大津港駅(JR東日本)~消えた!?駅舎横にあった御堂のある池は…~



中国風のお堂がある池の記憶

 2006年1月、常磐線の大津港駅を訪れた。駅舎の外に出て左手に、池庭があるのを発見した。こんな風に駅の敷地内に池…(今やほとんどがその「跡」と化してしまっているが)があるのは珍しくなく、この日も木戸駅の凄いヤツなどいくつかの駅で見かけた。

 しかし大津港駅の池で目を引いたのが、池の中に中国風の赤い御堂がある事だった。オブジェであるが、なぜこんな所に中国風のお堂が?とても不思議に思った。

 ある日、大津港駅の駅舎がリニューアルされたと知った。リニューアル後の写真を見ると、池があった位置にはトイレが建っていた。まあ、昔の駅にはよくあった駅の池庭なんて、どんどん忘れ去られ枯れて、駅の建替えや改修で消えて無くなる運命。さもありなんと思った。

 2022年5月、東北旅行の行程を考えていて、常磐線の駅に訪れたいと思った。あのお堂のある池庭があった大津港駅はどうなっているのかと、何気にGoogleのストリートビューを見ていた。すると大津港駅一角の地面あたりにミニチュアの屋根のようなものがものが写り込んでるのが目に入った。
「あれ…?これってあの御堂!?」
駅舎リニューアルで無くなったとばかり思っていたが、どうなんだろうか…

 明るい内に訪れる事はできないかもしれないが、必ず立ち寄ってみようと思った。

確かめに16年振り大津港駅を訪れると…

 東北旅行の帰路ついでに常磐線を南下し、夕方6時頃、大津港駅に降り立った。

 真っ先に駅舎の外に出て左手を見るとやっぱり無い。しかしもう少し歩いてみると…

JR東日本常磐線・大津港駅、お堂のある池庭

あった!!
トイレのさらに左奥に池庭はあった。しかも赤い御堂もちゃんと残っていた。まるで池に悠々と浮いてるように建っているのが風流だ。

常磐線・大津駅の池庭にある六角堂

 こういう所に飾る模型としては、壁や屋根など精巧に作っているように思う。もしかしたら中にライトでも仕込んであって夜に灯るのではと思ったが、土台に固定するネジが見えただけだった。

常磐線・大津港駅構内にあるお堂のある池庭と古い歌碑

 池庭の周りには松など、木々が植えられている。もう少し成長すればより庭園らしい風情になるだろう。

 横には何か古い歌碑が設置されていた。以前は池の近くには無かったような気がするので、駅をリニューアルした際に、どこかから移動されたもかもしれない。

常磐線・大津港駅の池庭、注水路のようなもの?

 池の隅には注水路のようなものもあった。周りに注水用の水道は無いようなので、これで注水しているのだろう。でもこの小ささなら、バケツで水を汲んできてザッパーンと放り込んでも何とかなる気はする。

JR東日本常磐線・大津港駅舎近くにあるお堂のある池

 別の角度から眺めてみた。

 色々見ている内に奇妙な事に気づいた。池が新しそうなのだ。古いなら風化したり汚れたり、もうちょっと年季が入るものだ。しかし六角堂の土台や池の縁のコンクリートがまだ新しさを残し、敷き詰められた石も割ときれいだ。思えば駅舎を出て左手という記憶ともかみ合っていない。もしかしてリニューアルで池庭の場所も変わったのだろうか…


 そう思い、帰宅してからフィルムを引っ張り出しライトにかざして見てみた。リバーサルフィルムを見るライトボックスやルーペはもうどこかにいってしまって、細かい所は確認できない。しかし驚きの事実が解った。

 まず池の形そのものが以前とはまるで違っていた。現在はきれいな長方形を描いているが、当時は台形か円形のような形。あと御堂を載せている土台が以前は岩のようなものだった。

 これだけでも、似て非なるものと確認するのに十分だが、更に細かく言うと、背後に写り込んでいる跨線橋が今より遠くに感じる、お堂が違うなど…。今もある松らしきものも写っているが、以前は駅舎から見て松の手前に池があったようだが、今は松の奥になった感じだ。

 う~ん…、どうやら駅舎の隣にトイレを新設し、池は撤去されたようだ。そこで普通なら、駅の機能的には無くても全く困らない駅の池庭は、そのまま無くなるものなのだが、大津港駅では何故か場所と形を変え、池とその中にある六角堂まで再建した…。何故だろうか?池は駅員さんや地元の人々にとって余程愛着のあるものだったのだろうか?


 この六角堂、縁もゆかりもなくこの池にあるのではなく、駅から約3㎞の景勝地・五浦海岸の断崖に建つ六角堂がモチーフになっているのだろう。六角堂は明治時代の美術史研究家・思想家の岡倉天心が居宅のすぐ近く建てたもので、関東の松島と称される海が広がる風景の中、ひとり籠り思索にふけったという。9平方メートルの小さな堂は天心自身による設計で、法隆寺の夢殿、中国成都・杜甫の草堂などを模したという説がある。

 六角堂の近くは景勝地で、茨城県天心記念五浦美術館もある。それ程の観光名所を模したのなら、大津港駅のこの池庭も側に看板を出すなど、もっと行楽色を押し出してもいいように思う。知らずに来た人にはアピールになるし、観光客だったら記念写真を撮るのにちょうどいい。

大津港駅訪問ノート

JR東日本常磐線・大津港駅、新築のようにリニューアルされた木造駅舎

 開業は1897年(明治30年)2月25日の日本鉄道時代。当時は関本という駅名だった。国鉄発足翌年の1950年(昭和25年)5月10日に大津港駅へと改称された。

 駅舎は1954年(昭和29年)築の古い木造駅舎。しかし2013年3月にリニューアルされ、駅舎正面は格子のような木の柵で覆われ、その下の壁はレンガ風の新建材と、レトロ風のお洒落な装いに。ホーム側に古い駅らしさが少し残ってるかなという程度だった。

 六角堂が名所だけあって、車寄せは六角堂風。これはリニューアル前からだ。

茨城県北茨城市、大津港駅前のレンガの洋風建築

 池庭と共に大津港駅で印象に残っていたのは、道一本隔てた正面にあるレンガの洋風建築物。かつては日通の倉庫だったらしいが、2006年の訪問時は空家だった。その後、観光案内所が入っていた時期もあったようだが、2022年の訪問時はもぬけの殻に。どうやら撤退したようだ。

 駅舎リニューアルで下部がレンガ調になったのは、この建物に由来しているのだろうか…

[2022年(令和4年)5月訪問](茨城県北茨城市大津町)

レトロ駅舎カテゴリー:
一つ星 JR・旧国鉄の一つ星レトロ駅舎