JR九州・小野屋駅、レトロな駅風景がそこに…
久大本線の大分県内にある小野屋駅は、木の質感が露わで素朴な木造駅舎が現役だ。出入口の横には丸ポスト、そしてその横には、植込みのあるちょっとした庭園風の造りがなされている空間があった。
庭園風の空間の中には、小さな池が造られていた。ごつごつとした石で縁取られ、水面は多くの水草で覆われていた。葉っぱの隙間からは、金魚がスイスイと泳ぐ姿が見えた。
昔は、鉄道輸送に全く不要な、このような池が造られているケースは珍しくなかったと思われる。なぜなら、日本全国あちこち駅を巡っていると、特にローカル線の駅では、こんな池が枯上がっている光景をよく見るからだ。丸ポストと、木造駅舎に緑を添える池庭が残る小野屋駅は、昔ながらのローカル線の駅風景を今に留める貴重な駅で、眺めるほどに癒される心地がする。
池には、曲がりくねった木が寄り添っている。かなりの老木のようで、全体的にしわ枯れ、所々で傷口をさらけ出しているかのようなひび割れも目立つ。それでも尚、木造駅舎に…、池に寄り添っている様に目を魅かれた。
[2004年(平成16年) 9月訪問]
木造駅舎は失われど…
小野屋駅のあの木造駅舎が取り壊されという事をウェブ上で知った。残念に思いながらも、私がまず気になった事は、丸ポストとあの池がどうなったかだった。小野屋駅の駅舎建て替えをレポートしている個人サイトやブログはいくつか見たが、さすがに、池とか丸ポストとかちょっと変わったモノに興味を示している所は無かった。
2007年6月、九州を旅するのを機に、駅舎改築後の小野屋駅に行ってみようと思った。新駅舎はあの趣深い木造駅舎に敵うはずも無いから、全く期待はしていなかった。ただ丸ポストと、それ以上にあの小さな庭園と池がどうなっているかが気になった。他の駅の池のように、不要設備として、水が抜かれ乾き切りぽっかりと窪みだけが残ったのか…。或いは、新駅舎建築を機に、完全に整地され消滅してしまったのか…。
その日、小野屋駅に着いた時、日は既に沈み薄暗くなっていく中、小雨がパラついていた。
「ポチャ…、 ポチャ… 」
駅舎を抜けると、雨音に混じりながら、水滴が水面に落ちる音が駅前に静かに響いていた。
駅の風景はガラリと変わっても、あの時とほぼ同じ姿のまま、池は残っていた。周りの植木も、除去されること無く残っている。池の周囲に白い石が敷かれ、その周囲を長方形の植木鉢が並べられ、柵のように庭園を囲っている。駅舎は和風デザインのピカピカの新しいものになって、車椅子用のスロープがある所が現代の駅らしい。
旧駅舎時代は、まるで駅舎、丸ポストと庭園のどれもが突出することなく、それぞれが調和し懐かしい駅風景を作り上げていたのだが、新駅舎では庭園と駅舎両方が存在を主張しているいように思う。まあ、これは私の旧駅舎の記憶が強いゆえの主観に大きく左右されているのだろうが…。そのうち、この光景に慣れるのだろうか?でも、駅で思いがけずこのようなミニ庭園を見ると気分が和むし、駅が優雅な場所に思えてくるのは旧駅舎時代から変わらない。
相変わらず、あの老木もかくしゃくとしていた。
池は残ったが、残念ながら丸ポストの方は撤去されたようだ。今では駅舎正面の桜の木の下に、小さな四角いポストが設置されている。
池の中に島のように置かれていた石と、水草は除去されたが、金魚は元気に泳いでいた。私が約3年前に見た金魚達の子にあたるのだろうか…?
それにしても、なぜこの庭園と池を残したのだろうか。排水口からは池を維持していくという意志の表れのように、水がポチャポチャと注がれている。駅舎新築後もスロープの邪魔にもならないし、この趣あるミニ庭園を活かそうという事になったのだろうか…。あの木造駅舎と丸ポストが失われてしまったのはただ残念だが、新駅舎と池のあるミニ庭園が、新しい駅風景を作ってるのは、とても興味深い。
[2007年(平成19年) 6月訪問](大分県由布市庄内町)
~◆レトロ駅舎カテゴリー: JR・旧国鉄の失われし駅舎~