秋は静かな行楽地の駅舎
南海本線の列車に乗り、洋風木造駅舎が残っている事で知られる淡輪駅で下車した。メルヘンチックな時計塔が目を引く駅舎は、1924年(大正14年)に立てられた。南海は浜寺公園駅など味わい深い古駅舎が多く残り、この駅もそんな南海らしさを感じさせる。
淡輪駅の開業は1906年(明治39年)8月15日だ。南海電鉄は駅近くの淡輪遊園の開発に力を入れたという。時計塔を除けば、外観はこれといって瀟洒な造りは無い。行楽ムードを高めるためシンボリックな時計塔を付け足すように作ったのだろう
時計塔は洒落た造りで、これが無ければこの駅舎の印象は随分違うものになっていただろう。しかし現在では時計は撤去されている。ここに座するべき〝主〟を失い、丸く跡だけが残っているのが、どれだけ造りが素晴らしくても、何か物足りなく寂しげに思わせる。
駅前には小さな商店街が形成されているが、人通りは少ない。
ひっそりした駅前だが、最寄には大阪府有数の海水浴場・ときめきビーチや、つつじの名所・淡輪遊園が控えている。それらのシーズンの時期にはかなり賑わうのだろう。しかし、冬を迎えようとしている今、駅前はとてものどかで、ローカル線の小さな駅の風情が漂う。
ちょうど日は西に傾く頃合だ。沈みゆく太陽が、ひっそりとした駅を鮮烈に染め上げていった。無人時間帯のようで、駅員さんも居なかった。
改札に入ると多角形の空間が広がり、高い天井に一点、レトロな照明の台座が残り、まるでドーム状の建物の中にいるような気分になる。壁で囲われている訳ではなく、東屋のような吹きさらしになっている。外には人々が暮らす街が遮るもの無く続き、不思議な気分がする。ここは待合室的な場所になるのだろうが、ゆっくり列車を待ってもらう場所ではなく、海水浴客など大勢のレジャー客に対処するために広めのスペースが取られているのだろう。
淡輪駅のプラットホームは2面2線だ。
大勢の乗客で賑わう南海本線で、難波駅では今頃帰宅する乗客でごった返している頃だろう。しかし大阪最南端の自治体・岬町まで来ると、列車が停車しても下車する人はさほどでもない。夜の帳が下りる前、区間急行と普通列車しないひっそりとした駅で帰りの列車を待った。
[2005年(平成17年)](大阪府泉南郡岬町)
~◆レトロ駅舎カテゴリー: 私鉄の三つ星駅舎~
追記: その後の淡輪駅
2006年(平成18年)に駅舎が改修された。黒い屋根板に葺き替えられシックな印象に。時計塔はそのままだが、円形の痕跡は無くなった。また内部もきれいに改修され、どうやらその時に、改札内の天井にあった照明の台座は失われてしまったようだ。