堂々たる佇まいの駅は今はひっそりと…
大船渡線の折壁駅で下車した。改修され真っ白に塗られたが、昔のままの佇まいが趣を感じさせる木造駅舎が現役だ。1928年(昭和3年)の開業時からの駅舎という歴史がある。旧室根村の中心駅だったが、2005年(平成17年)9月20月、一関市と合併した。
カーブがかったホームは長い編成の列車も入線できそうなほど長く立派だ。加えて、行き止まりの側線ホーム跡もある。村の中心駅という風格が感じられる。
下りホームにタイル張りの古めかしい水飲み場があった。上りホームと駅舎入り口にも同じデザインのものがありレトロさ醸し出すが、どちらとも水は出なかった。
駅舎待合室も、外壁と同様に白く塗られていた。無人駅となり、窓口跡は塞がれながらも、カウンターが残りかつての面影が伝わってきた。
駅舎ホーム側には、立派な軒がありまるで回廊の趣。小駅なれど堂々たる雰囲気の木造駅舎だ。屋外には、鉄パイプで作られた降車用改札口が残るのも昔ながらで、どこか懐かしい気持ちにさせる。
ロータリーに面して、木造のトイレとJAの建物があった。JAの方は古くはなさそうだが、閉鎖の張り紙が…
ちょっと駅を出て、街に出てみた。すぐ側を国道284号線が通る。店が並び交通量もまあまあで、村役場も駅の近くにあったという。暑かったので、スーパーでアイスクリームを購入して駅に戻った。
暑いといっても東北の夏は幾分はマシのようで、駅舎の軒下に入れば、優しい風がかすかに吹き抜けるのが心地良く、秋の気配すら感じさせた。目の前には、かつて丹念に手入れされていたであろう植え込みがあった。駅舎の中にいるより気持ちいいのだが、残念ながらこちら側にベンチは無かった。でも、庭園鑑賞をしている気分で、立ちながらアイスクリームを食べた。
何気に回廊の木の柱を見ていると
「飛び乗り飛び降りは絶対おやめ下さい」
という注意書きが取り付けられているのを発見した。飛び乗りは解らなくも無いが、飛び降りとは…。かつて、列車の扉が自動ではなかった頃、乗り過ごしそうになった時とか、停車駅でもないのに無理に降りようとして、勝手に扉を開けて下車しようとする人もいたのだろう。汽車旅という響きがよく似合う、何十年も昔の鉄道を感じさせる遺物だ。
そしてもう一つ
「ご注意 □□□ お見送りの方は車内に立ち入らないで下さい。
お見送りにテープの使用は固くお断りします。」
という注意書きもあった。□□□の部分は「入場券」という文字が白ペンキで消されていた。この部分は無人化に際し消されたのだろう。昔はテープが飛び交うような、派手な見送りもあったもんだ。
そう言えば私が子供の頃、名古屋駅とか新幹線の駅で「テープやクラッカーの使用はお止め下さい。」「胴上げをしないで下さいと」いう注意書きがあったのは不思議と印象的で、今でもおぼろげに覚えている。
今は静かな無人駅だが、集団就職、新婚旅行、出稼ぎ、生まれ育ったこの故郷を離れる人々…。一体、どれだけの人々が、どれけの人々に見送られながら、この駅から旅立ったのだろうか…
[2006年(平成18年) 8月訪問](岩手県一関市)
追記: その後の折壁駅
この折壁駅の木造駅舎は2007年(平成19年) 11月に取り壊された。代わりに待合室の機能のみの、小さな簡易駅舎が取って代わった。
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