寺内町の木造駅舎
余った青春18きっぷの消化試合で、あてもなく近辺のJR東海の列車を乗り歩いていた。亀山駅から紀勢本線の下り列車に乗り、ふらりと一身田駅に降り立ってみた。

2面2線のホームは長く幅も広く、両線の間には中線が外された形跡までもある。「本線」の風格を感じる構内で、かつては賑わっていただろう事は偲ばれる。
しかし第3セクター鉄道・伊勢鉄道が開通し、四日市‐津間を短絡すると、従来のルートの、関西本線との分岐駅で紀勢本線の始発駅でもある亀山経由は遠回りとなってしまった。結果、メインルートから外れた紀勢本線の亀山‐津間ローカル区間に凋落してしまった。今では数両のディーゼルカーが、一時間に一本程度やってくるのみだ。

駅舎は回廊のような軒を備えるやや大型の木造駅舎で、和風に改装され、味わいのある雰囲気を放つ。1923年(大正12)年築との事。木造の車寄せに、「一身田駅」と描かれた木の駅名板が掲げられ、駅舎にレトロな趣きを添えている

和風の趣き溢れる格子窓にレトロな丸ポストが映える。軒や軒を支える柱も木のままの木造駅舎そのものの造りで、味わい感じる。
しかし、やや行き過ぎたと思われる改修のため、よく見ると〝味〟というものは今一歩になったしまった感がある。木の窓の格子が新しめなのはいいとして、外壁が新建材なのは、正直、興醒め…。近付いて見るとどうしてもわかってしまう。外壁も木材で改修されていればと惜しく思う。
とは言え、全景を見渡すと、和風の造りを取り入れた、どっしりした感じがする木造駅舎は、やはり風格を感じさせとても印象的だ。

駅前に残る日通の建物はハイカラな洋風だ。よく見ると、代理店のような形だろうが今でも現役で、まさに昔ながらの駅前風景がそのまま残っている。
列車まで時間があり、駅から少し歩いてみた。江戸時代を思わせる昔ながらの古い建物が多く残る印象深い町並みだった。一身田駅の駅舎が和風に改修されているのも、この街並みにあやかってなのだろう。
一身田は専修寺を中心に発展した寺内町で、寺内町を囲っていた環濠が、現在でもほぼ残っている事は特筆に価する。その歴史は15世紀半ばに始まり、環濠が形成されたのは、それより後の16世紀末と言われている。いつか改めて町並みを見に再訪したいものだ。
一身田寺内町へは、紀勢本線の一身田駅だけでなく、伊勢鉄道の東一身田駅が1km未満、近鉄名古屋線の高田本山駅が1kmちょっとと、各駅からも結構近く、鉄道が意外と充実している所だ。行きは伊勢鉄道、帰りは近鉄線と言った、乗り鉄も楽しめながら訪問できるのは、レールファンの私には大いに興味深い。
[2002年(平成14年) 1月訪問]
~◆レトロ駅舎カテゴリー: JR・旧国鉄の一つ星駅舎~~
一身田駅基本情報
- 会社・路線名
- JR東海・紀勢本線
- 駅所在地
- 三重県津市大里窪田町861
- 駅開業日
- 1891年(明治24年)8月21日
- 駅舎竣工年
- 1923年(大正12年)
- 駅営業形態
- 無人駅 (※2011年10月1日より。訪問時は簡易委託駅。)
- その他
- 一身田寺内町については『一身田寺内町の館』など外部サイトまで。