下船渡駅(JR東日本・大船渡線BRT)~鉄道時代からの木造駅舎が大改修されながらも残る…~



あの時、訪れる事ができなかった駅へ…

 16年振りに大船渡線を訪れた。前回2006年は木造駅舎が残る折壁駅など、いくつかの駅で下車した。下船渡駅にも木造駅舎がある事は知っていたが、スケジュールの都合上、訪れる事ができず心残りだった。

 そしてあの大震災…、風光明媚な海沿いにレールが伸びていた大船渡線を何もかも変えてしまった。甚大な被害を受けた海側の気仙沼-盛間は、気仙沼線の気仙沼‐柳津間と共に、バス専用道に改修され、バスによる運行「BRT(バス・ラピド・トランジット=バス高速輸送システム)」での復旧となった。

 実質的にも法的にもバス路線だが、大部分で鉄道路盤を転用しているため鉄道色はとても強い。実際の運行は地元のバス会社に委託されているものの、運営はJR東日本。各停留所は「駅」を名乗っている。

 その「駅」も、震災前からあるものは、位置の多少の移動はあっても、その名を引き継いでいる。下船渡駅もそんな駅の一つだが、以前からの駅舎が奇跡的に生き残っていると知った。

大震災と鉄道廃止をも生き延びた木造駅舎

 盛駅から大船渡線BRTに初乗車し、下船渡駅に着いた。

大船渡線BRT・下船渡駅、2面2線のホーム

 道床こそコンクリート敷きになったが、単線のバス道に行き違いのできる2面2線の停留所はいかにも駅の構内配線っぽい。鉄道らしさ感じさせる。

大船渡線BRT下船渡駅、木造駅舎らしい造り残す

 外に出ようと新たに設けられたスロープを歩くと、柵越しに木の軒を残した駅舎が目に入った。軒や柱は白く塗られているが使い古され、年月が刻まれたような木目さえ浮き出ていた。これぞ木造駅舎そのもの!変わり果てた鉄路の風景の中、昔のままに佇む風情にただ感激した。

大船渡線BRT・下船渡駅、鉄道時代からの木造駅舎を改修

 鉄道時代からの木造駅舎はなおも佇んでいた。津波で浸水はあったものの、少し高い場所に立地していたため、大きく損壊する事無かったという。

 下船渡駅の開業は1934年(昭和9年)9月3日。この駅舎は何年に建てられたか不明だが、その時以来のものだろうか…?駅真横の家に住むおばちゃんが、元はもっと大きな駅舎だったが、半分程度に大きさにされたと教えてくれた。

 駅舎はホーム側こそ昔の風情を残しているとは言え、全体的にはまるで新築のように改修されている。

 かつての駅舎正面はホーム側反対の東側で、出入口もありそのまま改札口からホームへと抜けていたが、両方とも痕跡無く塞がれた。改修で出入口は90度移設され、南側に一つあるだけ。スロープで駅舎を介さず行き来する事ができる。

 かつての出入口両側には、木枠のままの大きめの窓があったが、右手の窓は埋められ、左手の窓はサッシの小さな窓になった。外壁は新建材に替えられ、一部が木の柵で装飾されている。

 …と、よくこれだけ徹底的に改修して使いまわしているなと感心するが、形状は以前と同じ。写真でしか見た事ないが、ああ下船渡駅なんだなと実感させられた。

大船渡線BRT下船渡駅、駅舎前の古い水飲み場跡

 駅舎正面のタイル張りの水飲み場はいかにも古めかしい。銘板を見るとロータリークラブが寄贈したようで、刻まれた年月は1961年と、61年前!水飲み場として機能しなくなってだいぶ経つのだろうが、今では駅の歴史感じさせるいいモニュメントだ。

大船渡線BRT・下船渡駅、新築のような待合室

 待合室の中はかつての面影が全く感じられないほどきれいになっていた。トイレが新設され、残りの狭いスペースに数席のベンチが置かれていた。

下船渡駅前を歩く

大船渡線BRT、高台にある下船渡駅、震災で街並は一変…

 駅から下って少し周辺を歩いてみた。

大船渡市・下船渡駅前、防波堤で海は見えない…

 下船渡駅は海に近く、本来なら湾内の長閑な港町の一望の下にした事だろう。しかし、背の高い防波堤が整備され海は閉ざされてしまった。海近くの建物は、今や港など漁業関係施設がほとんど。震災前の写真を見ると、この辺りもかつては建物が建ち並ぶ街があった。しかし、海沿いに住んでいた人々は高台に移転し、きれいな空き地は、まるで新しい分譲地を見ているかのよう。その一変振りに驚かされる。津波の無慈悲さを思い知らされた。

下船渡駅近くの大船渡線BRTのバス専用道

 少し坂を上がりBRTの踏切にやって来た。と言っても、列車の通過時に踏切を塞ぐのではな、他の車両の進入を防ぐため通常時にBRT専用道を塞ぐ形だ。そしてバス通過時に踏切が上がる仕組みだ。見た目は明らかに普通の道路なので、踏切が無いとうっかり入ってしまいそうだ。

大船渡市、下船渡駅近くの街並みと垣間見えた海

 更に坂を上がると、ようやく海が垣間見える高さになった。壁から解き放たれた青い海はより印象深く映った。


 下船渡駅に戻ってきた。駅舎のホーム側をより近くで見たかったが、柵で囲まれて駅の普通の動線からは完全に外れている。反対側から入ろうと思い、近所の人とのんびり喋っているおばちゃんに挨拶して回り込んだ。

大船渡線・下船渡駅、鉄道駅舎らしさ残す木造の軒

 3本だけ残った柱も木のまま、軒まで木のまま。そして木で組まれた空間は、たったこれだけになっても往時を感じさせる。私は今、木造駅舎の中にいるという実感で溢れた。いつまでもこの木造駅舎らしさを留めてほしい。

大船渡線BRT・下船渡駅、鉄道時代の切符回収箱

 ホーム側に棒のようなJR東日本仕様の切符回収箱が残されたままだった。もう使われる事は無いのだろうが、なぜか残されたまま…

下船渡駅に入線する大船渡線BRTバス

 折り返し今日の泊地となる大船渡駅前に向かった。

[2022年(令和4年)5月訪問](岩手県大船渡市)

レトロ駅舎カテゴリー:
一つ星 JR・旧国鉄の一つ星レトロ駅舎