出雲大社前駅 (一畑電車・大社線)~旧大社駅とは対極の洋風駅舎~



今では唯一の出雲大社の門前駅

 廃線されて久しいJR大社線・大社駅跡から10分ほど歩いて、やっと出雲大社の門前らしい雰囲気になってくると、一畑電車の出雲大社前駅が目の前に現われた。約9年振りの訪問だ。

一畑電車・大社線・出雲大社前駅、開業の1930年以来の超個性的な洋風駅舎

 和風木造駅舎として名高いJR・国鉄の旧大社駅駅舎を見た後だと、この洋風で個性的な外観は余計にインパクトが強い。駅舎の大きさは小さいが、屋根は高く丸みを帯びていて、形状を大雑把に言うなれば、北海道辺りでよく見る牛舎を大まかなモチーフとしているかのようだ。緑色の瓦がびっしりと葺かれているのも、インパクトを更にかき立てる。

 この駅舎、1996年(平成8年)には、国の登録有形文化財となった。今でこそ登録有形文化財の駅舎は多いが、この出雲大社前駅の駅舎は制度創設の年の登録で、重要文化財となった大社駅にはかなわないが、格の違いを感じさせる。2009年(平成21年)には、近代化産業遺産にも登録された。

一畑電車・出雲大社前駅の駅舎、右手の降車用改札口付近とタクシー

 駅舎横の屋外にも改札口がせり出しているが、現在ではタクシーの待機所になっている。かつてはここも使われる程の賑わいがあったのだろう。

一畑電車・出雲大社前駅、ファサードの特徴的な色ガラスの装飾

 そして、この駅舎をより印象的にしているのが、ファサードの装飾で、正面にはステンドグラス風に色ガラスをはめ込んでいる。側面にも小さいものも側面にはめ込まれている。

 この駅が開業したのは1930年(昭和5年)2月2日、当初は大社神門前という駅名だった。駅舎はその開業当時からのものだ。こんな個性的…、奇抜とさえ思える駅舎だが、出雲大社門参道の一風景としてすっかり溶け込んでいる様子だ。この駅舎が権利意識が進んだ現代に建てられたのなら、日本有数の神社・出雲大社の門前駅として相応しくないと、景観論争を巻き起こしていたかもしれない…。

一畑電車・出雲大社前駅の駅舎、待合室内の旧出札口

駅舎の中に入ってみると、ちょうど日が傾きかけた頃だった。西日があの色ガラスを円柱状のオブジェに投影し、不思議で妖しげなムードを奏でている。夕日が降り注ぐまさにこの時間は、駅を異空間へと連れ去るマジックアワーだ。

 この円柱状のオブジェにはアールデコのような装飾が施されている。正方形の大小の装飾がいくつも施されパターン状に並び幾何学模様のようになり、円柱の中ほどをぐるりと取り囲んでいる。外観同様のインパクトに余計に驚かされた。

一畑電車・出雲大社前駅、旧切符売場アールデコ調装飾の窓口

この円柱状オブジェ、前回来た時は気がつかなかったが、幾何学模様の中に切符売場窓口の造りが3箇所に残されていた。ここは出札口だったのだ。そう気付いた時、この駅の…、一畑電気鉄道の旧大社駅への対抗意識を強烈に感じた。なぜなら、出札口は大きな駅もない限り、大抵、駅事務室と一体となっているものだが、旧JR大社駅の出札口も、このように待合室の中程に独立して設置されているからだ。

 大社駅の方は装飾が凝った厨子を思わす造りの木造の構造物が、中程に重々しく鎮座している。一畑の方の駅舎は規模がより小さいので、出札口と駅事務室と一体化させた設計の方が業務の効率が良かったのではと思える。にも関わらず、このような出札口を配した設計にしたのは、あえて旧大社駅に張り合おうとしたからではと思える。生半可なものを作って対抗できる相手ではないので、全く正反対ものをぶつけたのだろう。どちらも出札口と言うより、“作品”で、優劣付け難い。方や職人が意匠を凝らした美術品、方やアーティストが作ったモダンアートのオブジェ…。

 一畑電気鉄道・大社線のライバルたる鉄道院(後の国鉄)の大社線は、1912年(明治45年)に開業し、今も残る和風駅舎が1924年(大正13年)に竣工した。遅れて1930年一畑の方の大社線が開業した。鉄道院の駅より出雲大社に近い位置に、駅の用地を確保したものの、相手は錦の御旗を掲げる鉄道院。気は抜けなかったのだろう。そして、これから発展していく希望と、地方私鉄の新進気鋭の気質が、駅舎に投影されたのかもしれない。

 それにしても両駅舎の競う合うような個性が面白い。また、それゆえに、それぞれの個性がライバルを引き立てていたのだろう。今では一畑の方の駅だけが生き残っているが…。

一畑電車・出雲大社前駅の駅舎、教会のような雰囲気の待合室

 面積は広くないが、屋根は高く天井はドームのようになっていてる。牛舎のような形だと思った駅舎だが、天井の高さとステンドグラスが、まるでキリスト教の聖堂にでも入った気分にさせる。

