八川駅 (JR西日本・木次線)~映画「砂の器」に出演した木造駅舎~



暑さから逃れるように奥出雲おろち号へ

 真夏の駅巡りの火照りを冷ますように、秘境駅・備後落合駅から木次線のトロッコ列車・奥出雲おろち号に乗り、ひと時の癒しを感じた。木次線の出雲横田駅-備後落合間の定期普通列車は、1日3往復の超閑散区間で、乗り鉄、駅巡りの旅の難所とさえ言える。

 しかし一部の時期は、臨時のトロッコ列車・奥出雲おろち号がダイヤの隙間を埋めるように走ってくれ大助かりだ。

 奥出雲の自然豊かな車窓を楽しみ、国道314号線の奥出雲おろちループや、出雲坂根駅到着前の3段スイッチバックといったダイナミックな風景も見応えがあった。出雲坂根駅では、運良く露店で昼食を買う事ができた。

 出雲坂根駅を出ると、もう少しで八川駅だ。買った昼食は急いで食べた。

八川駅に到着したJR木次線・奥出雲おろち号

 そして、涼しく快適な車内に後ろ髪を引かれつつ席を立った。八川駅のプラットホームに出た瞬間、うだるような暑さが体にべったりとまとわり付いた。

改修されたが深い味わいを留めた木造駅舎

JR木次線・八川駅の木造駅舎、古びた木製改札口

 改札口には昔ながらの木製改札口が残っているのが目に入った。使い込まれて古び、皺のように木目が浮き出ている様が、この駅の年月を物語っている。

JR木次線・八川駅、駅名標と実は可動式の木製改札口

 木製改札口が残っている駅はまだあるが、この駅のものは何と現役時さながらに完全可動するのに驚かされた。列車の発着が無い時は改札口が開き、乗客がプラットホームへの進入するのを塞ぐ柵になる。そして改札時には、両側の柵を折り曲げ、囲いを作るような形となり、駅員さんがその中に入れば改札口となる。利用者数などを考慮し駅の規模が小さいため、常設のしっかりとした改札口は必要無かったのだろう。機能的に出来ているものだなと感心。

JR木次線・八川駅の木造駅舎、昔の趣の待合室

 そして待合室の中に入って更に驚かされた。改札口だけでなく、出札口、天井、ベンチなども見事に木の造りのまま残され、使い古された年季感じさせる空間だったからだ。これぞまさに昔の木造駅舎の待合室だ。タイムスリップしたような昔懐かしい感覚と、日本にまだこんな駅があったのかという驚きと感動がひしひしと胸に迫り来る。

 あまりに昔ながらの雰囲気を留めた待合室に、昔訪れ同じように感銘を受けた山陰本線の湯里駅の思い出が甦ってきた。湯里駅の木造駅舎は残念ながら失われてしまったが、この駅はいつまでもこのままの姿でいてほしいものだ。

JR木次線・八川駅の木造駅舎、出札口(切符売場)

 木目浮くカウンターや金銭受けの台など、切符売場も昔の造りのまま現役だ。無人駅となり使われなくなった窓口がそのまま残っている駅が多い。しかし、この駅の窓口が「出札所」のホーロー看板を高々と掲げてられていまだに使われいる様は、いっそう味わい深く映る。

 簡易委託駅で、内部は人が出入りしている形跡はあった。しかし、私が滞在した午後の1時間半程度の間には誰も居なかった。

JR木次線・八川駅の木造駅舎、一部改修された窓口

 手小荷物窓口だった部分だけ大きく改修され、サッシ扉になっているのが少々惜しい気はする…。しかし、こんな大きな改修をものともしない程、八川駅の待合室は非常に味わい深い雰囲気があるのが凄いなと思う。

