雄信内駅追想~2006年冬、雪に眠る町~



古色蒼然とした木造駅舎が残る駅

宗谷本線・雄信内駅の木造駅舎、ホーム側

 糠南駅、問寒別駅と宗谷本線の無人駅を立て続けに訪れた後、次に古い木造駅舎が残っている雄信内駅で下車した。外壁は新建材に張り換えられているが、古さ感じる佇まいが味わい深い。

雄信内駅を通過する宗谷本線の排雪列車

 程なくして宗谷本線の排雪列車が南へと通り過ぎていった。

宗谷本線、雄信内駅待合室の窓口跡、除雪機が置かれている

 待合室には除雪機が停められ、使わなくなったベンチが窓口跡の荷物カウンターに積み上げられ、まるで物置のよう。

 無人駅だが、旧駅事務室内からは人の気配がする。線路の除雪要員が詰めているようだ。

宗谷本線、1953年(昭和28年)地区の木造駅舎が残る雄信内駅

 駅舎を正面から見てみた。21世紀になり北海道の木造駅舎は大きく改修されている場合が多いが、改修を忘れられたかのように、雄信内駅の木造駅舎は昔ながらの造りをよく留め、木の板や壁は使い古されたままで古色蒼然としている。

宗谷本線・雄信内駅の木造駅舎、レトロな車寄せ

 古い木造ながら、車寄せは床からV字状に伸びた木の柱と細い鉄骨に支えられ、レトロなモダンさを感じさせる造形。

 雄信内駅の開業は1925年(大正14年)7月20日。駅舎の建築時期は大正の開業時か戦後とも言われる。この車寄せの造りやモルタル壁を言った特徴を見れば、戦後ではないだろうかと個人的には思う。

宗谷本線・雄信内駅、煙突にできた巨大な氷柱

 駅舎のに巨大な氷柱(つらら)が雪に突き刺さっているのが見えた。これは!!?しかも黒味を帯びているのが不気味だ。

 旧駅事務室のストーブに繋がれた配管が待合室の天井を横切り外の煙突に続いていて、外に出た部分にこんな風に氷柱が出来ていた。煙が排出される過程で、外に出た部分で厳しい寒さで急速に冷たくなり水蒸気となり、一滴一滴垂れた灰混じりの水滴が極寒で凍らされたのだろう。自然の猛威が作り出した造形にただ驚かされた。

廃墟建ち並ぶ駅前を歩く…

 ちょっと駅の周辺を散策してみよう。

宗谷本線・雄信内駅、駅舎と駅前の廃墟

 雪が深く降り積もり、駅前は静まり返っていた。宗谷本線と並行する道道302号線から駅に分岐する「駅前通り」に人が住んでいる家屋は皆無。一軒の廃墟と倉庫らしき長い建物があるだけだった。

幌延町・雄信内駅の駅前通り

 道道302号線に立ち北の方を見てみた。駅前通りの突き当りに木造の家屋、線路寄りに農業倉庫がある。しかし人の気配はしない。木造の家屋に至っては押し潰されそうなほど雪を被っている。

 「街並み」とまでは言わないけど、一軒二軒は人の気配があっても良さそうだが…。しかしこれはほんの序の口に過ぎなかった。


 北に歩いてみた。

幌延町、宗谷本線・雄信内駅近くの商店の廃墟

 少し歩くと雪に埋もれた商店跡があった。軒先の日よけのビニールシートに竹内商店と店名が標されているのが生々しい。昔はどんな小さな集落にもこんな商店があって、食料品やら日用雑貨などを売っていたのだろう。

雄信内駅前の廃墟、アンテナの家

 商店の続きで木造の家屋があった。雪に覆われそうになりなが、僅かに覗いた屋根からTVのアンテナがピンと張られたままなのが心に突き刺さる。まだ家だと強く主張しているかのよう。

雄信内駅前の廃墟、雪に埋もれる民家

 この木造家屋も除雪する人はもやはいなく、屋根に厚く積もった雪に今にも押し潰されそう。あと何年持つのだろう…?

雄信内駅前の廃墟、雪に埋もれる緑の家

 ほどんど雪に埋もれた家。僅かに覗かせる緑が不思議な色彩に映った。

雄信内駅近く、雄信内大橋

 数分歩くと道道256号線に突き当たり、道道302号線は終わった。

 左に進めば天塩川を渡る雄信内大橋がある。全長504mもある長い橋だ。この橋を渡れば雄信内の集落があるという。

雄信内駅近くの廃墟、雄信内小学校跡

 道道256線を右に進めば、宗谷本線沿いに小さな学校が見えた。しかし誰も足を踏み入れぬ雪原と化した校庭が、もう閉校されていると物語る。一対の校門の柱が雪から姿を覗かせ、そのすぐ横に詰所があり、その奥に体育館らしきものがある。校舎はとうに失われたようだ。

 この学校跡、雄信内小学校跡で、1982年(昭和57年)3月31日に閉校となったとの事。


 雄信内駅周辺、廃墟だらけとはちらりと聞いていたが、ここまでだったとは…

 すっかり無人地帯になってしまったが、廃れ切った風景にかつての面影が垣間見えるのがまた残酷。しかし心ならずも思い出深い故郷を離れなければならなかった人々の心情を思うと胸が痛んだ。

雄信内駅に戻ってきて…

 駅前を散策し、雄信内駅舎に戻って来た。雪は止んでいたが、やはり北海道の冬は並外れて寒く、体はすっかり冷え切っていた。

宗谷本線・雄信内駅の木造駅舎、壁際の造り付け木製ベンチ

 待合室には窓口の反対側に壁に沿って造り付けの木製ベンチが設置されていたので、ここに座って一休み。屋内なので、一応、寒さはしのげるが寒い。だけど、隣は暖房が効いてて暖かいんだろうな…

秘境駅、雄信内駅に貼られた愛知万博のポスター

 天井の方を見上げると、出入口の上あたりに愛知万博にからんだJRデスティネーションキャンペーンのポスターが貼られていた。
「へぇ…、こんな駅にも律儀に貼りに来るんだ…」
と思った。約5か月前の2005年9月に万博は終わってはいるが…

宗谷本線・雄信内駅を通過してゆく稚内行き特急スーパー宗谷

 名寄方面行の上り列車がやって来た。すれ違いで待ちですぐの発車ではなく、何が来るのだろうと見ていると、稚内行きの特急スーパー宗谷が通過していった。こんな古色蒼然とした秘境駅には目もくれず…

[2006年(平成18年)2月訪問](北海道天塩郡幌延町)