常願寺川沿いに建つくすんだ無人駅
いくつもの富山地方鉄道の木造駅舎を訪れてきたが、まだ未訪で気になっていた立山線の千垣駅で降り立った。平行する県道6号線と、常願寺川の間に立地する駅だ。立山へあと少しとなった鉄路は、ここまで来ると景色は山深くなり、駅前とはいえ人家もまばらだ。遠く先には、まだ雪を被った山々が見えた。
今は1線分のレールと、プラットホームの上に駅舎と小さな倉庫があるだけの棒線駅だが、かつては反対側にもホームがあったようだ。枯草や枯木に埋もれながらも、その痕跡を色濃く残している。
木造駅舎は古色蒼然とし、趣きある佇まいだ。かつては明るいクリーム色に塗られていたようだが、年月にそぎ落とされくすんだ色彩と化し、少々、荒れた雰囲気だ。
駅舎の外に出た。斜面の狭い土地を切り開き建てられた縦長の小さな駅舎で、右横の妻面に出入口が設けられている。道路からは階段を数段下りなければいけない。道路と常願寺川に挟まれ、余裕の無い敷地に何とか駅舎を建てたのだろう。
これと言って際立った造りは無い地味な建物で、ただ古色蒼然とした佇まいが印象的だ。
こんな小さな駅でも、1923年(大正12年)、富山県営鉄道として横江駅(後の上横江駅、廃駅)から延伸開業した時は終着駅だった。千垣駅から先にレールが伸びるのは14年後の1937年(昭和13年)だ。
道路側の壁の多くがトタン板で覆われ、窓までも板で塞がれている。県道6号線を飛ばすドライバーからは、ただの廃屋にしかか見えないかもしれない。
千垣の集落中心部は、駅から西に約数百メートルの所にある。駅周辺には、西側に家屋が少し見える程度で、駅は集落の外れにあるといった感じだ。これと言ったモノは無く、ちょっとした秘境駅の趣きさえ漂う。
駅舎をよく見ると、道路川の屋根側面に「千」「垣」「驛」と、一字毎に板に書かれ壁に埋められた駅名の看板があり、ここが駅だという事を主張しているかのようだ。駅が旧字で、右読みなのがレトロさを感じさせる。かなり古い表記で、戦前からのものなのだろう。
隣の有峰口駅にも、 同じような駅名表記がある。そちらも古いもののようで、「小見駅」と1970年(昭和45年)の改称前の駅名のままだ。
終着駅だった頃の面影??
少し周辺を歩いてみようと、道路を立山方に向かって歩いた。
緩い坂道を上ると、すぐに立山線のレールを見渡せる位の高さになり、レールを剥がされた番線や廃ホーム跡を見下ろせた。
廃ホーム跡の背後には、枯れ草で覆われた土地が広がっていた。その中にもホーム跡らしき構造物があるのに気付いた。廃ホームは一部が途切れている箇所がある。この辺りにも分岐ポイントがあり、こちら側からも奥の側線ホームに出入りしていたのかもしれない。
これは…、駅本屋こそ小さいが、かつてはかなり広い構内を有していたようだ。千垣駅を出た列車は、有峰口駅に至る手前、常願寺川を鉄橋で渡る。1923年(大正12年)から1937年(昭和13年)の14年間、立山線は千垣駅から先に進む事ができなかった。それは、当時の技術では橋を掛けるのは難工事で、旅客駅としてはそれ程重要ではなくても、延伸工事の拠点として、需要な駅だったのではないだろうか…?もしかしたら延伸後も、1955年(昭和30年)、千寿ヶ原駅(現:立山駅)へと全通するまで、工事の拠点として機能したのかもしれない。
厚い雑草でほぼ埋め尽くされたこの地には、かつて詰所や宿舎、車庫、倉庫など色々な関連施設があったのかもしれない。雑草を全部取り除いて痕跡を確認したいものだ。
しばらくすると道路は右にカーブし、常願寺側を渡る芳見橋に至った。右側に立山線の千垣橋梁が見えた。川面から28mの高さの鉄橋は柵も無く、丈夫なれど細い鉄骨で汲まれた鉄橋は、素人目には綱渡りように脆く危なっかしく映る。今までこんな所を渡っていたのかと、身震いする心地だ。もちろん安全なのだが。
立山線延伸の1937年(昭和12年)に竣工した千垣橋梁は、2013年(平成25年)に土木学会の選奨土木遺産に認定された。
千垣橋梁の反対側を向くと、常願寺川の流れの向こうに、立山連峰の山々がそびえていた。雄大な眺めにしばし見入った。
そして、対岸すぐの所に、隣の有峰口駅があるのが見えた。ここから歩いてもたいして掛からないだろう。2回訪れた事がある懐かしい駅の姿だ。
駅に戻り待合室で一休みだ。壁の大部分が木目プリントのベニア板で改修されているが、全体的に昔のままの趣を留めいてる。古さはあるものの、掃除と補修は良くされていて不快さは無い。出札口も板一枚で塞がれているが、元の造りを残していそうだ。
窓は外から見ると塞がれているが、元の造りを残している。何も塞がなくてもいいのにと思うのだが、積雪で割れるのを防ぐついでに、年中付けっぱなしなっているのだろう。
造り付けの長椅子は古い木製で、すっかり使い古され幾重もの木目が浮かび上がっている。座ろうとしたが、ガラス窓が、背中に当たりそうで、一瞬躊躇した。そのためか、窓の手前の背中の位置に、柵が設置されている。
駅前にマイクロバスが停車した。2kmほど東の、立山博物館や雄山神社、登山者向けの山荘などがある芦峅寺地区へ行く立山町営のバスだ。時刻表を見ると、1時間半~2時間に1本あり、こんな小さな駅に乗り入れるバスとしては本数は多い方だ。但し日曜日は運休のようだが…。
駅にはいつの間にか、30代位の1組のカップルがいた。バスの乗客で、この駅から列車に乗るのだろう。
やってきた列車に乗り千垣駅を離れた。車両は元京阪3000系電車の10030系電車だった。
千垣駅の1日の平均利用者数は、2015年度だと113人と意外と多く、2004年からほぼ変わっていない。ローカル線の小駅は、少子高齢化の影響で2000年代前半から利用者数が大きく減少している駅も多い。山間の寂れた駅と侮っていたが、意外と健闘している。地元住民の他、季節による増減はあるが、バス利用の登山者や観光客の利用が一定数あるのだろう。
観光客を立山へと繋ぐ千垣駅。富山地鉄の魅力をアピールする駅として、駅を趣きある雰囲気を尊重し、もう少し奇麗に改修できればと思う…
[2017年(平成29年) 4月訪問](富山県中新川郡立山町)
~◆レトロ駅舎カテゴリー: 私鉄の二つ星駅舎~
千垣駅・基本情報+
- 鉄道会社・路線名
- 富山地方鉄道・立山線
- 駅所在地
- 富山県中新川郡立山町千垣156
- 駅開業日
- 1923年(大正12年)4月20日、富山県営鉄道の駅として。
- 駅舎竣工年
- ??
- 駅営業形態
- 無人駅
- その他
- 立山町営バス(千垣駅発着の芦峅寺線の時刻も。)