一畑電車・出雲大社前駅、駅の伝言板風・映画RAILWAYS出演者のメッセージ

 一畑電車、近年の話題と言えば、中井貴一主演の映画「RAILWAYS」パート1の舞台になった事だろう。それを記念して、待合室には、駅の伝言板を模した出演者直筆のメッセージが書かれた黒板が展示されていた。チョークで書かれていたが、その部分はさすがに透明の板で覆われていた。

一畑電車・出雲大社前駅の駅舎、改札口

 片隅には改札口や今の出札口があり、頭上には列車時刻表、次の列車の案内表示板などがある。次列車の案内版は手動の方向幕のようなロール式だ。列車が出発すると、駅員さんが下から棒を差し込みくるくる回して、次の列車時刻に幕を回転させていた。アナログ感溢れる作業に、つい見入ってしまった。

 出発時間が近づかないとホームに出られないが、駅鉄の性で、やはり構内も見てみたい。駅員さんい早めに中に入れてくれないかと頼むと、快く許可してくれた。

一畑電車・出雲大社前駅、駅舎ホーム側

 駅舎ホーム側を見てみた。こじんまりとしているが、今の改札口の他に、左側に臨時と思しき改札口もあった。サッシ戸なので初詣と言った最ピーク期には使われる事があるのかも知れない…。そして、あの出札口裏側の出入口用扉も、まだ残っているのも目を引いた。

一畑電車・出雲大社前駅に置かれる古い秤

 改札口横には年季が入った重量計がいまだ置かれたままだ。横に小さなパレットが置かれたままなのが妙にリアルだ。一畑電車では、今でも細々と手小荷物輸送を取り扱っている珍しい鉄道会社だが、もっと昔はこの秤が盛んに使われた事だろう。

一畑電車・出雲大社前駅ホーム、静態保存中のデハニ52と元京王の2100系

 出雲大社前駅は行き止まりの終着駅で、ホームは駅舎に対しほぼ直角に配置されている。1面2線の造りで、一番線横の側線には映画・RALIWAYSのロケで使われたレトロな電車・デハニ52が展示されている。この車両は一畑電気鉄道の自社発注で、1928年(昭和3年)に3形クハ4として製造された御年83歳の古老だ。何と出雲大社前駅駅舎より2歳年上だ。

一畑電車・出雲大社前駅構内の木造建築物

 大社線の終点で、一畑電車の中でも主要駅という事もあり、構内は広く、片隅には駅員詰所と思われる古い木造の建物も残っていた。

一畑電車・出雲大社前駅、映画Railway記念植樹

 映画RAILWAYS公開記念して、桜の植樹も行わていたようで、舞台となりロケも行われた一畑電車が沸き立った空気を感じる。植樹1年程度で、か細く添え木でやっと立っていられる弱々しさで、大丈夫だろうかと不安にさせられる。それでもその枝から僅かばかりの花を精一杯咲かせ、蕾もちらほらと見える。ゆっくりだが確実に成長している姿が嬉しい。何十年もしたら私を覆い被らんとばかりに成長しているのだろう。その時、この駅舎はゆうに百歳を超えている。まだまだ先は長い…。

一畑電車・出雲大社駅、帰りの車内から見た駅構内の桜

 まだこの駅を見ていたいが、特急やくもの時間に間に合わなくなるので、後ろ髪引かれる思いで列車に乗り込んだ。席に座ると、ドアの向こうの駅構内で咲き誇る桜が一際印象的に私の目に映った。あの記念植樹の桜との競演が十数年後には見られる事だろう。

[2011年(平成23年) 4月訪問](島根県出雲市大社町)

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 三つ星 私鉄の三つ星駅舎

追記: 駅舎改修と周辺整備

 出雲大社の「平成の大遷宮」の一環、「本殿遷座祭遷宮」を翌年に控えた2012年、駅舎が改修された。外壁はすっかりきれいになり、かつてタクシーがたむろしていた屋外の改札口跡にはカフェ・レストランが入居した。その右側は「縁結びスクエア」として整備され、駅構内で展示されている一畑生え抜きのデハニ50形電車を背景に、観光客や地域住民が憩える広場となった。

 2018年2月に出雲大社前駅を再訪した。駅舎外観がきれいに改修され、新しい施設も併設され、2011年当時とは、かなり様相が変わった。しかし駅舎内部はほぼそのままで、本来のレトロな味わいを活かしつつ、駅は「おしゃれな空間」に生まれ変わったと言った雰囲気だ。レストランでのランチを楽しみにしていたが、当日昼は貸切のため利用できなかった。

一畑電車、式年遷宮を控え改修された出雲大社前駅の駅舎
( 改修されきれいになった出雲大社前駅(2018年) )