紀伊浦神駅 (JR西日本・紀勢本線)~ひそかな古き味わいが楽しい木造駅舎~



白いレトロ駅舎

 2013年年明けの紀勢本線駅巡りの旅で、最後に訪れたのが木造駅舎が残る紀伊浦神駅だった。駅舎は傾く太陽の光を浴びながら佇んでいた頃だった。

紀勢本線・紀伊浦神駅の木造駅舎、ホーム側

 ホームから列車が離れた後、駅舎を見てみた。改修されていて木の質感溢れるいでたちという訳ではないが、木の柱や建物下部にコンクリートの装飾が施されているのが目を引いた。

紀勢本線・紀伊浦神駅ホームと駅舎

 プラットホームの幅は国鉄・JRの島式ホームとしては狭く、中小私鉄を思わす。普通より1~2m程狭く細長いといった印象だ。この旅で下車してきた紀勢本線の駅には、狭い幅のホームが多く感じた。この辺りのローカル駅はみなこのような感じなのかもしれない。

 駅舎へはホーム端の構内踏切を渡り、更に構内通路を通らなければいけなく、随分と遠回りさせられている気分でめんどくさい。

JR西日本紀勢本線・紀伊浦神駅の木造駅舎、木の柱

 駅舎の軒下に差し掛かると、古めかしい木の柱に赤色で「再確認」と書かれた看板が取り付けられているのを発見した。有人駅時代の表示だろうが、一体何の確認をしたのだろう…。

JR西日本・紀勢本線・紀伊浦神駅、古い木造駅舎が残る

 紀伊浦神駅の駅舎は、壁をモルタルで改修された木造駅舎が現役だ。改修されと言っても、何十年と長い年月が過ぎているのだろう。白い駅舎は使い込まれ、味わいのある雰囲気を漂わせていた。

紀勢本線・紀伊浦神駅、駅舎前の花壇

 無人駅となっているが、駅舎の手前にはきれいに整えられた花壇があった。地元の人々が手入れしているのだろうか…?ただ冬の今、花は咲いていなかったが。

紀勢本線・紀伊浦神駅、昔の雰囲気残した待合室と出札口

 駅舎内部は外観同様、白く再塗装されるなど内部も改修されているが、昔の趣をよく留めている。出札口こそシャッター付きのものに改修されている。しかし、造り付けのベンチと手小荷物窓口の台はほぼ原形のまま。そして壁には木の骨組みが露出しているのが昔の駅舎らしい。味気なく改修されてしまう駅が多い中、ここまで残っていれば、木造駅舎好きの私としては上出来と思う。それに古いと言ってもひどく寂れた雰囲気は無い。手入れが行き届いているのだろう。かつての改札口には使われていない乗車証明書発行機がさび付いたまま放置されていた。

紀勢本線・紀伊浦神駅の木造駅舎、待合室の木のベンチ

 白いペンキが厚く塗られているが、まさに昔のままの造り付け木製ベンチは、まさに木造駅舎らしさ溢れる。ペンキ越しに木目が浮き出ているの。そしてベンチの脚が床面に向かって緩くカーブをしながら先細りしていく造りが面白い。まっすぐに加工した脚の方が手間が掛からなさそうなのに、細かい所に凝るものだ。

紀伊浦神駅の木造駅舎、漆喰の天井がある待合室

 そして更に面白いのが天井が漆喰で固められている点だ。中央の蛍光灯が設置されている場所には、円形の照明の台座も残っている。

紀勢本線・紀伊浦神駅、無人駅となり塞がれた窓口跡

 無人駅となり出札口と手小荷物窓口は閉じられていた。出札口はシャッター付きとなりカウンターも新しいものに替えられていた。紀伊浦神駅が無人化されたのが1985年。そして30年近くも、ずっとシャッターは閉じられたままなのだろう…。

紀勢本線・紀伊浦神駅、津波時の避難ルートの掲示

 待合室の壁には津波の避難経路と場所を標した紙が掲示されていた。今回、紀勢本線で下車した駅では、このように避難経路を掲示していたり、駅の海抜を標した表示があったりと、津波への警戒を呼びかける表示が目立ったのも印象的だった。東日本大震災を目の当たりにし、多くの区間で海が近い紀勢本線沿線の街では、特に危機感が強いのだろう。

駅前へ…

紀勢本線、那智勝浦町の紀伊浦神駅前

 駅前はのどかなローカル線らしい雰囲気だ。駅は少し奥まった入り江近くに立地する。駅前を少し歩いただけでは海の気配は感じられない。

那智勝浦町、紀伊浦神駅近くの街、魚を干している

 だけど駅前を歩くと、サンマや小魚を盛大に並べ天日干ししている干物店があり、海の幸の香りがほのかに漂う。ああ海に近いんだなと実感…

紀伊浦神駅、紀勢本線この辺の駅らしい狭いホーム

 さあ、もうすぐ列車が来るからもうホームで待ってようと思った。何げにホームにいると、中ほどでレールが埋まって所があって何だろうと不思議に思った。少し考えると、これはホーム切り欠いて作った構内通路の階段だったのだろうなと気付いた。この階段・通路跡と思われる所の行き着く先は駅舎改札口のほぼ正面だ。そして先程の「再確認」の赤文字…、それは構内通路を渡る際に注意を促すものだったに違いない。今でこそ、ホームと駅舎を行き来するには遠回りをしなければいけないが、駅員さんがいた頃は、少なくとも駅員さんは…、もしかしたら乗降客も最短経路の構内通路で行き来していたのかもしれない。

小さな疑問を解決し、すっきりした気分でこの駅を離れ、帰路に着いた。

[2013年(平成25年)1月訪問](和歌山県東牟婁郡那智勝浦町)

レトロ駅舎カテゴリー:
一つ星 JR・旧国鉄の一つ星レトロ駅舎