下吉田駅 (富士急・大月線)~ターミナル駅のような風格溢れる駅舎~



名古屋駅を模したターミナル風駅舎

富士急行・大月線・下吉田駅、名古屋駅を模したターミナル駅風駅舎

 風格を感じさせる造りの富士急行・大月線、下吉田駅駅舎。中央の待合室と窓口がある部分の天井が高く造られ、その両翼に業務用室を従え、一大ターミナル駅を連想させる風格ある造り。それもそのはず。この駅舎は、当時、東洋一と謳われた名古屋駅駅舎を模して、戦後の1950年(昭和25年)に建てられたという。重厚で堂々とした洋風建築だった名古屋駅とは、「天井が高く取られた待合室に両翼部分・・・」という大まかな構造でしか似ていない。だが、中央部の縦長の採光窓が4つ並んでいる様や、箱を合わせたような直線的な造りが印象的だ。

富士急行・大月線・下吉田駅、駅舎ホーム側

 プラットホーム側から見ても、駅舎の堂々たる風格が伝わって来る。こちら側にも縦長の採光窓が四つ並ぶ。

富士急行・下吉田駅の駅舎、天井が高く広々とした待合室

 古い造形を残した改札口や高い天井は、独特のムードを醸し出す。昔は賑わったのかもしれないが、昼という時間帯のせいか、今はひっそりとしている…

 閑散としているが、待合室には一人の男性が、列車や誰かを待つふうでもなく、ましてや私みたいに駅巡りを楽しんでいる訳でもなく、ベンチにだらりと座り読書をしている。空からは雨でますます強く降いでいた。きっと雨宿りでもしているのだろう…

富士急行・下吉田駅の駅舎、出札口と塞がれた窓口跡

 窓口は今では左の出札と改札を兼ねた窓口ひとつしか開いていない。中の事務室ではパートと思しき女性が勤務しいりる。

 他にも小荷物用受付や元の出札口らしき窓口が塞がれた跡が残り、かつての賑わいを偲ばせる。窓口跡上部にも、何か塞がれた跡がある。時刻表や運賃表が埋め込まれていたのだろうか…?

富士急行・下吉田駅前の風景

 駅周囲は住宅街となっている。駅前を歩いてみたかったが、台風が接近していて雨が強く降り続きままならなかった。

 駅前はロータリーっぽい雰囲気になっているが、駅と周囲を仕切る境界線のように、松や木々が何本も植えられた庭園風の長い土地がある。その前にはベンチやテーブルも置かれている。今日は生憎の雨だが、晴れていると地元の住民達が、庭園で憩うようにここで寛ぐのだろう。

富士急行・下吉田駅、駅前に造園された巨大な池庭

 庭園の端には大きな池まで設置されていた。駅に庭や池が設置されるのは特に珍しくないが、駅に設置されるものとしては最大級の部類で、大きな駅舎の存在感にも負けていない。真ん中には噴水の付いた岩も設置される凝り様。ただ、あまりに池が大きく、トラブル防止のためか、回りが金網で仕切られているのが少し残念な気も。

 後で、この庭園について駅員さんに聞いてみたら、いつ頃からあるかは不明で、更に駅が管理してるのではなく、地元の人々が管理してるとの事だった。

富士急行・下吉田駅、改札口のてるてる坊主

 改札口には、てるてる坊主が2個ぶら下がっていた。外に出られない手持ち無沙汰に、駅員さんに駅前の庭園の事を聞いたついでに「かわいいてるてる坊主ですね」と話しかけると、笑いながら照れていた。駅員さんのお手製ものだという。だが、駅員さんの願いは虚しく、雨は強く降るばかり。強い風に吹かれ、てるてる坊主は踊り狂っているかのように宙を乱舞していた。

富士急行・下吉田駅に進入する元京王車の1200形電車

 プラットホーム端の構内踏切には、横断歩道の歩行者信号のような警報機が付けられているのが面白い。

富士急行・下吉田駅、側線。レールが作業用車両が置かれる

 プラットホームはは1面2線で、天気がいいと富士山が見えるというが、この天候ではさすがに無理だった。

 下吉田駅は保線基地になっていて、側線は広く保線用車両が何台も留置されていた。ある保線車両(写真中央)の側面には富士山の麓の鉄道会社らしく、さりげなく富士山をイメージした塗装になっていた。そして、ヘッドライトを見ると…、上に謎の黒い曲線が描かれていた。これは眉毛…?顔のある車両に、思わずニンマリとしてしまった。

[2007年(平成19年) 8月訪問](山梨県富士吉田市)

追記: その後の下吉田駅

 2008年(平成20年)4月、この下吉田駅舎は鉄道車両も多く手がける工業デザイナーの水戸岡鋭治氏のデザインにより、レトロで瀟洒な雰囲気を誇張したリニューアルが施された。

 訪問はしていないが、色々なサイトやブログを見る限り、使い込まれ年月を経たゆえに身にまとう歴史感じさせるな味わいを生かすのではなく、わざと作り込んだ安っぽいレトロ感で、テーマパークのアトラクションか都会のオサレな(笑)飲食店と言った雰囲気。残念ながら古き良き趣きという観点からは、魅力を大きく減じた感…。これならいっそ取り壊された方がマシかと思いつつ、やっぱり取り壊されるよりマシかもと言うレベル。

 2011年には「下吉田駅ブルートレインテラス」が設置され、JR東日本から寝台客車スハネフ14 20購入、展示している。掲げられたヘッドマークは寝台特急富士のものとの事。車内は見学も可能。他に貨車数両も展示。またコミュニティースペース「下吉田倶楽部」も併設され、地元産果物を使用したソフトドリンクを楽しめる喫茶スペースや、観光案内所も併設されている。

関連URL: 富士急行ウェブサイト下吉田駅の案内 (※ページ下部にブルートレインテラスと下吉田倶楽部の案内有り。)

下吉田駅再訪

 2020年10月、下吉田駅を再訪した。リニューアルされた駅舎に関し報道ではいい印象は抱かなかった。しかし実際に見ると… 素晴らしかった。リニューアルされた空間は印象深く悪くない。こういう風に古い駅舎を活用するのも大いにあり。「百聞は一見に如かず」を身をもって知った。

富士急行、水戸岡鋭治氏によりリニューアルされた下吉田駅駅舎
リニューアルされた下吉田駅(2020年10月)。

 駅前の池庭は無くなったと小耳に挟んでいたが、やや縮小のうえリニューアルされていた。

 コロナ禍で下吉田倶楽部とブルートレインテラスは残念ながら臨時休業。またいつか訪れたいものだ。

富士急行・下吉田駅、富士山とスハネフ14が展示されたブルートレインテラス
ブルートレインテラス。天気が良く富士山が良く見えた。

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 三つ星 私鉄の三つ星駅舎