新築のごとく、でも駅舎の歴史を語る…
世の中には、実年齢よりもかなり若く見える人がいます。美魔女といって、40越えなのに20代のように見える脅威的な若作りな女性が話題になる事も。
だけど、どんなに若く見えても、年齢は首や手に出やすいとよく言います。
同じような事が、古い木造駅舎にも言えます。
建てられて7~80年を超えた木造駅舎は、意外と現代の世にも残っています。しかし、施設維持のため多かれ少なかれ改修されています。中には外壁がすっかり新建材で覆われるなど、新築同然の姿になり、
「コレ本当にそんなに昔に建てられたの?」
と思わせる駅舎も少なくありません。
しかし、そんな木造駅舎も、ある部分を見ると
「ああ、やっぱり古く、年月を感じるなぁ…」
と改めて実感させられる事もままあります。その部分とは…
軒や付け庇部分…特に支えとなる木の柱です。大きく改修された木造駅舎も、なぜかこの部分は古い木の構造のまま残されている事が多くなっています。
写真は元国鉄・JR北陸本線で、現在は第三セクター鉄道に転換されたIRいしかわ鉄道とあいの風とやま鉄道の境界駅の倶利伽羅駅で、前者の管理駅となっています。
木の柱は風化し木目が浮きでているのが、塗装越しにもわかります。しかも悲鳴を上げているかのように、縦に大きなヒビが入っているのが、劣化を物語っています。柱の上部は古さを感じますが、下部はフラットでつるつるな真逆の質感。劣化が著しい部分を切り取り、新しい木材を継ぎ足すという補修が施されています。
柱の一部がシワシワなのに対し、軒の庇部分の木材は年季は入っているものの、柱ほどでもないように見えます。柱は風雨に晒されるけど、庇部分は瓦やトタンに覆われ、直接、風雨には晒されないからかもしれません。
そんな倶利伽羅駅ですが、木造駅舎は駅開業の1909年(明治42年)の築。何と百年越え。しかし板張りは新しく取り替えられ、内部も大きく改修され、言われても明治築とはなかなか思えないでしょう。レトロ木造駅舎風の新築駅舎と映ります。
年季が入った木の軒や車寄せ
もうちょっと見ていきましょう。
写真はJR西日本・山陽本線の四辻駅。
駅舎正面の車寄せとその柱も、古いものがそのまま使われ続けている駅が多く、そんな駅では、改修されながらも、古い木造駅舎と主張しているかのよう。古びた木の柱はもちろん、車寄せ裏側の木の質感もたまりません。
JR東海・武豊線の半田駅。半田駅は明治築の現役最古の跨線橋とレンガ造りのランプ小屋がある事で知られていますが、実は駅舎も1912年築…なんと明治42年築の木造駅舎。武豊線の主要駅の一つで、すっかりリニューアルされ、そこまでの古さは感じさせません。
駅舎正面左横のかつては降車用の改札口があったと思われる部分は、昔、木の改札口がが並んでいたのでしょう。改札口はもうありませんが、上屋を支える柱は古い木製のまま。まるで往時の面影を伝えるかのような味わいある駅風景。
年季が入った柱には、さりげなくしゃれた洋風の装飾が施されています。もしかしたら1回位は交換されているかもしれませんが、それでも大いなる歴史感じさせる逸品。
武豊線は、愛知県下初の鉄道路線で、現役最古とされる駅舎がある亀崎駅が有名ですが、半田駅のこんな所にも歴史感じさせる駅舎がひっそりと残っていたとは驚きです。
JR西日本・関西本線と草津線の乗換駅の柘植駅。外壁は改修されていますが、古く素朴な造りを残した木造駅舎が残り、植栽が美しい池庭跡も、昔ながらの駅の味わいを添えています。
しかし、この車寄せ部分をよく見ると、溢れ出る木の質感に圧倒されます。厚く塗られたペンキ越しに幾重もの木目が浮かび上がっています。この部分だけを見ると、まさに純木造駅舎。
JR東日本・奥羽本線、津軽新城駅。駅開業の1894年(明治27年)築という、とてつもなく古い木造駅舎です。しかし新建材の壁は、水色と白のストライプが入って古き良き趣はいま一つと言うのが第一印象。
すり減り刻まれた木目と言い、ちょっとした装飾と言い、ホーム側の軒を支える柱が、レトロな味わいを放っていました。津軽新城駅では柱部分こそははそのままですが、軒部分は新しいものに換えられていました。
こちらはJR西日本・津山線の玉柏駅です。この駅舎は元々、もっと大きかったのですが、左側約半分が取り壊され、半分の大きさに減築されました。しかし取り壊し部分には軒が再現され、古き良き木造駅舎らしい雰囲気に仕上げられたユニークな駅舎として知られています。
屋根や柱の木材は、昔からの造りが残され、改修駅舎とは言え、駅の歴史を感じさせました。
駅舎左側…、減築された側を見てみると、新しい木材で屋根や柱が組み上げられていました。木材の角はまだ鋭く、面はつるつる。切り出されたばかりの木の香りが漂ってきそうな真新しさを伝わってきます。古い部分との差は歴然。かつてはどの木造駅舎もこんな風だったんだなと、あまたの木造駅舎の出来たばかりの姿を想像していました。
「時がもっと過ぎると、この部分はどういう質感に変わってゆくのだろう……」
今度、玉柏駅を訪れる時の楽しみができました。