 旧駅務室の中には「歓迎 野菜の駅やかわ…」などと書かれた立て看板があった。駅舎は地元のイベントなどで使われているのだろう。

JR木次線・八川駅の木造駅舎、造り付けの木製ベンチ

 長い間、使い込まれた造り付けの木製ベンチにはニスがぶ厚く塗られているのが目を引く。テカり過ぎな気はするが、大切に手入れされているんだなと思うと嬉しい。窓枠は新しいものに取り替えられているが木製で、待合室の雰囲気を壊してはいない。

JR西日本木次線・八川駅、開業の昭和9年以来と思われる木造駅舎

 八川駅の駅舎外観は、まるで新築のように改修されていた。ウェブ上で見た八川駅の駅舎は、ボロさが目立ち荒んでる感じがし大丈夫だろうかと思ったが、一安心した。新築同然と言えど、昔の趣は十二分に尊重されている。

 駅の開業は1934年(昭和9年)11月20日で、その頃は終着駅だったという。おそらくその当時からの駅舎なのだろう。そして備後落合駅まで延伸したのは1937年(昭和12年)12月12日の事だ。

 松本清張の「砂の器」に登場した駅として、同じ木次線の亀嵩駅はよく知られている。しかし1974年(昭和49年)の映画版「砂の器」では、八川駅のこの駅舎が亀嵩駅として使われたという。何でも、前年の1973年(昭和48年)に亀嵩駅で開業したそば屋の看板が邪魔だったのと、崖が迫りカメラが引けなかったという事情があり、八川駅に白羽の矢が立ったそうだ。

JR木次線・八川駅の木造駅舎、建物財産標

 木製の駅名看板は、右読みで「駅」の文字は旧字とレトロな趣だ。駅舎改修後数年で、その頃に新調されたのだろうか?新しい駅名看板はどこか瑞々しさ感じさせる。玄関縁の木枠が僅かに丸みを帯びた形状なのが面白い。その木枠には黒い建物財産標が取り付けられたままだ。建物財産標はいろいろな種類があるが、黒い鉄製のこの財産標は特に古そうな部類だ。「鉄 八川駅本屋○号 八川駅 昭和○年…」と箇条書きされいるが、年月など肝心の数字の部分は風化して読み取る事が出来なかった。

JR西日本・木次線・八川駅、枯れた池のある庭園

 駅舎に向かって右手には枯れ池が残されていた。水こそは無いが、木々はきれいに整えられて荒れた感じはしない。誰かがたまに手入れするのだろう。

 駅前には国道314号線が通り、駅への入口にはそば屋もある。周囲は水田が多くあちこちに民家などが散見されるのだかな雰囲気だ。

 駅近辺に飲料の自動販売機が無いのは予想外だった!日本では閑散としたローカル駅であっても、駅やその近辺で飲料の自動販売機を見つけられる場合がほとんどだ。駅での滞在時間が長いとつい手が伸び、待合室やホーム上で一息つく事も多い。暑い夏は冷たい飲み物にありつけるのは有り難い。駅前のそば屋で飲み物だけ買うという手もあったのだが、そこまする程でもなく、少し喉が渇き気味の気分で過ごした。

JR木次線・八川駅、駅舎ホーム側の丸太の柱

 駅舎ホーム側の柱は木製で円柱状に整えられている、根元はコンクリートの台座と更に鉄で固められ補強されているのが目を引く。

JR西日本木次線・八川駅、廃プラットホーム

 かつては2面2線の行き違いができる構造だったが、駅舎から遠い方のホームはもう使われていなく、レールは剥がされ、短かめのホームは草生している。

木次線キハ120形の普通列車、八川駅に到着

 いつの間にか、空は曇りがちになり、遂に強い雨が降り出した。今回のは旅では天気予報は晴れマークばかりで、まあ大丈夫だろうと思い、面倒で傘を持ってこなかったので戸惑った。強く雨が降る中、出雲横田行きの列車が入線してきた。

[2012年(平成24年) 7月訪問](島根県仁多郡奥出雲町八川)

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 三つ星 JR・旧国鉄の三つ星駅舎


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