函館本線、2022年廃止予定駅を自転車で巡る駅旅(1)~八雲駅から森駅へ~



折りたたみ自転車・ダホンK3を抱え、飛行機で北の大地へ…

「折りたたみ自転車で駅巡りの旅へ…」
暖め続けていた旅を遂に実行する時が来た。日豊本線閑散区間、片上鉄道廃線跡、木次線と考えていた目的地は色々あったが、先ごろ、2022年のダイヤ改正で5駅の廃止検討が報じられた函館本線の南部にした。廃止が見込まれているのは森町内にある本石倉駅、石谷駅。七飯町、砂原支線にある銚子口駅、流山温泉駅、池田園駅。

 函館本線以外では、宗谷本線の歌内駅、根室本線の糸魚沢駅も廃止の方向という。今年2021年には宗谷本線の12駅が廃止された。JR北海道では、これまでも利用者が極端に少ない駅を廃止してきているが、近年は経営難を背景に、より駅の切り捨てを断行している感だ。

 また、北海道新幹線の札幌延伸時、函館本線の並行区間の廃止についても言及されたのも、かなり衝撃的だった。余市‐長万部間のいわゆる「山線」については、かなり危うい。長万部以南については貨物需要が旺盛なので、完全な廃止ではなく、旅客列車の運行取りやめという見方ではあるが…


 早朝、自宅を出て、中部国際空港から新千歳空港に飛行機輪行。そして新千歳空港駅から南千歳駅に列車で移動した。

DAHON K3、飛行機輪行の後、タイヤに空気注入

 列車の待ち時間に、南千歳駅の片隅で、自転車を飛行機に預ける時に減らしたタイヤの空気を注入。気圧の関係か、預けるにあたり、空気を減らさなければいけなかった。

 そして今度は列車の輪行、特急北斗で一路南へ向かう。自転車を安心して置いておける場所あるかと気にしていたが、車内には荷物置場があった。特急北斗に投入されている261系1000番台は、ほとんどの号車で荷物置場を備えているようだ。空いていて余裕で自転車を置けたが、北海道は中国人やアジア人旅行者に人気の目的地と言う。コロナの影響が無ければスーツケースでいっぱいだった事だろう。

八雲駅から21年前に駆けた道を再び

 午後1時過ぎ、八雲駅に到着。自転車を展開し…

鉄道で輪行の旅、函館本線の八雲駅から自転車で…

 一路南へ出発!

 市街地を抜け、国道5号線に出た。道南と道央を結ぶ主要国道で交通量が多く、風情がいいとは言えないが…。それでも「今、北海道を走っているんだなぁと」と、ようやく始まった輪行旅の喜びを噛み締めながらペダルを回し続けた。普段、信号や人が多い街中を走っているので、そういうものに止めらる事も圧倒的に少なく、快調な走りだ。

北海道八雲町、国道5号線沿いに広がる海

 道路はだいたい海に近く、時折、雄大な噴火湾の眺めが広がった。

 国道5号線は、24年前、自転車で北海道を一周した時に通った道。当時は北上という違いはあるが、日付は一日違いの10月28日。ゴールとなる苫小牧港を目指し、懸命にペダルを回していたものだ…

函館本線・山越駅、関所を模した和風の簡易駅舎

 走り始めて30分ちょっと、内陸側に和風建築の小さな建物が見えた。函館本線の山越駅だ。江戸時代にこの地に関所が置かれた事から、関所風に建替えられた簡易駅舎だ。駅を見渡しやっぱり列車で来て見たかったなぁと、物足りなさのようなものを感じだ。駅には列車でという思いからだ。とは言え、楽しく走り至った最初の到達点。ひと安心し、駅を見ようと自転車を降りた。

函館本線・山越駅、石積みのプラットホームとレトロな構内通路

 昔からの木造駅舎こそ建替えられたが、ホームは昔ながらの風情をふんだんに残していた。特に石積みのプラットホームや、切り欠きの階段がある構内通路は昔ながらのローカル線の風情に満ち溢れていた。残されたレトロさに触れ、この駅に来ることが出来て良かった。

 さて、次の駅を目指そうとした所で一考。森駅までの25㎞、すべての駅に立ち寄ろうと思っていた。しかし、私の走行力では走るだけで最低でも2時間は掛かり、各駅の訪問時間を含めると4時間は掛かるだろう。日が短くなった秋、そうなると肝心の本石倉駅と石谷駅に着く頃には、もう真っ暗だろう。

 なので、野田生駅、落部駅、石倉駅の3駅は寄らないで、次の目的地、本石倉駅を目指す事にした。なぁに…、また来る機会はあるだろう。


 海沿いとは言え、道は時折、緩めの坂も混じる。日頃の鍛錬!?のお陰で、この程度ならギアを変えなくても、乗り越える事ができるようになった。

八雲町、国道五号線沿いの海と函館本線、そして駒ケ岳

 走り続けると、左手には海の風景、眼下の波打ち際には函館本線のレールが見えた。そして行く手には駒ヶ岳の雄姿。

 ひたする走る続ける単調さに 正直、飽き飽きし気分的に疲れてきた。そして体力を使っているせいでお腹も空いてきた。

函館本線・落部駅近くの踏切を通る貨物列車

 落部駅近くで踏切の音が鳴っていた。止まってカメラを構えていると貨物列車が通過していった。貨物列車は本当によく見た。普通列車もこの位多いと嬉しいのだが…

 少し走ると落部駅の木造駅舎が佇んでいるのが見えた。先を急ぎたいので…、というより食い気が勝り、正面からの写真を一枚撮影すると、すぐ先に見えていたコンビニに向かった。

本石倉駅

 本石倉駅への道はまだまだ続く。赤く染まり始めた風景の中をひたすら走り続けた。

噴火湾沿いの石倉-本石倉間、函館本線旧線跡?

