紀伊清水駅 (南海電鉄高野線)~藤の花びら舞い散る枯れた池~



プラットホーム片隅の存在感ある池庭跡

 NHKの熱中時間に出た時、ロケ中に紀伊清水駅の枯池の存在をたまたま知って、予定外にこの駅で収録する事になった。その時、収録という事で(笑) 遠慮があったので、ひとりでもう一度心ゆくまで見てみたいと思っていた。そして、藤棚も印象的だったので、藤が咲いていそうな時期を狙って再訪してみた。

南海高野線・紀伊清水駅、下りホーム端構内踏切横の藤棚と池庭跡

 紀伊清水駅のプラットホームは上下線ホームが分かれた2面2線の構成で、池庭跡の位置は駅舎に面していない下りホーム極楽橋寄り端、構内踏切のすぐ側だ。その上を藤棚が覆っている。駅のこんな場所に藤棚まで作るという手の込んだ池庭を作ったのは、踏切待ちの間、少しでも楽しんでもらおうという駅員さんの気持ちがあったのだろうか…?

南海高野線・紀伊清水駅構内、岩や灯篭が配された枯池

 枯池の側まで来て上から見下ろしてみた。ちょうど角の所にあり、L字状のユニークな形状をした池だ。カーブ部分には岩の板が橋のように掛けられ、池の中には燈篭まで設置されている。土地を上手く使って情緒溢れる池庭を造ったものだなと感心。

 背後は畑になっている。どうやら私有地のようだが、どこからどこまでが駅の敷地なのだろうと思う。

南海高野線・紀伊清水駅構内、プラットホームと廃れた枯池

 枯池の反対側に回って、枯池とホームを見渡してみた。

南海高野線・紀伊清水駅、枯池の中にある灯篭

 燈篭はどっしりと池の底に根を下ろしているかのように鎮座している。中をよく見てみると、電球がセットされたままだ。燈篭からは電気コードと思われる紐が伸び、背後には注水口も見える。電球は埃や土を被り薄汚れている。池が枯れてからの年月を感じさせる。さすがにもう灯らないのだろう。

 この池庭と藤棚は下りホーム側にあるが、かつては夜になると、燈篭が藤の花をぼうっと浮かび上がらせ、水面が灯りを反射しゆらゆら揺れ輝いていた事だろう。そしてそんな風流な風景は上りホームの乗降客たちも強く目をひきつけた事だろう。そういう光景を見る事が出来た地元の利用者の人々をうらやましく思った。もちろん構内踏切周辺を照らすライトとしての役割もあったのだろう。ああ、何と手の込んだ味わい深いライトなのだろう!

南海高野線・紀伊清水駅の池庭跡、散り落ちた藤の花びら

 藤は咲いていた。しかし、満開にはやや遅れてしまったようだ。枯池や周りに降り注いだ花びらには、紫に混じり、枯れた茶色もたくさん混じっていた。

[2008年(平成20年) 5月訪問](和歌山県橋本市)

紀伊清水駅訪問ノート(駅舎etc…)

南海高野線、大正の開業以来の趣き深い木造駅舎が残る紀伊清水駅

 1925年(大正14年)3月15日の開業時は清水駅という駅名だったが、僅か12日後の3月27日に現在の紀伊清水へと変更となった。開業以来の木造駅舎が現役で、正面の軒を支える部材の方杖が目を引き、駅舎に寄り添う松が情感を深める。

 2009年(平成21年)に、学文路駅や橋梁など、他の高野線の施設と共に、近代化産業遺産に指定された。

 訪問時は有人駅だったが、2010年(平成22年)4月1日から無人駅となった。また駅舎内部に売店もあったが、いつしか閉店となってしまったようだ。

~◆レトロ駅舎カテゴリー: 二つ星 私鉄の二つ星駅舎