近鉄とJRが切れ目なく繋がる駅
近鉄吉野線の列車に乗り吉野口駅にやってきた。吉野口駅はJR西日本の和歌山線との乗換駅。3面5線のホーム配置だが、駅舎に面した1番線を近鉄吉野線の吉野方面行が使う。隣は島式ホームだが、2番線が吉野線の大阪阿部野橋方面行き、反対側の3番線をJR和歌山方面行。その隣の島式ホームの4.5番線は和歌山線の王寺方面が発着する。
中間改札は無く、まるで同じ鉄道会社のように、この駅は使われている。管理は両社共同で行っているが、JR西日本側の駅員が常駐している。
列車本数はそれほど多くなく、駅は静かだ。3面5線のホームは持て余し気味…。しかし、石積みに古い木の上屋が掛けられたプラットホームが並ぶ様はどこか懐かしく、古き良き時代の鉄道風景を見ているかのよう。
築124年、明治の駅舎がひっそりと残る駅
改札口を通り抜け外に出て駅舎を眺めた。開業は1896年(明治29年)5月10日、JR和歌山線の起源となった南和鉄道時代。当時の駅名は葛駅だ。近鉄吉野線の起源となる吉野軽便鉄道の乗り入れは、16年後の1912年(大正元年)10月25日だ。
レトロな木造駅舎は明治の開業以来のもの。何と築124年!!シンプルだが風格感じさせる佇まいだ。
木の質感豊かな板張りは、実は後年の改修によるものと思われる。人工木材とでも言うのだろうか…?合成か何かの板の上に、人工の木目を入れたもので、経年劣化でその木目が剥がれている部分もある。今どきの住宅のような新建材で改修すると味わいはだいぶ落ち、正直残念に思うものだが、よく考えたものだ。
それよりも雨樋の排水口が石造りなのが古めかしく目を引いた。
とは言え、所々で元々の木材の部分も残っていた。車寄せも木の造り。防鳥用のネットで覆われているのが惜しいが、持ち送りのちょっとした装飾もいい。
出入口の木枠も古い木のままで、木目が深く刻まれている。改修部分との質感の差は歴然。
駅前に…待合室に…残る時代の香り
駅前にはこじんまりとした街並が広がっている。ローカル線駅前の常で、商店の多くが既に閉店しているよう。しかし一軒の鮮魚店は営業中。
ここから歩いてすぐの所に、柿の葉寿司で知られる柳屋がある。明治創業で古くから吉野口駅で駅弁を販売していたが、2018年で駅からは撤退したという。しかし吉野口駅に降り立ち、気軽に寄れる距離なのが嬉しい。
駅に面して一際目を引く家屋がある。2階部分のおたふく窓や瓢箪のような小窓が何とも言えないレトロさを醸し出し、鬼瓦が恵比須様というのもいい。以前、吉野口駅に来た時も気になったこの家屋、食堂で店先にはレトロなたばこのショーケースまであったもの。でも普通の家屋にしてはやや大振りで、かつては旅館か何かだった風情。
しかし十数年振りに来ると、空家となっていた。色を失ってしまったかのように佇む風情がどこか寂しい。
待合室に戻ってきた。広い待合室の壁の両側に、長い造り付けの木製ベンチが真っすぐ伸びている様は壮観。それだけでなく、かつては真ん中にもベンチが並べられていたのだろう。乗換駅として、吉野観光で…、あるいは地元住民の利用客で賑わった様子が思い浮かぶ。
造り付けベンチが奥の壁に届かず、手前で途切れているのは、かつての売店があった名残りだろうか…
窓口は改修され昔の面影は無い。かつての手小荷物窓口の前には、近鉄とJR西日本の自動券売機が仲良く並んでいた。
外壁は改修されているが、木製の造り付けベンチの木の質感はどこまでも味わい深かった…
[2020年(令和2年)11月訪問](奈良県御所市)
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