風情溢れる駅舎ホーム側の佇まい
のと鉄道・穴水駅から七尾行の列車に乗り二駅、木造駅舎が残る西岸駅で下車した。ホームから駅舎の方を見ると、木の窓枠の向こうのがらんとした旧駅事務室の中に、木の机が置かれているのが見えた。どこか田舎の分校のような風情。
中を覗き込むと、奥の畳敷きの休憩室も昔のまま。畳は傷んでいるように見えるが、木の壁や引戸、棚なんかは、古アパートを見ているよう。この部分がここまでよく残っている駅はもうほとんどない。
壁はグリーン基調に塗装されている。しかし、それでも木造駅舎らしい古い木の質感が伝わり味わい深さがあふれていた。
ベンチに腰掛けた。ホームと駅舎の間は植栽で豊かで、公園の東屋で一休みしている気分。紅葉はまだ青々しさ残るが、もう少しで色づき始めるだろう。ああ、ここで秋の風情を愛でたいもの。
列車がやって来たので撮影しにホームに出た。やってきたのはアニメの美少女キャラが描かれたラッピング列車。こんなラッピング列車や、観光列車の里山里海号もあり、のと鉄道の車両は本当に華やかだ。
味わいある木造駅舎のある駅は「花咲くいろは」の聖地
待合室を抜け駅舎の正面に出てみた。駅開業の1932年(昭和7年)8月27日以来という木造駅舎は木の板張りの素朴なままの造りを残す。黒光りする屋根瓦は、車窓から見た入り江や海沿いに建つ家々と同じ。まさにこのへんの建物。緑基調のホーム側と違い、こちらは白色というかクリーム色に塗られている。塗装の剥げが目立つが悪くない。
駅舎前の大きな桜の木が一際目立つ。きっと春はさぞ見事なのだろう。駅舎右横の枝垂桜もざわざわと賑やかに枝を広げていた。
駅前を見ると、右手前には昔ながらの渋い駅前商店が建っている。残念ながらもうやっていないようだが。道路を隔て真正面に郵便局がある。建物の間から、僅かに海が垣間見えた。
外観はレトロさ溢れるが、待合室はきれいに改修されていた。待合室が改修されると、どこか殺風景になる駅も少なくないが、木がふんだんに使われ、手入れも良く居心地はいい。
ホームは2面2線の配線。駅舎側の上りホームの和倉温泉方には、切り欠きの側線ホーム跡も残っていた。
ホーム沿いには桜の木が何本も植えられ、まさに桜並木。のと鉄道では、能登鹿島駅が駅構内中に桜の木が植えられ、春には桜の園のようになる事でよく知られている。能登鹿島駅ほどでもないかもしれないが、この西岸駅もなかなかのものだろう。
駅舎の近くには、古めかしい木造トイレが残っていた。見ている分には味わいあるが、実際使うとなると、設備の古さや清掃状態が気になり勇気がいるかなぁ…。だけど中を少し見ると、壁は木目の板に張り替えられ、サッシ扉には「洋式トイレ」と標されていた。改修されてきれいになってるらしい。使っていないから実際は知らないけど…。
入口に建物財産標があり、昭和7年8月と標されていた。駅舎と同じく、こちらも駅開業以来ととても古い。
穴水行きの車内から、西岸駅に「ゆのさぎ」「湯乃鷺駅」と標された謎の駅名標があるのを目にし不思議に思っていた。最初、廃線となった能登線の駅名標でも展示しているのかと思ったが…
待合室の片隅に何冊も駅ノートがあった。見てみると「花咲くいろは 聖地巡礼ノート」とタイトルが標されていた。この西岸駅、アニメ「花咲くいろは」で湯乃鷺駅のモデルとなった駅との事。こういうアニメには興味は無いが、待合室に美少女キャラのイラストが目に付くなあとは思っていたし、先ほどはアニメのラッピングトレインもやってきた。ああ、そういう事だったのだ。
ノートにはNO.42と標されていた。はるばるここまで聖地巡礼に来てくれるなんて、のと鉄道にとってオタクとは心強い。
去り難さを抑え、七尾行の列車に乗り込んだ。
入り江や海沿いの小さな町、緑深い田舎風景と広がる空、どこまでものどかな風景広がる。まさに美しき里山里海。
穴水以遠の輪島、蛸島までが廃止され、発足時の3分の1程度にまで縮小され、地図を見るとだいぶ寂しくなってしまったものよと思う。だけど残された区間は印象深く、趣ある木造駅舎も残っている。のと鉄道にすっかり魅了されてしまった。
[2023年(令和5年)10月訪問](石川県七尾市)
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- JR・旧国鉄の二つ星レトロ駅舎