美作滝尾駅(JR西日本・因美線)~懐かしさ溢れる昭和初期の木造駅舎~



「男はつらいよ」で寅さんが訪れた時のままの駅舎

因美線の美作滝尾駅、開業の昭和3年以来の木造駅舎

 古く味わい深い木造駅舎が残る美作滝尾駅。因美線の津山-美作加茂駅間が開業した1928年(昭和3年)に建てられた駅舎だ。窓枠は木製で内部など、各所が非常に原形を留め、「昭和初期の標準的な小規模駅舎」という点が評価され、2008年11月1日付けで登録有形文化財となった。

 1970年(昭和45年)、市が駅舎の払い下げを受けた。現在では地元の人々が駅運営委員会を作り、清掃、花壇の手入れなどの管理をしている。一時、取り壊しの話もあったが、地元の人々の熱心な運動で保存が実現しているという。今、この素晴らしい駅舎に巡り会えるのは、この美作滝尾駅を愛する地元の人々があってこそと頭が下がる思いだ。

津山市・美作滝尾駅、古く趣きある木造駅舎を飾る2本の松

 昭和の古き駅舎を飾るように、駅舎出入口両側に2本の松が植えられ情感を添える。

 この駅は、映画「男はつらいよ」のシリーズ最終作となった第48作「寅次郎紅の花」ロケ地となった事でも知られる。駅舎右側には男はつらいよロケ記念碑が設置されている。登録有形文化財となった事も手伝ってか、約2時間の滞在で、数組の見学者が訪れていた。写真左手の石垣の上にある立派な碑は「鐵道70周年記念」の碑で、昭和17年10月14日の年月が標されていた。

因美線・美作滝尾駅、側線ホーム跡に残る木造の貨物上屋。

 駅構内北側に、2線分の行き止まりの側線ホーム跡が残っていた。ホーム上には背の高い木造の上屋も残っている。側線跡が残っているローカル線の駅は多いが、せいぜいホーム跡や車止め、レール程度しか残っていない場合が殆どだ。このように古い貨物用ホームの上屋が、ほぼ完全な形で残っているとはとても珍しい。因美線の郡家駅から分岐する若桜鉄道は、隼駅などいくつもの木造駅舎の他、歴史感じさせる各種鉄道施設も登録有形文化財に申請し、登録されている。そう考えると、この貨物上屋も、昔のローカル駅の風景を現代に伝えるとして、駅舎同様に価値があると思うのだが…。

因美線・美作滝尾駅、貨物ホーム上屋に残る注意書き

 上屋の下に来ると、柱に錆び付いた鉄板が巻かれていた。よく見ると、消えかかりながらも、何か書かれているのがわかる。

「ここは貨物の保管積卸をする処で
すから車両類の放置固くお断りします」

昔はこんな小さな駅の側線にも、貨物列車がわざわざ入線し、荷物を積んだり下ろしたりして、そして出発していたのだ。そこで働く駅員さんが何人もいたのだろうと、往時の賑やかな様子を思い浮かべていた。

因美線・美作滝尾駅、貨物上屋天井の建物財産標

 木造の貨物上屋をじっくり見ていると、天井の柱に「停(貨物上屋)二号」という古い建物財産標的な木の板が貼り付けられたままだった。

因美線美作滝尾駅の木造駅舎、昔のままの待合室。

 駅舎の中には、狭い待合室がある。ほとんど改装されていない室内は、昔の駅の趣を留めている上、きれいに整備されていて、とても居心地がいい。室内には登録有形文化財に関する新聞記事、寅さん映画ロケの様子の写真などが展示してあった。

美作滝尾駅、原形を留めた出札口(切符売場)と手小荷物窓口跡

 特に、出札口、手小荷物窓口の両窓口跡は見事なまでに原形を留め、使い古された木の質感が十二分に伝わり、深い印象を与える。建築当時のままだという。こんな窓口で切符を買ってみたいものだ…。しかし、残念ながら現在では無人駅となっている。

 掲示物の中に、「男はつらいよ」の監督・山田洋次氏の手紙が展示されていた。手紙は
「寅さんと共に日本中の駅を見てきましたが、美作滝尾駅ほど美しい駅はもう日本のどこにもありません。…」
で始まっていた。その通りだ。

因美線・美作滝尾駅、駅事務室も昔のままの造り!

