大船渡プラザホテル~トレインビューホテルならぬBRTビューを愉しめる大船渡駅前のホテル~



新しくなった大船渡駅と駅前を歩く

 木造駅舎が残る大船渡線BRTの下船渡駅を見た後、今宵の宿となる大船渡プラザホテルがある大船渡駅にやってきた。

大船渡線、鉄道線を転用したBRT線上に再建された大船渡駅

 大船渡線海沿いの区間は東日本大震災の津波で甚大な被害を受けたが、鉄道路盤をバス道に転用しBRT(バス・ラピッド・トランジット)として運行再開された。駅舎やホームなど駅の施設が流失した大船渡駅もBRT駅として再スタート。「配線構造」は鉄道で言うなれば2面2線の相対式ホームだ。

大船渡線BRT・大船渡駅、鉄道駅らしさ残した駅前

 震災後、駅前は交通広場としてロータリーが整備され風景は一変した。いかにもちょっとした駅前の風情だ。ただ市の名前を冠する主要駅、乗降客を迎え入れる駅舎が無いのは寂しく映った。しかし主要駅とは言え、大船渡駅の一日の乗客数は約50人と意外と少ない。終点で三陸鉄道との接続駅になってる盛駅の方が、一日200人程度と多く、大船渡市第一の駅と言えそうだ。

 ロータリー北側には、立派なビルが建つ。「おおふなぽーと(大船渡市防災観光交流センター)」で、観光案内所や地域交流施設があり、災害時は一時避難所を担う施設でもある。

大船渡駅前、佐々木朗希選手の完全試合を祝う横断幕

 今、大船渡の明るい話題は、1か月前の4月10日、大船渡市出身で千葉ロッテの佐々木朗希投手が完全試合を達成した事だ。観光案内所には完全試合達成を祝った横断幕が誇らしげに掲げられていた。

津波被災後、再建された大船渡駅前の商店街

 ローカル線駅前の街並と言えば、狭く入り組んだ道に年季が入った商店や民家が建ち並び、郷愁さえ漂わす所も多い。しかし湾に面し津波で流された大船渡駅周辺は、商店街も再建されている。と言っても風景は一変したのだろう。小奇麗なお店が建ち並ぶ風景は、郊外のロードサイド店?アウトレットモール?道の駅…?そんなモノを連想させた。

 観光客向けの店舗もあるが、飲食店や花屋、衣料品店など多くが地元民向けのお店だ。新しさはもちろん、十分な駐車場があるのが印象的だった。もちろん無料だ。目的の店の近くに車を止めすぐにアクセスできる。旧来の商店街では、こんな事は難しいだろう。土地に余裕があるから出来たのだろうが、これが21世紀型の商店街なのかもしれないと思いながら歩いた。

客室から大船渡線BRTビューを愉しむ…

 大船渡駅周辺をブラブラした後、大船渡プラザホテルにチェックイン。元々は、少し離れた場所にあり被災後も営業を続けていたが、駅前ロータリー南側に移転した。今年2022年の東日本大震災の追悼行事では岸田総理が宿泊したホテルだ。

大船渡市、大船渡プラザホテル客室(シングルルーム)

 部屋はシングルルームだけど、広めのシングルルームという部屋。普通のシングルルームが15㎡なのに対し、広めは19㎡。15㎡でも標準的なビジネスホテルより広めだが、さらなるゆとりを感じる。

大船渡市・大船渡プラザホテルシングルルーム

 内装は茶色をベースにした落ち着いた雰囲気。部屋の広さもあり、ビジネスホテルより上等な雰囲気で、準シティホテルと言った感じ。ベッドは高級ホテルでよく採用されるシモンズ製。

 デスクが窓側に向いているのは好印象。壁沿いにデスクがあるのは圧迫感があって苦手だ。デスク沿いの壁に大きな鏡があるのもよくあるパターンで、そんなモノがあろうものなら余計に気になって鬱陶しく思う。

