。停車する路線は主に以下の二つ。
  • 地下鉄南北線・真駒内駅から12番で約10分。日中は1時間に4本以上。
  • 札幌駅から、すすきのなどを経由する快速8番。札幌駅から約40分。日中、1時間に2本。
  • 時刻表など詳しくは(株)じょうてつ・バス情報のページからどうぞ。
イベント
冬季には「石山スノーファンタジー」のイベントとして、駅舎がイルミネーションで飾られる。