九州随一の秘境駅に池があると聞いて…
JR九州日豊本線の宗太郎駅。山中にある駅周辺は民家数軒しかない集落で、停車する列車は下りが早朝の1本、上りが早朝の1本と夜の1本と、たった3本だけ。あとは特急にちりんがひたすら通過していくだけで、九州トップクラスの秘境駅として知られている。
2000年代の前半に訪れているが、その後、宗太郎駅構内に池があるらしい事を他人のウェブサイトで知った。しまった!これは見落としていたなぁ…
それから約20年後の2022年秋、日豊本線・重岡‐延岡間の同様に1日3本の普通列車しか停車しない駅を折りたたみ自転車で訪ねる旅に出る事にした。宗太郎駅の池も楽しみだ。
重岡駅からの道はひたすら下りで、楽々、宗太郎駅前に着いた。11月の早朝、手袋が欲しくなる寒さだったけど。
駅は急坂の上。ここはさすがに自転車を降りて押して上がった。
物陰に自転車を止め宗太郎駅を…、と言うかむしろ池はどこかと駅構内の散策を始めた。
跨線橋を渡り延岡方面の2番ホームを歩いていると、ホームの中間あたりで
「むむっ!アレか?」
と思わせるものがあった。
それは2番ホームの背後、コンクリートで固められた急斜面の中にあった。まるで埋め込まれているように。
斜面の一部だけ、1畳弱位の四角く囲まれた空間…、その中に池はあった。石勝線・川端駅のダムを思わせるが、内側には、岩などが配されていた形跡がある。昔は植物なんかも植えられミニ庭園の趣だったのだろう。
下の池の部分を見ると、池の縁は石や岩で囲まれていた。
雑草で覆われ荒れ放題で、池の底には枯葉が溜まるが、湛えられた水は濁りなく割ときれいなような気がする。
よく見ると、雑草に隠れた斜面は苔生していて水で濡れている。たぶん、山からの湧水が自然とこの池に注ぎ込まれるのだろう。見た所、注水設備は無く、きっと昔からこうして池に水を注いでいたのだろう。
管理が放棄され、荒れたまま幾年過ぎても、この池の水は絶える事は無い。廃れてしまったけど廃れていないような不思議な感覚だ。
宇宙人のイラストが描かれた石が縁に置かれているのがシュール。
すぐ近くの待合所の上屋を見ると、メッセージが書かれた石がいくつも積み上げられていた。何もない駅のつれづれの手遊びか…。一つだけ気まぐれでここに置こうと思ったのだろう。
池と駅名標。人里離れた自然に囲まれた駅だが、なぜこんな所に小さな庭園を造ろうと思ったのだろう…?
宗太郎駅訪問ノート
日豊本線の難所「宗太郎越え」の途上にあり、宮崎県との県境近くに位置する。前述のように、山間の集落にあり、列車本数は著しく少なく、秘境駅とみなされている。
昭和末期あたりまでは木造駅舎があったらしいが、今は駅出入口に、そのコンクリートの残骸が姿を覗かせるだけ。代わりの待合室は作られる事無く、跡地に鉄パイプ製のラッチと乗車券回収箱がポツンと残る。トイレは閉鎖されていた。私が2000年代前半に訪れた時もこんなふうだった。立地はもちろん、そういう貧弱なまま打ち棄てられたような設備なのが、余計に秘境駅たらしめているのかもしれない。
見下ろすと、駅前にはささやかな集落がある。こういう集落は廃墟だらけで寂れている感じの所が多く、宗太郎駅前にも廃屋はある。しかし数世帯がいまだに住んでいる様子。菜園もきれいに整えられていて、廃れ切っているというふうでもない。でも、昔は日本中、こういう山深い所のあちこちで、人々の生活が営まれていたんだろうなと、どこか原風景を思い起こさせる光景に映った。
[2022年(令和4年)11月訪問](大分県佐伯市)