行楽客を意識した造り?の木造駅舎
近鉄の白子駅から伊勢街道を歩き、隣の鼓ヶ浦駅までやってきた。
だいぶ改修されているが、古くからと思われる木造駅舎が健在。駅舎をぐるりと囲むような軒が印象的だ。
鼓ヶ浦駅の開業は、伊勢鉄道時代の1915年(大正4年)9月10日。当時は子安観音という駅名で、駅の位置は現在より300mほど南にあったという。1922年(大正11年)10月1日に現在の駅名に変更となり、1925年(大正14年)9月に現在地に移転されている。
この駅舎の建築時期は不明だが、移転時の頃からのものだろうか…
外壁や屋根など改修の跡が見られるが、細かい部分の造形はいろいろと面白い。
軒は木の柱が賑やかに立ち並び支えている。車寄せ部分は3本一組で力強い。コンクリートで固められた台座にはいくつもの石が埋め込まれる装飾が施されていた。
柱から斜めに伸びる方杖は波状にカットされ、軒飾りは丸く切り込みが入れられたものが連続している。
建物の角や縁には、さりげなく陶器タイルの装飾が施されアクセントとなってる。色々と小洒落れた洋風の装飾が施されたものだ。
駅前を眺めると住宅が立ち並び、自転車置場にはぎっしりと自転車が置かれている。
住宅が立ち並ぶ風景からは想像し辛いが、「浦」という響きの通り、東に10分ほど歩くと海で、鼓ヶ浦海水浴場がある。鼓ヶ浦海水浴場は1920年(大正9年)開設という古い歴史があり、「白砂青松100選」に選ばれた美しい海には、夏は多くの海水浴客で賑わうという。1980年代までは近鉄名古屋駅から当駅まで海水浴客用の臨時急行も運転されていたという。
そういう背景を考えると、行楽ムードを演出するために数々の洒落た装飾が施された駅舎になったのかなと思った。
駅舎の外には鉄パイプの臨時改札口がずらりと並び、かつての賑わいを偲ばせる。車社会が進んだ今、海水浴場に訪れる人々は、多くが車を使っているのだろう。この改札口が開く事はあるのだろうか…。
ちょっとした遊び心か…? 改札口の横には方位を示す円が描かれていた。
今では日中に一時間に3本とまあまあの列車本数が確保されている。列車が着発すると、乗降客でささやかに賑わう。鼓ヶ浦駅の一日の乗客数は約600人ちょっと位だ。21世紀に入り減少傾向だったが、ここ数年で増加に転じているのは興味深い。
駅は2013年に無人駅化された。のっぺらぼうのように固められた窓口跡には自動券売機が埋め込まれていた。
ホームは2面2線の相対式だ。下りの1番ホームは軒が足りず、鉄製の軒が増設されていた。
2番ホームの待合所の軒下には20人以上が座れそうな長い造り付けの木製ベンチがあり、圧巻ですらあった。かつては潮の香をまとった海水浴客が大勢腰掛け、帰りの列車を待った事だろう…
[2019年(令和元年) 12月訪問](三重県鈴鹿市)
~◆レトロ駅舎カテゴリー: 私鉄の二つ星駅舎~