 窓口裏側の駅事務室も、見事なまでに有人駅時代の造りをよく留めて、無人駅とは思えない空気感を漂わす。奥の休憩室から、今にも駅員さんがひょこりと出てきそうだ。いつか中に身を置きじっくり味わってみたいものだ。置かれいるデスクや椅子は窓口の古び具合と違和感は無い。寅さんの頃から…、いや、もっと昔からこの駅に置かれていた備品なのかも知れない。

桜眠る春…

津山市、因美線・美作滝尾駅、駅前の桜並木と木造駅舎

 駅から伸びる道の脇には桜並木がある。きれいだが、まだ5分程度の咲き具合なのがやや残念。

 歩くと集落に出だ。駅前のJAに売店があり、昼食代わりに何か買おうと思ったが、棚卸しのためこの日は休業との事。昼食時で、しっかりと温かい食事とまでは行かなくても、パンでもお菓子で何か食べたい思い、さ迷い歩くように集落の中へ入っていった。

美作滝尾駅前の街中、かつての滝尾郵便局の局舎

 少し歩くと、一部に洋風の造りを取り入れたレトロな民家を発見した。玄関の上の壁には、看板代わりに
「局□□-尾瀧」という文字が直接造り込まれている。「□□」の部分はえぐるように削り取られていた。判読できる部分から「□□」の部分を連想すると、恐らく右読みで「瀧尾郵便局」となる。かつては郵便局だったと推察できる。右読みという事を考えると、結構古い建物なのだろう。この近くには現局舎もあるので、新局舎に移転した後、こちらは個人に払い下げられたのかもしれない…。

 肝心の食料はと言うと、この近くに酒屋があり営業している気配はあったのだが、鍵が掛かり店は暗く人の気配は無かった。休憩中だったのだろうか・・・。最悪でもどこかでお菓子位は調達できるだろうと、何も食べ物を買ってなかった。それが祟り、…というか駅前のJAも休業という不運に見舞われ、結局、朝に食べたっきり、夜前に智頭駅に着くまで食料にありつく事ができなかった。

因美線・美作滝尾駅、木造駅舎と満開前の桜

 今回の旅は桜咲き誇る駅の風情を楽しみにしていたのだが、3月下旬の冷え込みのせいで予想を外し、満開には程遠いところが殆どだった。美作滝尾駅の駅舎横の桜も、まだ3割程度の開花率。この日も春にしては寒く、後で訪れた三駅北の知和駅では、一瞬、みぞれさえ降り落ちていた。そりゃ、こんなに寒いと桜もまだ寝ていたいよなぁ…

[2009年(平成21年) 4月訪問]

レトロ駅舎カテゴリー:
三つ星 JR・旧国鉄の三つ星レトロ駅舎

追記: その後の美作滝尾駅、駅事務室内部etc…

 2012年11月、念願かなって駅事務室内に入る事ができた。まるで昭和の初めに戻ったかのようにそのままで、魂が震えるような感動を感じた。その時の様子は
木造駅舎の窓口跡の向こう側、気になる駅事務室の中…(1) へどうぞ。

因美線・美作滝尾駅の木造駅舎、駅事務室内部公開
( 昔のままの駅事務室内部(2012年) )

 運良く内部を見学できた理由は、因美線で年に数回運行される臨時列車「みまさかスローライフ列車」運転日で、美作滝尾駅停車時に歓迎イベントが行われていたからで、その一環として内部も公開されていた。今後も、みまさかスローライフ列車運転時には同様の機会があるかもしれない。


 廃線となったJR深名線・沼牛駅の残存していた木造駅舎が大改修され、2016年11月にお披露目となった。出札口を再建する際、類似例を探したところ、美作滝尾駅の出札口が似ているとわかり参考にしたという。
※関連ページ: 改修された沼牛駅訪問記


 2022年8月、約10年振りに美作滝尾駅を訪問した。これで4回目の訪問になる。輪行での駅巡りの旅で、津山駅に戻る際は高野駅などに寄りつつ自転車で駆け抜けた。

木造駅舎が残る美作滝尾駅、折りたたみ自転車・DAHON K3を共に訪問
折りたたみ自転車・Dahon k3と共に美作滝尾駅へ…(2022年8月)

その時の訪問記は以下へどうぞ!
時が止まったままの木造駅舎、美作滝尾駅へ再び…
木造駅舎・美作滝尾駅、そして折りたたみ自転車で津山駅へ戻る

美作滝尾駅・基本情報

会社・路線:
JR西日本・因美線
駅所在地:
岡山県津山市堀坂
駅開業年:
1928年(昭和3年)3月15日。
駅舎竣工年:
1928年(昭和3年)※駅開業以来の駅舎
駅営業形態:
無人駅。