藪原駅~山荘風に改修された明治の木造駅舎~(JR東海・中央本線)



意外と木造駅舎らしい!?佇まい

 中央本線(中央西線)の藪原駅へ…。塩尻駅から約30㎞ほど南の木曽の山中に分け入った所にある駅だ。

 約20年ほど前、駅を巡るようになった頃に訪れて以来の訪問だ。ハーフティンバー調の装飾が施された木造駅舎という記憶がある。

JR東海・中央本線(西線)・藪原駅、木造駅舎らしさ溢れるホーム側

 久々に訪れると、ホーム側の木造駅舎らしい佇まいに驚いた。柱や軒は年季が入った木のまま。こういう風だったんだ。

中央本線・藪原駅、改札口横にある放送機器

 改札口近くの壁に、古びた機器があるのが目に入った。音量調整のつまみがあり、下には「接」と「断」のセットができる三つのスイッチがあった。駅員さんの構内放送用操作用の機器だろう。三つのスイッチは、待合室、1番ホーム、島式の2番3番ホームだろうか?現在は委託された人が出札業務しかしない簡易委託駅。全てのスイッチは「断」に入っている。いや、古くてそもそももう動かないだろう。

JR東海・中央本線、藪原駅、待合室

 待合室は広めで、後付けで壁が付けられた。今日は冬にしては暖かいが、木曽の山間部、もっと寒くなる日もあるのだろう。外気が遮断できるのは有り難い。

藪原駅の木造駅舎、待合室の木の造り付けベンチ

 後付けの壁にぶった切られながらも、木の造り付けの長椅子は残る。木造駅舎の待合室らしい風情が存分に残る。

山荘風の造りが目を引く駅舎

中央本線・藪原駅、車寄せ越しに見る駅前の風景

 車寄せの柱は丸太で、その台座は表面が石で固められた野趣感じさせるもの。

 車寄せ越しに駅前の街並みが見えた。急斜面を切り開いた地で、上った所に道の駅があるらしい。線路に並行して道があり、旅館が数軒ある。中山道の藪原宿は駅の西北一帯だ。

 久しぶりに藪原駅の木造駅舎を眺めてみた。開業の1910年(明治43年)以来の木造駅舎だが、よく手入れされそれ程古さは感じない。

 駅舎の壁上半分が木組みを露出させたハーフティンバーという造りを模した装飾が施されている。

中央本線・藪原駅、板張りや車寄せなどユニークな造りの木造駅舎

 野趣あふれる車寄せの造り、そして斜めに模様を描くような板張りなど、山荘やロッジを感じさせる造りだ。また車寄せ先端には、神社建築見られる屋根の頂上で木の棒を交差させた「千木(ちぎ)」を思わす装飾が見られる。

 何で山荘風なのかと思ったが、駅の北側にハイキングコースとして知られる鳥居峠がある。かつては駅舎前の植込みに「鳥居峠登り口」とアピールした木のモニュメントがあったようだ。

 そしてかつてはこの駅から上高地駅へ向かうバス路線もあった。名古屋方面から見ると、上高地方面への最短ルートだったとか。

 しかし1986年11月の時刻表を見ると、休日と休前日のみの一日2往復の運行で冬期運休。利用しやすい本数とは言えず、現在は廃止されている事を考えると、主要なルートではなかったのだろう。

中央本線・藪原駅。木造駅舎の前に荒れた庭園跡がある

 駅舎の左側約3分の1は、元の板張りの造りを残していた。かつての藪原駅舎は写真を見ると、サイズ感は今と変わらないが、板張りのありふれた感じの木造駅舎で、山荘風でも無かった。どうやらある時期に今の姿に改修されたようだ。

 駅舎前の植込みは広く取られていて庭園のよう。昔からの駅らしいゆったりとした風情だが、荒れているのがもの悲しさを誘う。

藪原駅の木造駅舎、ホーム側の腰壁は丸太風の板張り

 さあ列車の時間だと思い2番ホームに向かおうとすると、ホーム側腰壁の板張りもちょっと変わっているのに気付いた。良く見ると丸太と言うか、切り出した木の丸みを残したのような板だった。板張りは平らな場合が多いが、こんな所まで山荘風に仕上げたのだ。

長野県木曽村、中央本線の藪原駅、JR東海313系電車が停車

 上り列車は、基本的に駅舎側の1番線からの発車となるが、14時27分発の木曽福島行きは島式の2番線からだった。今でこそ普通列車しか停車しないが、主要駅ばりにホームは広く長かった。

[2023年(令和5年)2月訪問](長野県木曽郡木祖村)

レトロ駅舎カテゴリー:
一つ星 JR・旧国鉄の一つ星レトロ駅舎

藪原駅改修に関する推測のようなもの

 藪原駅の木造駅舎が建てられたのは1910年(明治43年)だが、現在の姿になったのは、後年の改修によるものだ。

 改修前の写真が載っている本(※1)が発刊されたのは1972年。それ以前に撮影されたとしたら、単純に考え、駅舎が山荘風に改修されたのはその後という事になる。

 私の推測になるが、1970年から始まった「ディスカバージャパン」から「いい日旅立ち」と言った一連の国鉄のキャンペーンで、旅行気運が高まっていた頃、上高地や、5kmほど西北にある藪原スキー場の玄関口の駅として行楽ムードを高めるため、その頃に山荘風の駅舎に改修されたのではないだろうか…

 1986年11月の時刻表で、2本あった上高地行きのバスの1本は4時5分発という日さえ上っていない早朝。朝が早い登山家向けの設定なのだろう。きっと当時はまだあった中央線の夜行急行で降り立った人々が利用した事だろうと思ったが、定期の急行ちくまは通過で、11月に数日運行される臨時急行ちくま81号が停車するだけだった。もっともそのバスは木曽福島駅始終着だったので、特急や急行利用が全て止まる木曽福島駅の方がはるかに利用しやすかったのだろう。


 うだうだ言ったが、改修駅舎とは言え、約半世紀にもなると、古き良き味わいが出て来るもの。

 今回の旅は岐阜県奥飛騨の平湯温泉が主な目的で、藪原駅には松本経由でやって来た。平湯温泉と上高地はさほど離れていない。藪原駅‐上高地間のバスで来れたら面白かっただろうなぁ…


[Ad] ※1: 改修前の写真が載っている本 写真記録 日本の駅