改修前の天塩中川駅
宗谷本線の天塩中川駅には、1953年(昭和28年築)の木造駅舎が現役で使われている。
改修で外壁が新建材になるなど、やや味気ない姿になっていたが、2014年(平成26年)の改修で、昭和28年の落成当時の姿をイメージし改修された。
私は2回、天塩中川駅に降り立った事がある。
一回目は1990年代の前半。当時は簡易委託駅で記念に硬券の入場券を買った。そして、街中をぶらぶらし、近くを流れる天塩川を眺めにいったものだ。
2回目は2008年。下車といっても、列車交換のための停車時間の合間に外に出て、写真を少し撮影した程度だった。
久しぶりに降り立つと、簡易委託は取りやめになり無人駅になっていた。かつて入場券を買った出札口はブラインドは下ろされていた。古ぼけ薄汚れたブラインドが無人化されてからの年月を物語っているようで、どこか侘しかった。
月に三日だけの駅舎カフェ
それから12年後、再び天塩中川駅に降り立った。
幌延駅からサロベツ4号に乗り30数分の移動だった。特急で駅巡りとは贅沢な気分だ。しかし、普通列車の本数が数年前に削減されてしまい、今や天塩中川駅に停車する列車は特急を含めて上下6本ずつしかない。なので貴重な列車の一本だ。
早速、駅舎の正面にまわると、素朴な木造駅舎の外観が見事に再現されていて驚いた。木の駅名看板はおそらく改修前からのものだろう。
入口の左側に「oto cafe」と書かれた野趣あふれる木の看板が立てられていた。旧駅事務室は多目的スペース「交流プラザ」となっているが、ひと月の3日間はカフェになっている。大体、中旬あたりの木金土曜日が営業日となっているようだ。狙っていた訳ではないが、この9月17日は偶然にもカフェの日!15時閉店と時間が無いので駅の撮影は後回しにし店内に入った。
内部は素朴で木の温かみ溢れる落ち着いた造りだ。
中に入ると、先客が数人いた。中央のテーブルに座っている中年の女性は地元の方々だろうか…。地方では飲食店がどんどん減っているので、月に3日とは言え、気軽に集まれる所があるのは良い事だ。
奥に小さなカウンターがあった。木で造られ、丸太や瓶詰めの松ぼっくりなど、自然のものがお洒落に展示されている。そんなカウンターの中にはサイフォンとかカフェの道具が並ぶ。今どきのインスタ映えしそうな都会のカフェのようだ。
駅舎ホーム側に据え付けの長テーブルに腰掛けた。ホームが見渡せる特等席だ。これで列車がもう少し多く来てくれると楽しいのだが…
窓にメニューが立てかけてあった。見るとコーヒーはラテ系も含め8種。オリジナルのナカガワブレンドをはじめ、マンデリン、エルサルバドルなど本格的な品ぞろえ。コーヒー以外ではアザミのはちみつレモン、ナカガワサイダーがある。全十種類と少ないが、粒ぞろいだ。
食べ物は中川産ハスカップジャムのトーストとお菓子と2種類。やや物足りなく感じるが、3日間の営業なのでしょうがないだろう。
どれも気になり迷った。中央テーブルの主婦が飲んでいるものがアザミのはちみつレモンだろうか…?結局、暑かったのでアイスコーヒーを選んだ。
カウンターを見ると、マスターはサイフォンでコーヒーを淹れていた。アイスコーヒーは作り置きや紙パックから注ぐ場合も多いが、手が込んでいて本格的だ。
コーヒーが出るまでの間、ちょっと中を見させてもらう事にした。
駅舎正面側の窓際に飾られたディスプレイも、花や木の実などを植物をアレンジしたもので、お洒落で柔らかな雰囲気。街の中にいながら自然に癒される心地。置かれている物は月により違うようだが、今月は豊かな森林に囲まれた中川町で、秋に開催されるイベント「森のギャラリー」のコラボレーションとの事。
窓口跡は駅事務室側も、元の木の台のままだった。新築のようにきれいになった駅舎で、昔のままの古さを残したまさに駅の骨董品だ。
そしてコーヒーが出来上がり、席に着いた。アイスだが、さっぱりとした感じのいい香りのするコーヒーで美味しくいただいた。これでドリンク全品350円とは安いもの。嬉しいが駅の維持のため、もう少し取ってもらっても一向に構わない。
もう一杯何か頼みたかったが、閉店時間だし飲みすぎるのも何だしと思いカフェを出た。
純木造駅舎に戻った外観
改めて見ると、とても良く仕上がっている。JR北海道から駅舎を取得し、中川町産の木材がふんだんに使い改修され、まさに純木造駅舎の趣き溢れる。焦げ茶色の板は燻煙防腐処理…、煙で燻して防腐性など耐久性を高める加工まで施されている。中川町の力の入れようには敬服と感謝しかない。
待合室内も木造駅舎らいいいい雰囲気に仕上がってる。出札口跡の造りもそのままだ。木製のベンチは間伐材を使い造られたものだ。
壁に建築当時、昭和40年代、昭和57年、そして平成25年と4つの年代の駅舎の写真が展示されていた。いろいろ見比べると、建築当時と昭和40年代は大きな変化は無く、まさに改修後の現在のような姿だ。
昭和57年のものになると、改修の手が入っていて、車寄せ部分に風除室が設けられ、左隅の出っ張り部分が増築されていた。木の部分は多少残っているものの、窓はサッシに替えられ、上部の小窓は塞がれ壁と化していた。そしてその後、外壁は薄い青色の新建材に覆われ、私にも馴染みのある姿になった。
風除室…、雪国でよく見る屋内の前に設けられた小室は建築当時の姿とは違うが、そこは実用本位で、改修後も設けられたのだろう。
駅前には旅館やスーパーマーケットもあるこじんまりとした街並が広がっていた。ローカル線の主要駅でよく見る駅入り口のウェルカムゲートがレトロな感じで、木造駅舎によく似合っていた。
ホーム側も木造駅舎らしい趣ある雰囲気だった。
こんなに丹精と愛情を込め改修され、想像以上の素晴らしさだった。新築のような新しさをまだ漂わせていたが、きっと何十年と時を重ねれば、古き良き味わいをまとうはずだ。そして、私がこの世からいなくなった後も、佇み続けてくれる事だろう。
[2020年(令和2年) 10月訪問](北海道中川郡中川町)
~◆レトロ駅舎カテゴリー: JR・旧国鉄の二つ星駅舎~
※カフェについて、営業日など詳しくは運営元の道の駅なかがわ 匠舎 Facebookページまでどうぞ。