桜を求め石見の国を旅し、数年前の春に訪れた駅に再び降り立った。JR西日本・三江線の川平駅。島根県江津市にある無人駅で、昭和5年の開業からの木造駅舎が残っている。
そして、ゆっくり…ゆっくりと夜の帳が下りていった…
数年前の春、川平駅を三江線代行バスで通り、車内から見たこの夜桜風景に一瞬で心奪われた。駅に巡らされた提灯がぼうっと灯り、満開となった桜の大樹と木造駅舎を夜の闇の中に浮かび上がらせていた。あまたの提灯が灯る光景は、駅がまるで桜祭りでさざめいているかのよう。しかし、もう乗降客は少なくなってしまったのだろう… 誰もいない中、虚しいほどに華やかな桜と提灯は、侘しさを募らせた。そんな寂しげな光景にもまた心魅かれた。
その時から、いつかの春の日には必ず、この駅に降り立ちたいと思い続けていた。そして2011年の春、ようやく願いをかなえる事ができた。
この提灯は、川平駅周辺住民の方々が、毎年この時期に自主的に取り付けているとの事。これでも多い時の半分位の量の提灯とか。やめようかと思った事もあったけど、何とか続けられているとの事だ。
この幻想的な夜桜風景が見られるのは、住民の方々の愛着があればこそと思うとより嬉しく、深く心に染みる心地だ。