たった5分で強い印象を残した駅
津山線の岡山行きの列車に乗った時、5分程度、玉柏駅で列車交換待ちの時間があった。駅舎ホームでの停車だった。幸運と思い、それなら駅舎でも見ようと車外に出た。
合理化で無古さ漂う木造駅舎が現役だ。しかし、明らかに小さい。無人駅となって久しく、改修の際に不要な駅事務室部分が削ぎ落とされ、待合室部分のみを残し、半分の大きさに改修されたのだろう。
しかし、駅舎を一周する見事な軒が造られている。小振りな駅舎が、レンガ色の瓦を敷いた屋根をまとっている様は、大きな傘を広げているかのようで、駅舎のコンパクトさがより強調されている。
改修前の玉柏駅は実際に見た事が無い。しかし、今でも昔ながらの木造駅舎の趣きは十分に残されているいると感じる。原形を大きく失ってはいるが、改修後の方が、よりユニークだ。
玉柏駅の1日の利用者数は約100人位との事。この位なら、この大きさでちょうどいいのだろう。でも、ローカル線で次第に勢力を伸ばしつつある、味気無い簡易駅舎に建て替えるという選択肢もあったはずだ。新築よりコスト面で有利なのかもしれないが、あえて古い駅舎のイメージを保ったまま改修するのは英断と言うべきで、苦心したものだろう。
大きな軒の下には、自転車が多く止められている。駅により近く、雨に濡れない所に自転車を置きたい気持ちはわかる。この軒は駅の趣きを醸し出すのに一役買っているが、もし駐輪場としての利用を想定して、軒を復元したのなら凄いなと、実用と趣きを両立させた設計者のアイディアに対して感服するしかない。なにはともあれ、玉柏駅は古い駅舎改修の好例と言えるだろう。
対向列車がやってきたので、もうこの駅を離れなければいけない。それでも印象は深く刻み込まれた。今度はじっくりと見てみたいものだ。
[2003年 (平成15年) 8月訪問](岡山県岡山市)
玉柏駅再訪。今度は時間を取って…
2011年7月に玉柏駅を約8年振りに再訪した。偶然、見る事ができた前回とは違い、今度はじっくり見るつもりだ。
駅構造は2面2線の相対式ホームだ。国鉄末期に1面のみの棒線駅化されたが、津山線の高速化事業により、もう1線が復活し、津山線の駅舎側の2番線が1線スルー化されている。
反対の1番ホーム側から駅舎を見てみた。ほぼ正方形の床面で、駅舎をぐるりと一周、各方向に同じように軒が巡らされているため、一見すると、どの方向からでも似たような左右対称…、というか全面対称といったような印象を受ける。
そして、正面にまわり、8年振りに玉柏駅の木造駅舎に対峙した。駅が開業した1898年(明治31年)以来の駅舎との事。改めて上手く改修したものだと感慨さえ覚える。形態的に、本格的な旅客駅舎から簡易駅舎に生まれ変わったと言えるのだろう。
駅舎右横の植え込みのある一帯に、枯れた池の跡が残っていた。いつまで水が注がれていたのだろうか…
駅舎の内部に入ってみた。今では待合室の機能しかなくシンプルそのものだ。
外観は昔の趣がふんだんに再現されているが、こちらは天井から床まで徹底的に改修され、昔の木造駅舎らしさは残っていないのはやや残念。
駅舎のホーム側に立ち眺めた。あっけないほど短い駅舎に、ミニチュアの木造駅舎に居る気分だ。
壁の木材は部分によっては新しく張り替えられている。しかし、木製の作り付けベンチは使い込まれた質感が目を引きつける。明治の開業以来…、そうでなくても何十年という長い年月、この駅の乗降客が座り使い古したベンチだ。
軒や柱の古びた質感が目に入った。改修以前からそのまま使い込い継がれている部材なのだろう。
だが、駅舎正面左側部分の軒は、木の新しさをまだ残している。この違いこそが、今の姿に改修される際、削ぎ落された側なのだと私に教えてくれた。
年月に削られていない新品の木材は、こんなに真っ平らで角が取れていないものなのだ。否…、これでも10年の時は、この軒の木材に少しの深みを加えたのだろう。でもあどけなさを残るような明るい茶色は、深く渋みが刻みこまれたような他の部分の軒とは明らかに違う。
この新しさ残した木の部分が深みを増した頃、また玉柏駅を訪れたいものだ。
[2011年(平成23年) 7月訪問]
~◆レトロ駅舎カテゴリー: ~JR・旧国鉄の一つ星駅舎~