国鉄型コンクリート駅舎の前の小さなロータリー
函館本線の上り列車が豊沼駅に進入した時、ふと目に入った駅前のロータリーが気になった。ロータリーには一部、お義理程度に柵が設置されていた。なぜ一部なのだろう…?
この「ロータリーに柵」という組み合わせを見て、JR日田彦山線の採銅所駅の池庭を思い出していた。今でこそ埋められ池の痕跡はほとんど失われているが、私が初めて採銅所駅を訪れた時、ロータリーは柵で囲われ、その中は水をなみなみと湛えた池があったものだった。
車内から駅の池庭・枯池を見て思いつきで予定外に下車する事はままあるが、初めからこの駅で下車するつもりだった。これは奇遇だ。必ず駅前のロータリーをチェックしなければと思いながら、列車から豊沼駅に降り立った。
駅舎を通り抜けロータリーを見に行くと、やはりと言うべきか… 池があった。ただ直径3m弱のロータリーは木々や草で占められ、ほんの一部に設置されているといった感じで、存在感はあまり無い。中の水は濁り、魚が泳いでる訳でもなく、ただ雨水が溜まっていたという感じだ。手入れされている様子は無く、実態としては枯池同然と言える。
あの柵は、まさに池のある部分にのみに設置されていたのだった。なぜこの部分にだけと中途半端に思えるが、黒と黄色という警戒色に塗られている所を見ると、車が誤って池に突っ込むのを防止するためのものだったのだろうか…。でも池以外の部分は突っ込んでもいいというものでもないので、やはり疑問だ。
そして、池と反対側の駅舎寄りからロータリーを見ると、縁を囲うブロックは崩れ、草木が乱れるように伸びてい、荒れているという印象だ。
池に植えられた木をよく見てみると、枝の所々に、しおれ色褪せた赤い実がぶら下がっていた。何と!これは…サクランボなのだろう。農園のように丹念に管理されていないので、枝は細くやせ細った感じがする。
それにしても、やっと春めいてきた北海道の5月という時期を考えると、この実はつい最近生ったのではなく、去年に実ったものが落ちる事無く冬を越してきたのだろう。収穫期を過ぎたサクランボの実は、腐って萎れながらも枝に残り、冬の寒さで冷凍保存状態となって今まで永らえてきたのだ。貴腐ワインをのぶどうや干しぶどうを思い起こさせる。しかし新しい季節がやってくると、摘まれる事無く、新たに生まれる新しい実に住処を譲るように地へ落ち、存外に長かった営みを終えるのだろう。
だけど、なんでこんな所にサクランボがと不思議な気分に包まれた。でも、このロータリーを赤い実が点々と彩っていただろう夏から秋頃にはは、この池庭が一年でいちばん華やかな時だったに違い無い。そして、その風景を見て笑顔を浮かべる地元の人々の様子が目に浮かぶ。もしかしたら自由に持っていて良かったのかも知れない。
[2013年(平成25年) 5月訪問](北海道砂川市)
豊沼駅訪問ノート
砂川市の南端に位置する。駅前は街外れの住宅地と言った雰囲気で、家屋がぽつりぽつりと建つ。
現在ではひっそりとした無人駅だが、立派すぎるほどの駅舎が残っている。高度経済成長期によく建てられた国鉄型と言えるのコンクリート駅舎だが、高床式なのが特徴的。昭和30年代に2度の豪雨による水害の被害にあい、1964年(昭和39年)、このような駅舎になったという。
かつては駅北西にある工場への専用線もあった。また約500m西にある北海道電力砂川発電所へ石炭を運ぶため、駅南にある貯炭場まで専用線が敷かれていた。貯炭場からはベルトコンベアーに載せ替え発電所まで石炭を運んだという。かつてはJR貨物の駅も置かれていたが、1990年(平成2年)に廃止となった。