高架化工事中の南海本線・諏訪ノ森駅西駅舎2020



保存される事になった大正築の洋風駅舎

 南海本線、石津川駅‐北助松駅間の連続立体交差事業…つまりは高架化が計画された。この区間内の浜寺公園駅と諏訪ノ森駅には、歴史ある洋風木造駅舎が残っている事で知られていた。浜寺公園駅は1907年(明治40年)築、諏訪ノ森駅上りホーム側の通称「西駅舎」は1919年(大正8年)築で、両駅舎とも国の登録有形文化財に指定されている。

 高架化は2006年に認可が下りた。しかし、両駅舎を取り壊すのかどうかの結論は出るに至らなかった。

 しかし2008年に論議の末、新駅舎の前で保存される事が決まった。高架化による現役引退という事情はやむを得ないが、よく歴史ある木造駅舎たちに最大限の敬意を払った結論を導き出してくれたものだ。

2016年当時の諏訪ノ森駅

 浜寺公園駅の現役引退が迫る2016年1月、浜寺公園駅を訪れた後に諏訪ノ森駅にやってきた。

南海本線・諏訪ノ森駅、洋風の西駅舎、ホーム端改札口付近

 列車を降り改札口に進むと小さな駅舎があった。今まで、正面ばかりに目が行っていたが、改札口など新しいモノをに交じりながら、使い古された古い柱が残る。こちら側の歴史感じさせる風景もまたいいものだ。

南海本線、高架化工事が迫る諏訪ノ森駅、大正築の洋風木造駅舎

 1919年(大正8年)築の「西駅舎」も引退が決まっているが、具体的な日時はまだわからなく、いつも通りの姿で佇んでいた。小ぶりながら相変わらず洒落た造りで、この辺りの昔の海岸風景を描いた正面のステンドグラスも美しい。

 しかしちっぽけな駅舎を圧するように隣に建っていたビルは撤去され更地になっていた。ぽっかりと空間が抜けたような風景は、どこか落ち着かないものだ。工事へのカウントダウンはゆっくりだが始まっている。


(※関連ページ: 13年前、2003年の諏訪ノ森駅訪問記はこちらへどうぞ!

曳家後、工事化進む諏訪ノ森駅

 諏訪ノ森西駅舎は2019年(令和元年)5月24日を最後に営業終了し、翌日から仮駅舎に切り替えられた。そして2020年2月3日より、駅舎を動かす曳家が始まった。同じく保存される事になった浜寺公園駅旧駅舎の曳家は2017年末に完了し、翌2018年の4月からカフェがオープンするなど暫定的な活用が始まっていた。


 3月、関西の駅巡りの旅で、JR阪和線に乗り木造駅舎を訪ねながら南へ行こうと漠然と思っていた。列車に乗ってる時、
「そう言えば諏訪ノ森駅はどうなっているのだろう…」
とふと思った。

南海本線・諏訪ノ森駅、西駅舎曳家後のプラットホーム

 そして列車を乗り継ぎ、諏訪ノ森駅にやって来た。上りホームをなんば方面に歩くと、そこにあったはずの駅舎はもう無かった。わかっていはいたし、駅舎は保存される事は喜ばしい。でも、風景の移り変わりは、どこか寂しく映った。

 100mほど北に下りホーム用のコンクリート駅舎がある。そちらはまだ手付かずの状態だった。

 仮駅舎を通りぬけると、真っ先に気になったのが旧駅舎がどうなっているかだ。

南海本線、工事中の諏訪ノ森駅、むき出しの木造駅舎

 旧駅舎は仮駅舎のすぐ左隣にあった。保全工事のため壁など多くの部材が外され、まさに剥き出しの状態まま佇んでいる姿を見て衝撃を受けた。こうなっているのだと…。駅事務室があった所はもぬけの殻すスカスカ状態だ。所々、真新しい木材で補修や補強が施されていた。

 目の前の2本の木の柱はかつてホーム端と面していた部分だ。そして柱の間を通り階段を降りると、改札口があり出口に通じたものだった。

南海本線、高架化工事中の諏訪ノ森駅、上りホーム側の仮駅舎と旧駅舎

 改めて見ると、曳家後は位置が25m西に移動しただけでなく、駅舎の角度が以前とは変わっている事に気づいた。南北に延びる南海本線のレールを横切り、道路がクロスしているが、以前、駅舎正面は道路に面した北側に向いていた。しかし、曳家の過程で時計周りに90度回転し、東側のレールの方に正面が向く形になった。

堺市、南海本線の高架化工事中の諏訪ノ森駅。曳家後の西駅舎

 少し離れ全体を見渡すと、ポツンと駅舎が建っている風景がどことなく不思議だ。新駅舎竣工時は小さなロータリーが設置されるため、余裕あるスペースが確保されている。

 周辺はスーパーマーケットもある賑やかな商店街で人通りが多い。

南海本線・諏訪ノ森駅、保存工事中の洋風木造駅舎

 西駅舎が移動された工事現場一帯は、フェンスで囲まれていた。背伸びしたり、ある時は隙間から、自分の目で見て、時にカメラを高く掲げ、駅舎を撮影した。

南海本線・諏訪ノ森駅旧駅舎、ステンドグラスがあった所

 名物のステンドグラスは抜かれ、壁に5つの穴がぽっかりと空いているだけだった。工事で破損するといけないので、きっと大切に保管してくれているのだろう。

南海本線・諏訪ノ森駅、むき出しの駅舎側面

 駅舎下部の腰壁部分はかつて石材で作られていた。しかし重点的にチェックしているのか、剥がされ木組みが露になっていた。

南海本線、保存工事中の諏訪ノ森駅西駅舎

 そして先ほどの柱部分の左横を見てみた。現役時代は壁で仕切られ見る事が出来なかった部分だ。一部でレンガの部材が使われているのが目に付いた。その上から「レンガ残す」という注意書きが書かれた緑のテープが貼られていた。

南海本線、高架化工事中の諏訪ノ森駅、特急ラピートが通過

 駅舎のある風景は変わったが、周囲の風景はまだそれほど変わっていなく、工事の慌ただしさは無いように思えた。

 列車は引っ切り無しに、地上を駆け抜けてゆく。急行、特急と言った通過列車が多く、やはり関西空港を結ぶ特急ラピートがひと際、インパクトが強烈だ。

 新駅舎竣工時は2028年3月の予定で、西駅舎にはカフェが入る計画との事。プランを見ていると、周辺部も含め楽しそうでわくわくしてくる。

 その前に、今年夏頃に改装が完了すると、ひとまずは地元住民のためスペースとして暫定的に使われる予定だという。


(※関連サイト: 堺市・浜寺公園駅及び諏訪ノ森駅 駅舎保存活用構想)

[2020年(令和2年) 3月訪問](大阪府堺市西区)

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 私鉄の保存・残存・復元駅舎