加賀一の宮駅(北陸鉄道・石川線)~門前の見事な和風木造駅舎~



紆余曲折を経て現在は終着駅に…

北陸鉄道・石川線の終点・加賀一の宮駅、元東急の7000系電車

 野町駅からの列車が石川線の終点、加賀一の宮駅に到着した。鶴来駅までは日中に約30分に1本の列車があるが、鶴来-加賀一の宮間は列車本数が半減する。乗降客は少なく、駅はひっそりとしていた。

北陸鉄道・石川線・加賀一の宮駅、現在はレールが果てる終着駅…

 加賀一の宮駅は現在の終着駅でレールは途切れる。しかし、かつては金名線として約17km先の白山下駅までレールが続いていた。

 名古屋と金沢を結ぶという構想の下、金名鉄道が1926年(大正15年)に白山下駅‐加賀広瀬駅間で開業した。加賀一の宮駅は、翌年の1927年(昭和2年)6月12日、加賀広瀬駅間から北に延伸してきた時に開業した。当時は神社前駅という駅名だった。その半年後の12月28日、更に北の鶴来駅まで延伸し、北陸鉄道の前身である金沢電気軌道と接続した。

 神社前駅-鶴来駅間は、1929年(昭和4年)、金沢電気軌道に譲渡された。神社前駅が現在の加賀一の宮駅と改名されたのは1937年(昭和12年)年12月8日だ。

 1943年(昭和18年)10月13日、金名鉄道、金沢電気鉄道の後身だった北陸鉄道(旧)など周辺の私鉄が合併し、新たに北陸鉄道が設立され、金名鉄道は北陸鉄道金名線となった。加賀一の宮駅を境に、同じ北陸鉄道の路線ながら、金名線と石川線と線名こそは違うが、直通運転されていたという。

 金名線は、1984年(昭和59年)3月11日、前年の豪雨の被害から復旧したものの、同年12月12日に橋台を支持する岩盤が風化して危険な状態となっていることが判明し、金名線全線で運休となり、その後、復旧する事なく、1987年(昭和62年)4月29日に廃線となった。金名線の末期、昼間は列車の運行は無くバス代行をしていたというので、利用客はよほど少なくなっていたのだろう。

白山比咩神社の門前駅らしら溢れる和風駅舎

北陸鉄道・石川線・加賀一の宮駅、昭和2年築の和風木造駅舎

 加賀一の宮駅は、加賀国一宮で白山神社の総本社・白山比咩神社の最寄り駅だ。駅開業の1927年(昭和2年)年に建てられた木造駅舎は、神社を思わす造りの純和風の外観で、古色蒼然とし風格が感じさせる。瓦が敷き詰められた入母屋の造りが印象的だ。

北陸鉄道・石川線・加賀一の宮駅の木造駅舎、見事な唐破風の車寄せ

 唐破風の車寄せが、いかにも「門前の駅」という雰囲気に満ち溢れている。「加賀一宮駅」と標された木の駅名看板は、木造駅舎に重厚感を添えている。

 車寄せの下には、のぼりやポスターなどが賑やかに掲示されていた。駅業務的には無人駅だが、地元のNPO法人が入居し、観光案内所を開設している。

北陸鉄道・石川線・加賀一の宮駅、中二階付きの2階建てのような木造駅舎

 斜面にレールが敷かれ駅が作られたため、ホームは駅舎より低い所にある。駅舎の側面を見ると、車の陰にドアがあり、その上にカーテンが閉じられた窓がある。よく見ると、2階建ての構造のようだ。駅前を通る道路の高さに合せるため、低い所にあるプラットホームから駅舎をかさ上げするように建てたのだろう。待合室は中2階と言った所だろうか?カーテンの部屋はかつては宿直室だったのだろうか…?ユニークな構造で、ぜひとも内部を見てみたいものだ。

北陸鉄道・石川線・加賀一の宮駅、駅出入口

 入口の扉に「アイスコーヒーはじめました」という案内が掲示されている。観光案内所がカフェでもやっているのだろうかと思ったが・・・。

北陸鉄道・石川線、加賀一の宮駅、駅舎内待合室にある売店

 駅舎待合室内は観光案内所の物産販売所になっていて、地元の産物やお土産が、かつての窓口前に並べられていた。狭い待合室の中に、更に事務所的な小屋が置かれ、余計に狭く感じる。ドリップコーヒーの自動販売機も置かれていた。表のコーヒーの案内書きはこの事だったのだろう。

 ただ、観光シーズンではないためか、駅に出入りする人は、僅かばかりの列車利用客だけで閑散としていた。

北陸鉄道・加賀一の宮駅近く、金名線の廃線跡

 金名線の廃線から15年以上過ぎていたが、レール終端部から更に先へ、一目で廃線跡とわかるものが白山下方面に続いていた。乗る事がなかった金名線を偲びながら、少しだけ廃線跡を辿ってみた。

[2005年(平成17年) 7月訪問](石川県白山市)

追記:石川線末端部、鶴来‐加賀一の宮間の廃線後

 2009年(平成21年)11月1日、石川線の末端部、鶴来駅‐加賀一宮駅間は廃線となり、結果として加賀一の宮駅も廃駅となった。

 また、駅舎内の売店・観光案内所は、訪問後に駅からは撤退、白山比咩神社近くに移転していたとの事。

 2009年の廃線後、駅舎は唐破風の軒下がバス待合所とした使われてはいたが、放置状態が続き、内部は封鎖されていた。

北陸鉄道・石川線末端部廃線で廃駅となった加賀一の宮駅の駅舎(2010年)
( 廃線後、閉鎖された旧加賀一の宮駅。(2010年) )
北陸鉄道・石川線末端部廃線後の加賀一の宮駅の駅舎ホーム側(2010年)
( 上屋が撤去されたホーム側。(2010年) )

 しかし、2017年1月末、白山市と鶴来まちづくり協議会が、加賀一の宮駅駅舎を2018年度に登録有形文化財への登録申請を目指す方針がある事が報じられた。駅舎は修復される予定で、2階の宿直室も補修されるとの事。活用案は、今後、具体的に検討されるが、今の所、休憩スペース、鉄道用品の展示などが挙げられている。

 2019年(令和元年)7月26日より、改修が完了した加賀一の宮駅旧駅舎の公開が始まった。駅舎は金名線の廃線跡を中心に整備された自転車道「手取キャニオンロード」の休憩所として利用され、北陸鉄道の写真や鉄道用品の展示もされているという。開館時間など、詳しくは
白山市の観光情報サイト・うらら白山人旧加賀一の宮駅までどうぞ。


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