桜のシーズンは「桜ダイヤ」で大賑わいの樽見鉄道
岐阜県、大垣‐樽見間を結ぶ第3セクター鉄道・樽見鉄道の沿線には、東海地方でも有数の桜の名所が2つあり、まさに桜ラインと呼べるようなローカル線だ。
1つが終点・樽見駅下車の樹齢1400年の薄墨桜だ。樽見鉄道にとって、薄墨桜の開花時期は約10万人以上の乗客、収入の約15%をもたらす大きな収入源だ。「桜ダイヤ」と称される特別ダイヤが組まれ、展望車「うすずみファンタジア」や、通常は朝の通勤通学時間帯のみ運行の客車列車も動員され、多くの観光客を運ぶ。また、乗換え客をあてにして、大垣駅では、お土産屋が臨時に出店したりもする。
そして、もう1つの桜の名所が谷汲山華厳寺だ。名鉄谷汲線が健在の時は、谷汲駅から徒歩で行けたのだが、2001年の廃止後は谷汲口駅が最寄駅となり、谷汲山まではバスで十数分だ(※1)。
なので少し早起きして午前中に旅立てば、樽見鉄道の沿線風景を楽しみながら、1日で薄墨桜、谷汲山という岐阜県内でも有数の桜の名所を二つ巡る事ができるの。
淡墨桜に劣らぬ桜の名所、谷汲口駅
ある春の日、桜の開花時期を狙って、大垣駅から樽見鉄道のレールバスに乗り込んだ。何年か前、薄墨桜を見に樽見鉄道に乗った時、満開の桜でピンク色に染まった美しい駅があったのが深く心に刻まれ忘れられなかった。是非、この時期にその駅に降り立ちたいと思った。だけど、記憶が曖昧で、それがどこの駅だったかは覚えていなかった。運転士さんなら知ってるだろうと質問すると、谷汲口駅だとすぐ答えてくれた。
増結され2両となったレールバスは、満員の花見客を乗せ、樽見へと出発した。
そして40分程で谷汲口に着いた。下車した乗客は十人程度と少ない。バスへの乗換えが面倒がられるのか、認知度が足りないのか、樽見駅から薄墨桜を目指す乗客数に比べれば、谷汲口駅から谷汲山に行く人の数ははるかに少ないようだ。
谷汲口駅に降り立つと、あの時と同じように、満開の桜が咲き誇っていた。駅舎やプラットホーム沿い、かつての構内側線跡に保存されている旧型客車オハフ502(旧国鉄オハフ33)のまわりなど、多くの桜の木が駅中に植えられている。桜で包まれた駅に佇んでいると、桜の園にいるような気分がしてくる。
樽見側にある踏切から駅の方を見ると、桜の門を通り抜けるように、列車が駆け抜けていく風景が見られる。薄墨桜、谷汲山が桜の名所なら、この谷汲口駅こそまさに“桜の名駅”で、樽見鉄道はまさに桜ラインと呼べるほど、桜を堪能できる路線なのだ。
桜の名所もそれぞれに素晴らしく、悪くはない。しかし、雑踏や宴会場と化して、のんびり心静かに桜を堪能できる状態ではない。今頃、薄墨桜の周りはさぞ賑やかなのだろう。それよりも、鉄道ファンの私には、こんなのどかな無人駅で、独り桜を愛でる方が心落ち着く。
[2002年(平成14年) 4月訪問](岐阜県揖斐郡揖斐川町)
追記1: その後の谷汲口駅etc…
うずずみファンタジアや、客車列車は廃車となってしまったため、残念ながら現在では運行されていない。しかし、桜のシーズンには「桜ダイヤ」が実施され、臨時列車の設定や、途中駅終点の列車の樽見駅までの延長運転など、列車が増発される。時刻など詳しくは樽見鉄道公式ウェブサイトまで。
そして11年後の2013年春、樽見鉄道を再訪し、桜満開の谷汲口駅を堪能した。
追記2: 谷汲口駅から谷汲山華厳寺へのバス
(※1) 谷汲口駅から谷汲山華厳寺へのバスは、民間バス会社による運行だったが、揖斐川町営による「揖斐川町ふれあいバス」による運行に代わった。しかし運転本数は著しく少なく、観光目的では使い辛い。但し、春の桜シーズンとその前後に、谷汲口駅-谷汲山間のバスが臨時運行され、樽見鉄道との接続も取っている。詳しくは下記リンク先へどうぞ。
揖斐川町公式ウェブサイト・公共交通から、揖斐川町コミュニティバスの項目へ。