諏訪ノ森駅(南海電鉄・南海本線)~大正築の小さな洋館駅舎~



ステンドグラスが美しい西駅舎

 明治の洋風木造駅舎が残る浜寺公園駅を堪能した後、上り列車に乗り、1つ隣の諏訪ノ森駅で下車した。浜寺公園駅がもの静かな雰囲気だったのに対し、こちらは商店街の中にあり、駅前は活気づいていた。

 諏訪ノ森駅の配線は上り下りのホームが別になっている2面2線だ。しかし、上りと下りのプラットホームは約60m離れていて、それぞれ独立した構造になっている。地下道や構内通路と言ったホーム間の通路は無く、改札内に入ってしまうと反対ホームには移れない。駅舎もそれぞれのホームに小さな駅舎が設置されている。

 下りホーム側の「東駅舎」は、窓口、券売機、自動改札機を収納しただけの素っ気無い小さなコンクリート駅舎だ。待合室は無く。ホーム上屋の下にあるベンチで列車を待つ事になる。

南海電鉄・本線、諏訪ノ森駅上りホーム側の西駅舎。大正8年築の洋風木造建築。

 しかし上りホーム側の駅舎は、1919年(大正8年)に建てられた洋風の木造建築で、「西駅舎」と呼ばれる。窓の形状や石材で造られた袴腰などが印象的な小さな洋館風だ。築80年を越える古い駅舎だが、丁寧に手入れされているようで、古さは感じない。機能的には、切符のやりとりするためだけの下りホーム駅舎とほぼ同じだ。

南海電鉄・本線、諏訪ノ森駅上りホーム側の西駅舎。斜め横から見る

 諏訪ノ森駅の開業は1907年(明治40年)で、場所は現在の東駅舎付近にあった。開業時は北浜寺駅という名称だったが、翌年に諏訪ノ森駅に改称された。

 相対式のホームを有する構内配線だったが、さすがに大阪都市圏の駅として手狭になっていったようで、1966年(昭和41年)、約60m北に下り用ホームと駅舎が設置され、現在のような駅構造になったという。

 東駅舎、西駅舎とも機能や規模は同じだが、つぶさに見ていくと、西駅舎には今どきの小奇麗で無味乾燥な簡易駅舎には無い味わいと気品があり、格の違いをまざまざと感じさせられる。

 西駅舎は下りホームのものよりかは、少しだけ広い。…とは言っても7~8人も入れば超満員だ。広さは10畳ちょっと位だろうか…?しかしその割に背の高い駅舎で、天井は意外と高い位置にある。

南海電鉄・本線、諏訪ノ森駅西駅舎、装飾が洒落れた作り付けの木製ベンチ。

 自動券売機の横には、壁の窪みにすっぽり収めたような、木製の造り付けベンチが設置されている。この一角は、周囲のさりげない装飾がレトロで洒落た感じがし、木の造りや質感は歴史ある雰囲気を醸し出す。

 この西駅舎は1998年(平成10年)に国の登録有形文化財に指定された。そして、2003年(平成15年)には、第4回「近畿の駅百選」にも選ばれた。

南海電鉄・本線、諏訪ノ森駅西駅舎のステンドグラス。このあたりのかつての海の風景。

 西駅舎では、正面出入口上部にある5つ並ぶ採光窓がステンドグラスになっていて、一枚の風景画を奏でているかのようで、洋館が一層映える。松並木のある海の風景で、海の向こうには淡路島が見える。この近辺のかつての海の風景だという。そして、この松並木の美しい海岸は浜寺公園まで続いていたのだ。美しいステンドグラスに当時の様子をしばし偲んだ。

大阪のおばちゃんパワーが小洒落た洋館駅舎に炸裂!?

 駅をあれこれ見ていると、おばちゃんが自転車で駅に乗り付け、一番最初に目に入った私に、まくし立てるような大阪弁で質問してきた。南海のプリペイドカードで、スルットKANSAIカードとしても使える「コンパスカード」の残額の処理の仕方が解からなかったようだ。

 一応答えたのだが、納得できなかったようで、今度は同じような口調で駅員さんに質問していた。しかし、そのおばちゃんはなかなか解からないようで、なおも駅員さんにマシンガンのように言いたいことを浴びせ続けた。途中で、自分の自転車が気になったのか、自分の側まで持ち込み、再び同じ調子で話し始めた。

 駅舎内に嵐に急襲されたかのような雰囲気になり、自転車まで停められてしまい、ただでさえ狭い駅舎が余計に狭くなってしまった。何と言うか・・・、大阪のおばちゃんパワーはやっぱり凄いなあ…。でも、そんな大阪のおばちゃんパワーを不思議と溶け込ませてしまう包容力は、この駅舎が大正の時代から、ずっとこの地に佇み続けているゆえなのだろうと妙に納得していた。

[2003年(平成15年) 1月訪問](大阪府堺市西区)

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 私鉄の保存・残存・復元駅舎

追記: 諏訪ノ森駅の今後

 南海本線の堺市区間の高架化事業に伴い、古く歴史ある諏訪ノ森駅西駅舎と浜寺公園駅駅舎の行く末が危惧されていた。堺市や住民の間で、長い間、論議が重ねられ、両駅とも新駅舎の側で保存される事になった。

 2019年(令和元年)5月24日の営業を最後に、西駅舎の使用を終え、翌日に仮駅舎に切り替えられた。

 2020年3月、曳家後の諏訪ノ森駅を訪れた。その時の様子は下記の記事へどうぞ。

高架化工事中、南海本線・諏訪ノ森駅西駅舎2020

南海本線・諏訪ノ森駅、保存工事中の洋風木造駅舎
( 曳家後、保存工事中の諏訪ノ森西駅舎(2020年3月) )