 海沿いの跨線橋から函館本線を見下ろした。トンネルに入るレールの直前から海沿いに一本の道が分岐していた。意味無さそうに伸びる一本の道…、函館本線の旧線跡だろうか。

 そしてようやく本石倉駅が見えた。所々で止まって写真を撮ったり、休憩を挟んだりしつつ約1時間40分…、長かった。

函館本線・廃止予定の本石倉駅、築堤上にホームがある

 国道沿いにある駅は、斜面に沿った少し高い路線上に設けられ、ホームには階段で上がる。ローカル線によくある、のどかな地にホームがぽつんと佇むで長閑な感じではなく、地方都市の高架の無人駅といった趣。

 駅近くは人家がぽつりぽつりと建つが人口は多くなく、近くには漁港がある。しかしほとんどの人々が生活には車を使うのだろうし、近くにはバス停もある。

函館本線・本石倉駅、下りホーム待合室と背後の郵便局

 ホームに上がると高架駅のような趣は無くなり、内陸側には山中のような木々が深い斜面がそびえる。2面2線の相対式ホームで山側の下りホームのすぐ隣には石倉郵便局がある。廃止を免れた石倉駅の方がまだ人口が多いイメージがあるが、こちら側に郵便局があるのだ。

 ホームは2面だが、駅構内には跨線橋や構内通路は無く、反対ホームに行くには一旦、駅の外に出なければいけなかった。

函館本線・本石倉駅、ホームから夕暮れの海と空を見渡す

 上りホームからでも海が垣間見えるが、下りホームから駅の背後に見える海はまた格別。日が沈み暮れゆく無人駅の風情をしばし堪能…

 本石倉駅廃止が報道されたためか、私以外にも数名の訪問者がいた。たかが数人だが、ローカル線の無人駅を訪ねても、同じ目的の人に会う事は稀なので驚かされた。廃止される路線や列車への記念乗車が「葬式」と呼ばれるようになって久しいが、駅にもその動きが波及してきたのだろうか?

夜の石谷駅

 本石倉駅を訪れた後は、隣の石谷駅を目指した。約4㎞離れているだけなのですぐだが、日は沈み夕焼けの色は刻一刻と失われている。夜はもうすぐそこだ。

本石倉駅から自転車で石谷駅へ、来た道を振り返る…

 気ははやるが、これまで走って来た道を振り返るのもいいもの。ついさっき走ってきた道ははるか後方…

函館本線・廃止予定の石谷駅、立派な木造駅舎が残る

 石谷駅に着いた時は、もうほぼ夜で、待合室の灯りをこうこうと灯した木造駅舎が佇んでいた。

 それにしてもこんなに立派な木造駅舎があるのに廃駅となってしまうのか…。少し広い待合室は何十年も昔はもっと賑わっていたのだろう。しかし今や生活利用者は3人以下。無常を感じずにはいられなかった

 到着が予定より遅くなってしまい、17時22分の函館行きの列車まであと十数分。再び自転車を折り畳み、この列車に乗るつもりだったが、まだ見足りない。しかし一応、石谷駅を訪れる事ができたので、列車に乗って行こうかと思った…

函館本線、夜の石谷駅を発車するキハ40の普通列車

 しかし結局、函館行きの列車を見送った。地元乗降客はいなく、待合室にいた駅訪問の鉄道ファンが乗り込んだだけだった。

 宿泊地の森駅前のホテルまでは自転車で走っても6㎞位。もう少し、石谷駅を堪能しよう…

函館本線・石谷駅、夜の木造駅舎を愉しむ…

 外観は新建材で改修されているが、それでも所々で築70年越えの味わいを垣間見せた。

函館本線・石谷駅と折りたたみ自転車ダホンK3

 記念に駅舎正面にK3を置いて撮影。子供用かと思う小さな自転車だが、石谷駅の木造駅舎は最小より1つ大き目なサイズで、車寄せもどっしりした雰囲気。そんな駅舎が我が愛車を小さく見せているのかもしれない…

函館本線・石谷駅前、これから海の向こうの灯りの中の森駅前へ

 さて、そろそろ石谷駅から去らなければいけない…

 目の前には灯りが鈍く点る道と暗い海が広がっている。目的地は暗い海の向こうに連なるネオンの街。走るほどに近づき表情を変えていった駒ヶ岳は、もう完全に夜の闇に閉ざされていた。

[2021年(令和3年)10月訪問]