岩手県・大船渡プラザホテル客室設備、椅子と足のせ

 ゆったりとした椅子にオットマン(足のせ)で寛げそう。このオットマン、ベッドサイドの荷物置きにも使えそう。

 アメニティは標準的で不足無く、他に電気ケトル、空気清浄機も用意されていた。コンセントは十分な数あり、デスク上だけでも4個、ベッドサイドに一つ。古いホテルみたいに探さなくてよく、離れた床近くとか不便な場所で充電しなくていいのは助かる。新しいホテルならでは。

客室から大船渡線BRTが眺められる大船渡プラザホテル

 何で今回の東北旅行の1泊目をこのホテルにしたかと言うと、BRTと大船渡駅が眺められる立地に魅かれたからだ。部屋から列車・電車が眺めらるホテルを「トレインビューホテル」という言い方をするのは定着した感があるが、このホテルはトレインビューならぬBRTビューホテル。鉄道ファンの心をくすぐる。

大船渡プラザホテル客室から眺めたBRT大船渡駅

 大船渡線BRTに対して直角に建てられているので、たぶん他の多くの客室からでもBRTを眺められるのだと思う。だけど「大船渡駅が見られる部屋」と事前にリクエストしていたので、高層の方の5階で、しかもBRT線寄りという好ポジションの部屋をアサインしてくれた。

 お陰で行き交うバスや大船渡駅が一望の下に。だけどそんな風景を眺めるにつけ、正直な所、鉄道が健在だったらなぁという気持ちも少し…

大船渡プラザホテルから眺めたBRT駅と大船渡の風景

 高層の5階だったので、山々に囲まれた大船渡の街並みも印象深かった。海が見える部屋もあるようだが、内陸よりで北向きの私の部屋からは見えなかった。

大船渡プラザホテルからトレインビューならぬBRTビューを愉しむ

 日が沈み窓の外は少しずつ夜の風景に…

 コンビニで買った弁当を1階で温めて来て、夕食をいただきながらすっかり寛いでBRTが行き交う風景を堪能した。夕方~夜は上下とも30分に1本位のバスがあり撮影チャンスも多かった。

大船渡線BRT、夜の大船渡駅に到着した大船渡線BRTバス

 20時16分の陸前高田駅行きのバスが入線。すっかり夜の闇に沈んだ駅はひっそりした空気感に包まれ、乗車した人はいなく、たった一人だけ降り街に消えていった。

 残す上りはあと一本、1時間後の陸前矢作行きだけ…

翌朝

 朝起きてカーテンを開け…

雄大な山々と大船渡線BRTが眺められる大船渡プラザホテル

 やっぱりBRT、そして大船渡の眺めを堪能…

大船渡プラザホテルの朝食ビュッフェ

 朝はホテル宿泊の楽しみ、朝食ビュッフェを頂きに1階のレストランへ。十分な品ぞろえで、特にホタテの殻を使ったホタテと三陸ワカメのミニ鍋が三陸らしく嬉しい一品。朝カレーも美味しかった。

JR東日本・大船渡BRT、朝の通学時間帯で賑わう大船渡駅

 朝食の後は部屋に戻り、荷造りとか出発準備をしつつ名残りのBRTビューを楽しんだ。

 朝はよく乗っていて、やはり学生の姿が目立った。

岩手県大船渡市の街並みと大船渡線BRT

 素人目には復興は進んでいるように見えた。だけど元々、人口減が進んでいた上、震災後この地に戻らなかった人もいるのだろう。復興事業で土地がかさ上げされているとは言え、海近くの標高が低めの土地に居を構えるのを躊躇う人もいるのかもしれない。広がる街並の中、駅周囲には分譲中のような空地も目立った。

 遠い…いや近い未来、この部屋から眺める風景はどうなっているのだろうか?BRT線上を走るバスを名残惜しく眺めながら、そんな事を考えていた。

[2022年(令和4年5月訪問)](岩手県大船渡市)